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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第18章 新たな大願

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03 横暴!~隣国の使者とタークの石像~

 場所:第一砦

 語り:イーヴ・シュトラウブ

 *************



 第一砦の門の上空で、私、イーヴ・シュトラウブは、ファシリアの風に包まれながら、砦の外に立つガルベル様を眺めていた。


 彼女は先ほどからずっと、クラスタルから送られてきた使者の男ともめている。


 今日のポルールは非常に天気が良く、空は晴れ渡り、遠くまでよく見えた。


 気温は零度を下回っているが、レムスルドラに比べれば、いくらか過ごしやすい。


 ゼーニジリアスを連れ去ろうとする連中を警戒し、私は砦を警備していた。しかし、昼の日差しを浴びていると、連日ガルベル様にこき使われた疲れのせいで、頭が少しぼんやりする。


 そんな折、彼らは、凍ったルカラ湖の向こうから、突然、隊列を組んでやってきたのだ。


 派手な飾りのついた槍をもった、太った狸のような男を代表に、一般的な兵士が二十人といった所だろうか。



「ここを開けろ! 我らはクラスタルの王ノーデス様の使いである! ニジルド殿下を引き取りに来た。 早急に引き渡せ」



 遣いの男は、槍を片手に後ろにひっくり返りそうな程に踏ん反り返って、随分と偉そうな態度だ。


 平和条約締結中の隣国に、あれだけの被害を出したゼーニジリアス。それをこちらの了承も得ず、勝手に引き取りに来るとはどういうつもりだろうか。



「何ですって!? あの男は、何年もポルールに魔物を送り続けて、街を破壊した張本人なのよ。そんなに簡単に、引き渡せるわけがないじゃないの!」



 雪で真っ白になったルカラ平原に、ガルベル様のヒステリックな声が響き渡っている。


 彼らはまだ、気が付いていないのだろうか。ガルベル様が恐ろしい魔女であるということに。


 二十年前の侵略戦争では、彼女はクラスタルの軍隊を壊滅させ、あっさりと退けてしまった。彼らも彼女に挑んだことを、深く悔んでいるはずなのだが。



「ニジルド殿下は精霊の厄災の被害に遭われただけだ。これは単なる、自然災害である! 被害者である殿下をこんな汚い岩山の中に一年も閉じ込め、拷問した罪、そちらにこそ償ってもらう! タダでは済まんぞ!」


「ふざけないで! 何が被害者よ。あんな危ないやつ、野放しにできるわけがないでしょ! だいたい、あれがニジルド殿下だなんて知らなかったわよ!」


「知らなかったで済まされると思うなよ! 殿下への非礼、必ず償ってもらう!」


「はぁ!? あなたじゃ話にならないわ。いいから私達をノーデス王に会わせなさいよ!」



 二人の鼻息が次第に荒くなりはじめたその時、そこに、タークとミヤコ君が姿を見せた。


 この間フィルマンガルトで会ってから、二日程しか経っていないが、見違えるほど顔色が良くなり、二人とも元気そうだ。



「先生、ガルベル様、父さんが、そろそろ収容所に向かうと言ってますが……。ん……? その人達は……?」


「タッ君、歌姫ちゃん。来てくれたのね! 聞いてよ、この人達、クラスタルからの遣いらしいんだけど、話が通じないのよ。あら? 歌姫ちゃん、コートの下、もしかして新しいドレス?」


「そうなんです。ターク様が買ってくれました」


「見せて見せて? まぁ! 可愛いじゃないの。やっぱりあなた、青い薔薇のドレスが似合うわね」


「うふふ。ありがとうございます!」



 ガルベル様が、コートの下にチラッと見えた、ミヤコ君のドレスに気を取られている。その間に、偉そうな使者の後ろに並んでいた兵士達が、だんだんザワザワしはじめた。


 何やらゴニョゴニョと耳打ちしながら、鉱山の上に建てられた、タークとミヤコ君の石像を見あげている。



「なんだか、光ってるみたいだが……。まさか、こいつが不死身の大剣士か?」


「見てみろ、あの山の上の巨大な石像……。そっくりじゃないか」


「う、歌姫ってもしかしてあの、噂の……」



 そんな兵士達を上空から見下ろし、私は湧き上がる高揚感に胸を弾ませた。


 タークとミヤコ君は、隣国でもなかなか有名になっているようだ。


 こんな目立つ山の頂上に、クラスタルの王都からでも見える程の、巨大な石像を建てたのだから、当然と言えば当然だろう。


 まだ完成したばかりだが、その宣伝効果は絶大だ。



 ――もっとよく見ろ! あのタークの最高に堂々とした立ち姿! 死ぬほど決まってるだろ!


 ――あぁ、何度見ても感動する。最高だ!


 ――ミヤコ君の控えめな表情もタークを最高に引き立てている!



 昨日から私は、この場所を見張る素振りをしながら、実はずっと、タークの石像ばかり眺めていた。


 二人の石像をあの場所に建てるよう提案したのはもちろん私だ。サイズやポーズに至るまで細かく指示を出し、私財もかなり投入した。その努力の結果が、今ついに実感できたわけだ。


 それは、私が長年夢見ていた、師匠として最高の瞬間だった。



 ――この件が解決したら、セヒマラ雪山の頂上にも、タークの石像を立てよう。


 ――もっともっと大きくて、すごいやつだ!



 私が弟子の英雄っぷりに浮かれていると、兵士たちはついに、ガルベル様の正体にも気づきはじめた。



「いやまて、それよりガルベルって……二十年前の……」


「おぃおぃ。大魔道師ガルベルが、こんな綺麗なお姉さんなわけないだろ……? 何歳だよ」


「んまぁ! あなた達、分かってるじゃない! 私が若くて綺麗な、大魔道士ガルベルよん♪」


「ひっ」



 ガルベル様が、浮かれて少し気持ち悪い語尾で話しかけると、兵士達は怖気付いたように喉を鳴らし、一歩後ずさりした。


 それを見た使者は突然、持っていた槍を荒々しく地面に投げつけて言った。



「く! 白の大精霊エディアめ! 先王と精霊の契約を交わしていたにも拘らず、敵国の魔女に祝福を贈り、我らがクラスタル軍を壊滅させたと言う噂は本当だったのか! ちくしょう!」


「は……? エディアが、クラスタルの先王と、契約……?」



 使者の発言に、私もガルベル様も、タークやミヤコ君までがポカンと口を開けた。


 私には、クラスタルの使者が何を言っているのかわからない。


 ガルベル様に衰えない美貌を授けた大精霊……そんな話は、フィルマン様の冗談だとばかり思っていたのだ。



「ふん! いきなり来ればあわよくば殿下を連れ戻せるかと思ったが、少し分が悪いようなのである! ここはいったん引き返すぞ! 続け! 兵ども」



 呆然とする私達を置いて、クラスタルからの遣いは引き返して行った。



「これは、一体どういう状況ですか?」



 そうたずねたタークに、ガルベル様は焦ったように肩を揺らすと、気まずそうに目を逸らした。


 そして、「ん、うん!」と大きく咳払いしたかと思うと、「イーヴ! どうしてあなた見てるだけなの?」と、上空に浮いていた私を見上げ、文句を言った。



「しっかり働いてくれないと困るわよ。あぁ忙しい! あとは任せたわ」


「ガルベル様。今の話、説明してください」



 そそくさとその場を離れようとする彼女を呼び止めたタークの声は、まるで、獣の唸り声のように低く響いた。



 ターク達の石像を満足げに眺めていたイーヴの元に、隣国クラスタルから使者がやってきました。ゼーニジリアスを無理やり連れ戻そうとしていた彼らですが、ベルガノンの英雄たちに怖気付いて帰っていきます。


 次回、第十八章第四話 敵が味方か。~白の大精霊と隣国の先王~をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 緊迫回かと思いきや、ほのぼの回でしたねー(*´ω`*) ーー見てみろあの、宮子の控えめな表情を、が、ツボでした。 いや、多分それ素ですよー。みたいな。笑
[一言] 大魔道士ガルベル様って凄いのですね! 美しさと強さを兼ね備えたガルベル様の全貌も知りたくなりますね! 花車様お疲れ様です*˙︶˙*)ノ"
[良い点] 最後のイーヴ先生に対するガルベル様の注文、的確すぎて笑えました。確かに仕事してない(笑)とても面白かったです。使者のたぬきさんも素敵でした。図々しさと面の皮の厚さって人として大事ですよね。…
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