01 眩しい時間。~出先で後悔しない為に~
場所:フィルマンの屋敷
語り:小鳥遊宮子
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突然、精霊の秘宝を通し、連絡を取ってきた達也。ケガも治り、元気そうにしている彼を見て、私達はいくらかホッとしていた。
帰ってくる気がなさそうなのは気になるけれど、「またね~」と言っていたし、きっとすぐに会えるはずだ。
フィルマンさんに引き止められていることもあり、私達はもう少しだけ、彼のお屋敷でお世話になることにした。
セヒマラ雪山に行く前に、メルローズ領を他の人に任せて来たというターク様はその日、すっかりお休みモードだった。
私が話しかけると、「ふふ」と、やさしく微笑むターク様。寝不足が完全に解消された彼の、その笑顔の眩しさと言ったら、毎度心臓が砕け散りそうになる程だ。
私達はきのこ料理を沢山食べ、街や城を探索して、夜は皆のために歌を歌い、二人でゆっくり眠った。
メルローズに帰れば、何かと忙しくしてしまう私達。フィルマンガルトで過ごす時間は、とても穏やかで眩しかった。
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丸一日、フワッとした顔をしていたターク様だけれど、二日目のお昼を回ると、ソワソワしはじめた。
色々気になることがありすぎて、これ以上は休んでいられないようだ。
私をソファーに座らせると、彼は改まった顔で言った。
「ミヤコ、聞いて欲しいことがあるんだ」
「はい、ターク様。どうなさいました?」
「セヒマラで私は、ファトムという火の精霊に会ったんだが……」
精霊狩りに恋人のセリスを攫われ、売られてしまったファトム。
精霊狩りの女ネドゥに心を弄ばれ、力を投げ出した彼は、ひどい闇のモヤを吐き出していたという。
ターク様は彼を浄化しながら、考えていたことを、私に話してくれた。
「シュベールの時もそうだったが、ノーラの呪いにも、精霊狩りが関わっている気がするんだ。私は、精霊狩りを全員捕まえたいと思っている」
精霊達が闇に堕ちて起こす厄災を未然に防ぐため、根本の原因を取り除きたいと言うターク様。
その真剣な表情から察するに、これは彼の、新しい大願なのかもしれない。
「ノーラと関わりのある精霊狩りを捕まえれば、タツヤの居場所も分かるかもしれない」
「わぁ、そうですね! すごいです!」
私が目を輝かせてそう言うと、ターク様は、私の両手を包むように握った。彼の光り輝く顔が、寂しそうに曇っている。
「精霊狩りの本拠地は、おそらくクラスタルにある。それに、ファトムの為に、セリスも見つけてやりたい。行けばしばらく帰って来られない……。国外は転送ゲートで自由に、というわけにいかないからな。移動にも時間がかかる」
「ターク様……」
「出先で後悔しないように、今ここで、しっかりキスしてから出かけたい」
「ひゃふ……」
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私達は、フィルマンガルトの西にあるゲートを潜り、ポルールへやってきた。
ベルガノンの北の端で、隣国クラスタルとの国境の街であるこの場所は、とても寒い。
転送ゲートをくぐった瞬間から、吐く息が真っ白になった。
ここへ来た目的は、精霊狩りの本拠地と、セリスを買った客を、ターク様が捕まえた精霊狩り達から聞き出すことだ。
それから達也のことも、ミレーヌやアグスさんに伝えなくてはならない。
ポルールの街は、ゲート周辺から、兵士達でいっぱいだった。
また研究室が襲撃されないようにと、街の両側の砦や坑道の入り口なども警備しているようだ。
イーヴさんの隊の騎士だけでなく、カミルさんの防衛隊の兵士もいるようだ。
あまりに厳重な警備体制で、復興し活気にあふれていたはずの街が、重苦しい雰囲気に包まれていた。
「ミヤコさん、もう体調はいいんですの?」
「わ、マリルさんこんにちは! 私はもうすっかり、元気です!」
「ターク! ずいぶん調子良さそうだね」
「あぁ、お前もな」
異様な雰囲気の中、坑道の入り口で私達を出迎えてくれたのは、カミルさんとマリルさんだった。
カミルさんは、今日王都へ搬送される予定の、ゼーニジリアスを見張るためここに来ていたようだ。
そしてマリルさんは、魔術学校が冬季休暇に入ったため、興味本意で見学に来たらしかった。
マリルさんの後ろでは、エロイーズさんがいつも通り、しっかりと彼女を護衛している。
そして、カミルさんの後ろには、彼女の隊の兵士が一人、ピッタリとくっついていた。
「彼はコルニスだよ。僕の隊の治癒魔道士なんだけど、なんかこの間から全然離れてくれなくてさ」
私の視線を感じたのか、眉尻を下げながらも、カミルさんは私に、コルニスさんを紹介してくれた。
それを聞いたコルニスさんが、不満そうに声をあげる。
「カミル隊長がケガしすぎだからです! レムスルドラで何回ヒールしたと思ってるんですか? 自分、確かに、命に変えてもお守りしますって、言いましたけど、言いましたけどね!? もうちょっとだけ、周りを見て行動してください!」
敬語を使いつつも、ちょっとイライラしているコルニスさん。ケガの多いカミルさんを守るのは、余程大変だったようだ。
ひょろっと背の高い彼は、明るい緑色のおかっぱ頭で、丸い眼鏡をかけていた。大きな杖を持っていて、風属性の魔法を使うらしい。
「カミルお前、あれだけ言ったのに、砦から出たんだな」
「ごめんごめん。イーヴ先生が大変そうだったからさぁ。そう、怒るなって、ターク!」
「あなたを守ると決めた自分の苦労を、少しは理解してくださいね?」
「あっはは。頼りにしてるよ、コルニス~」
カミルさんはいつものサバサバとした様子で、コルニスさんとターク様の肩をバンバンと叩いた。
そんなカミルさんに、少し引き攣った顔を見せるコルニスさん。
カミルさんは強いけれど、どうも無鉄砲なところがあるようだった。
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重い鉄の扉を開き、第二研究室に入ってみると、今度はアグスさんとミレーヌが出迎えてくれた。
「ミヤコ、元気そうでよかったわ。やっぱり、タツヤさんは、まだ……?」
不安そうに私の顔色を窺うミレーヌ。アグスさんも、なんだかこの間より、またやつれている気がする。
「ミレーヌ、アグスさん……。居場所は分からないけど、達也から連絡がありました。とりあえず無事なので、安心してください。でも、今は、帰りたくないみたいです……」
「ど、どう言うこと?」
少し言いにくいながらも、二人に一部始終を説明する。二人ともショックを受けたようだけど、達也の無事を聞き、少しは安心したようだった。
「アグスさん、お世話になっているのに、ご心配おかけしてすみません」
「いや……しかし、タツヤは本当に、誰にでもモテるな」
「タツヤさん……。一体どこへ……」
「ごめんね、ミレーヌ。でも、きっとすぐ会えるから」
自分に言い聞かせるように、そう言った私。こんな異世界に飛ばされても、再会できた私達だから、無事でさえあればまた会える。そんな気がしていた。
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私達は、研究室を奥に進み、ゼーニジリアスの収容されているカプセルのある部屋に入った。
ゼーニジリアスのカプセルの隣に、もう一つ新しいカプセルが置かれ、精霊狩りのネドゥが拘束されている。
ずいぶんセクシーなファッションのお姉さんだ。年齢は二十五歳くらいだろうか。
その隣の檻には、これまたセクシーなネドゥの姉と、三人の精霊狩り達が入れられていた。
精霊狩り達は山賊のような、強そうな見た目の男達だけれど、一度ミレーヌに焦がされたらしく、みんな服がボロボロで寒そうだった。
更に隣の檻には、火の精霊ファトムが入れられている。浄化はされているけれど、力を失い黒ずみ痩せ細って、見ているだけで胸が痛くなる。
しばらくアグスさんと話をした後、ターク様は囚人達に尋問を開始した。
フィルマンガルトで穏やかな時間を過ごしていた宮子とターク様でしたが、ターク様は長く休むことに慣れていません。精霊狩りを捕まえたいという彼の想いを叶えるため、二人はポルールに出向きました。
次回、第十八章第二話 第二研究室の囚人達。~それだけは言えない~をお楽しみに!




