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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第18章 新たな大願

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02 第二研究室の囚人達。~それだけは言えない~

 場所:ポルール

 語り:小鳥遊宮子

 *************



 ゼーニジリアスが収容されていた部屋には、カプセルと檻が二つずつあり、その中には合計六人の囚人たちが入っていた。


 今回の厄災で捕まえられた精霊狩り達や、力を失った火の精霊ファトムだ。



 ――これは大変そう。警備がすごいわけだわ。



 ゼーニジリアスの入ったカプセルの前で、アグスさんが、神妙な顔をしている。



「フィルマンがノーデス王に謁見を申し出たが、王はそれを受け入れず、ニジルド殿下を無条件で引き渡せと言っているようだ」



 良識のある友好的な王様だと思われていたノーデス王。しかし、散々こちらに迷惑をかけているにも拘らず、何の謝罪もなく、ただ弟を返せと言っていることに、アグスさんは、違和感を覚えているようだ。


 ゼーニジリアスはこの一年の間に、ゾルドレさんに精霊の契約を破棄され、土の力を失っていたけれど、それでも強大な水の力を持っている。


 ノーデス王に彼を止める気がなければ、またベルガノンの脅威になりかねない。



「ノーデス王に、こちらの条件を飲んでもらわないことには、ニジルド殿下はクラスタルに返せない。だが、こいつらをここで警備しているのも限界があるからな。今から王都の収容所へ移送するつもりだ」


「移送の件はカミルから聞きました。でも、その前に少し、尋問させてください」



 ターク様はそう言うと、まずはネドゥに話しかけた。



「お前、そろそろファトムに力を返す気になったか? ファトムに力を返せば、とりあえずその、メロウムのカプセルからは出られるぞ。体の自由が利かないのは辛いだろ」


「冗談じゃないわ。だいたい、ファトムのことなんて愛してないって言ってるでしょ? 力を返すなんて無理よ」



 ネドゥは元々少し吊り上がった目で、チラリとターク様を見ると、ふいっと顔を背けた。


 彼女は下着にほんの少し布を足したみたいな、かなりの薄着だ。火の精霊の力を持つ彼女が、寒さに震え、唇を紫色に染めている。


 アグスさんの作ったカプセルが、強力に精霊の力を封じているのだ。


 メロウムで拘束されているだけでも、かなり気分が悪いとターク様が言っていたし、このカプセルの居心地の悪さはその上を行くはずだった。


 それでも彼女は、どこか余裕な顔をしている。



「ファトムが自力で力を取り戻してしまえば、お前の力の行き場はなくなる。そうなってから後悔しても遅いんだぞ」


「ふふ。困ってるのは、キラキラのあんたでしょ」



 ネドゥに思いもよらぬことを言われ、ターク様は、思い切り眉根を寄せた。


 彼女は五年という時間をかけ、精霊に取り入っていたため、この辺りの事情にも詳しいようだ。


 ネドゥの言う通り、シュベールさんが自力で力を取り戻した今、ターク様の癒しの加護は、返す先を失くしていた。


 彼が不死身を治す方法は、既に一つ失われているのだ。


 ターク様は、ほんの一瞬言葉に詰まったけれど、すぐにとなりのカプセルを指差して言った。



「何を言っている……私の話じゃない。ゼーニジリアスを見てみろ。もう一年以上この状態だが、そこから出られる見込みはない。そうなりたいのか?」



「ふん」と、横を向いたままのネドゥに見切りを付けたのか、ターク様は次に、精霊狩り達の入った檻の前に立った。檻の中にいたのは、ネドゥの姉だという女性と、ススだらけの精霊狩り達だ。


 皆一様に不満そうな顔でターク様を睨んでいる。


「お前達、このまま王都へ移送されれば、普通に処刑されるぞ。精霊狩りの一掃に協力すれば、多少口を添えてやってもいい」


「ふん、仲間を売るなんて、あり得ないぜ!」



 腕組みをしてそっぽを向いた男たち。


 ターク様は見たことないくらい鋭い目つきで彼らを見下ろし、檻の中に大剣の先を差し込んだ。


 ビクっと後ろに下がった男の首元で、銀の剣先がギラリと光る。



「ならここで、不死身を体験させてやろう。心配しなくても死にはしない。きっちりヒールで治してやる。白状するまで、何度でもな」


「ひぃ……!」



 ――わぁ、ターク様、脅しの演技がうまいわ!


 ――不死身のターク様にそれを言われると、絶対怖いわね!



 優しすぎるターク様の、迫力のある尋問を感心しながら眺める私。


 精霊狩り達は信じたのか、真っ青になって縮み上がった。



「あ、あっしらのアジトは、クラスタルの南西のちいせぇ村、グラスにありやす! そこに居るのはだいたい十人ほどですぁ! 旦那の手にかかりゃぁ、イチコロですぁ」


「お、お前! 何ベラベラ喋ってんでぇ!」


「だってよぉ、こいつ、おっかなすぎるだろ。不死身の大剣士だぜ?」



 精霊狩り達の慌てように、ターク様は満足そうな笑みを浮かべた。



 ――あれ? もしかしてターク様、本気だった?



 今朝までフワフワしていたターク様とのギャップに、ちょっとドキドキしてしまう私。


 どうやらそれだけ、今の彼は真剣なようだ。



「アジトの場所は分かった。で、セリスは誰に売ったんだ?」


「そ、それだけは言えねぇ。本当に殺されっちまうよ」



 アジトはあっさり喋った精霊狩り達だったけれど、どうやらセリスを買い取った客は、ターク様以上に怖いらしい。


 ガヤガヤ言う精霊狩り達の様子をしばらく見ていると、ファトムさんが突然、声をあげて泣き出した。



「う……。あぁ、セリス、セリスぅ……。無事なのかセリス、会いたい。一目だけでも……うあぁぁ!」



 彼が元々どんな姿だったのかは分からないけれど、力を失いシワシワになった顔で、オイオイと泣く彼の様子は、胸を抉るものがある。



 ――これじゃぁ、ターク様が何とかしてあげたいと思うのも、当然だわ。あまりにも可哀そう。



「ファトムさん……」



 どう慰めていいのかもわからず、切ない気持ちで彼を眺めていると、ネドゥが苛立った様子で声をあげた。



「ファトム! 一体いつまで、会えもしないセリスと恋愛ごっこなんてしているつもりなの? あんたの泣き言はもう、うんざりなんだよ! せっかく、想いを断ち切ってやろうと思ったのに! 教えてあげるよ、セリスは……」


「待て! ネドゥ、あいつの名を言えば、死ぬより恐ろしい目にあうぞ」



 セリスを買った客の名前を言おうとしたネドゥを、大声で止めたのは、なんと、ゼーニジリアスだった。


 動けないながらも、必死の形相で赤い目を見開き、はぁはぁと息をもらしている。


 噴き出した汗のせいで、長い銀色の髪が、青白い肌に張り付いていた。



「悪いことは言わない、返せるうちに、ファトムに力を返すんだ。お前も、あいつのコレクションになりたいのか?」


「うぇー。それだけは死んでもイヤだね」


「なら力は諦めるんだ。あいつは必ず、私達を捕まえに来るぞ……」



 なぜか急に、ネドゥを説得しはじめたゼーニジリアスに、ターク様はますます顔をしかめた。



「なんだ? なぜお前がセリスの売られた先を知ってるんだ。やっぱりお前、精霊狩りの仲間だったのか?」


「違う。私は精霊達を愛しているんだ。売ったりするものか」


「あやしい話だな。まぁいい。ごちゃごちゃ言ってないで、早くそのコレクターの名前を言え。私がやっつけてやる。安心して白状しろ」


「それだけは言えない……これ以上詮索すると、お前たちもただでは済まないぞ」



 ゼーニジリアスは、逆に私達を脅すようなことを言ったかと思うと、それきり黙り込んでしまった。


 ターク様はその後も、しばらく頑張って尋問していたけれど、結局誰も白状しないまま、搬送の時間が来てしまった。



 いつもより本気な様子で、ネドゥ達に尋問するターク様。精霊狩りのアジトは聞き出せましたが、セリスを売った精霊コレクターの名前はどうしても聞き出せませんでした。


 次回はイーヴ先生の語りでお送りします。


 第十八章第三話 横暴!~隣国の使者とタークの石像~をお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[良い点] このシーンは初期の宮子をも彷彿とさせますね。 捉えられている様子や、処遇。 甘々かと思いきやスパイスも効いていて、本当に読みやすい作品だなと思います。
[一言] ターク様の尋問にもやはり黒幕は割れませんでしたね。 これは続きを読まなければ( *˙ω˙*)و グッ! 花車様今日もゆっくりお過ごしくださいませ*˙︶˙*)ノ"
[良い点] ゼーニジリアスのバックにいるのはとてもやばい人のようですね。それがそもそも楽しみです。そして、精霊狩り同士のやり取りも、ターク様たちの定番のやり取りを見慣れていたので、目新しくて面白かった…
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