05 大願を叶え隊。~集結した六人の魔道士~
場所:ポルール
語り:小鳥遊宮子
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――ターク様、行っちゃった……。
突然、ガルベルさんに抱えられ、飛び去ってしまったターク様の消えた方向を、私、小鳥遊宮子は、ポカンとして眺めていた。
「だ、大丈夫だ。ミヤコ君。ガルベル様だけでは少し不安だが、フィルマン様が一緒なんだからな。何も問題は起きないはずだ」
「は、はい……」
私の不安げな顔を見て、緑の風を纏いながら、私のとなりに降り立ったイーヴさん。私を安心させようと、声をかけてくれている。
だけど、フィルマンさんは、ターク様のお屋敷を破壊しながら、キノコを届けに来たお爺ちゃんだ。何も問題が起きないなんて、とても考えにくかった。
――むしろ、余計だめなんじゃ……?
――まさか、本格的な戦争が始まるなんてことは……無いよね……?
水の国と呼ばれるベルガノンは、大陸の南に突き出した半島のような形をしている。
そして、北西にはクラスタル、北東にはオトラーと、大きな二つの国と隣接しており、度々侵略戦争を仕掛けられてきた。
それでも懸命に応戦し、なんとか持ち堪えてきたのがベルガノンだ。
かなり不安ではあるけれど、その戦いに毎度大いに貢献してきた二人が向かったのだから、信じて待つしか無いだろう。
――ターク様が戻るまで、精霊さん達の話を聞いてみたいな。
――何か役に立つ情報が聞けるかも知れないし、達也の居場所もわかるかも知れないわ。
――アクレアさんやゾルドレさんに会えないかな?
そう思った私だけれど、ルカラの平原や湖には、それなりに魔物が出るらしい。
巨大な魔獣とかではなく、街から出ればどこにでもいるような魔物だけれど、泥団子しか飛ばせない私には、やはり危険だ。
私は仕方なく、研究室の方へ引き返した。
△
坑道の入り口に戻ってみると、兵士達による厳戒態勢が強化されていた。ネドゥが入ったカプセルや、精霊狩り達の檻が、坑道から運び出されようとしているところだ。
慌ただしく駆け回る兵士たちの様子を、興味深そうに眺めているマリルさん。彼女の側にはエロイーズさんが、キリリとした顔つきで立っている。
マリルさんは真っ赤なドレスの上に、暖かそうなモコモコのケープを羽織っている。こんな寒い街の人混みの中にいても、本当に華やかだ。
ポルールで一緒に戦った頃に比べると少し背が伸びたのか、前よりどことなく、大人っぽくなった気がする。
レムスルドラでは大活躍だったと、ターク様が言っていた。彼女は今も、英雄の誇りにかけ、努力を惜しまず頑張っているようだ。
私が彼女の立ち姿の、華やかさと凛々しさに見惚れていると、彼女はポツリと口を開いた。
「ミヤコさん。ターク様、連れていかれてしまいましたわね」
「そ、そうなんです。ターク様は、精霊狩り達を捕まえて、ファトムさんのために、セリスさんを見つけてあげたかったみたいなんですけど……。なんだか急に、それどころじゃなくなってしまいました……」
ターク様がガルベルさんに連れ去られる様子を、見ていたらしいマリルさん。
私がぽろりと愚痴をこぼすと、彼女は少し眉尻を下げて言った。
「あいかわらず、ターク様はおやさしいですわね。いつだって誰かのために行動して。ご自分のことは、二の次ですわ」
「本当に……」
私達がそんな話をしていると、坑道から運び出されたファトムさんの入った檻が、マリルさんの横を通った。
ファトムさんは運ばれながら、「そ、そこの赤いお嬢さん!」と、マリルさんに向かって叫んでいる。
シワシワになった顔を、鉄格子に擦り付け、涙を流している彼。マリルさんが少しポカンとしながらファトムさんに目をやると、彼は必死に声を上げた。
「お嬢さん! あなたの燃え上がる鉄壁、レムスルドラで見て、感動しましたぁ! 私の投げ出した炎から街を救ったあなたの姿は、本当に清らかで、正しく、美しかった! あなたは私の英雄です! お願いだぁ! 氷の精霊セリスを、助けてくださーい!」
「お願いだぁー! お嬢さぁーん」と叫ぶファトムさんの声を残し、檻は兵士達に運ばれ、ゲートを越えていく。
「まぁ……。悪い気はしませんわね」
マリルさんは小さな声でそう言うと、くるっと私に向き直った。両手で私の手を取り、可愛らしい顔で真剣な表情を作る。
「ミヤコさん、さっきのお話、よろしくてよ。ターク様の大願、今回もわたくし達で、叶えて差し上げましょう」
「え?」
「精霊狩りを捕まえて、セリスを助ける……そうですわよね?」
彼女の綺麗な薄灰色の瞳に、決意がみなぎっているのを感じる。風に吹かれて揺れる赤いツインテールが、まるで燃えているようだった。
だけど、突然の申し出に、少し戸惑ってしまった私。
マリルさんの協力はもちろん嬉しい。だけど、何もできない私が、そんな大それたことに手を出していいのだろうか。
精霊狩りも然ることながら、セリスさんを買ったコレクターは、何だか恐ろしい人のようだ。
「あの、嬉しいんですけど私、もう、魔力の回復とかできなくて……。あまり、マリルさんのお役に立てないんですけど……」
困った顔でそう言った私に、マリルさんはグイッと迫ってきた。その隣から、エロイーズさんも、やる気にあふれた瞳で迫って来る。
「ミヤコさん。大切なのは、叶えたいと願う、気持ちですわ!」
「マリル様の言う通りです! お二人の護衛は私にお任せください!」
「は、はいっ!」
マリルさんとエロイーズさんの勢いに押され、私は思わず大きな声で返事をしてしまった。
その瞬間、誰かが突然、後ろから私の肩に抱きついてきた。おどろいて振り返ると、それはなんとカミルさんだった。
そのとなりにはコルニスさんと、ミレーヌも立っている。
「わー! 面白そう。僕も行くよ。監視する予定だった人、連れ去られちゃったしね」
「カミル隊長が行くなら、自分もついていきます!」
「私も行きます!」
「え? ミレーヌまで?」
「えぇ。ミヤコについて行けば、タツヤさんに会える気がするんです」
「ふふ。決まりですわね」
皆がどんどん参加を表明し、わいわいと人数が増えていく。
「まぁアジトも分かってることだし、まずは精霊狩りを捕まえよう! そうすれば今度こそ、セリスの居場所を聞き出せるかもしれないよ」
突然現れた割には、しっかりと状況がつかめている様子のカミルさん。
――このメンバーなら本当に、精霊狩りをやっつけられたりして……?
――何より、治癒魔法使える人が、二人もいるのは安心!
私が瞳を輝かせると、マリルさんがキリリとした顔で叫んだ。
「わたくし達のパーティー名は、大願を叶え隊ですわ!」
――ダ、ダサい!
こうして、女子五名にコルニスさんを合わせた合計六名で、私達はクラスタルの南西の村、グラスを目指すこととなった。
ターク様の願いを知り、精霊狩り退治に行こうと言い出したマリル。その場で突然結成された「大願を叶え隊」は、精霊狩りのアジトがあるというクラスタルの小さな村、グラスを目指します。
次回、第十八章第六話 エディアって何者?~プクプク可愛いアクレアさん~をお楽しみに!




