13 春の歌。~お客様は大切に!~
場所:モルン山
語り:小鳥遊宮子
*************
「でい?……もしかして、シュベールは、持て余した力をお前に投げ出したのか? でい?」
「え、そう……なのか……?」
カーラムさんの発言で、なんだか微妙な空気になった私達。
私は話を逸らそうと、慌てて口を開いた。
「も、もしかして、カーラムさんは、闇の大精霊のノーラを探してたんですか?」
「でい? 違うんだでい。オラっちが探してるのは白の大精霊エディアなんだでい」
十二年程前に、白の大精霊が投げ出した力を、受け取ったと言うカーラムさん。それまで殆ど微精霊に近い存在だった彼は、その力で随分大きくなったらしい。
「でーい! 大きくなったのはいいんだでい! だけど、十二年経ってもオラっち、この力にはまいってるんだでい。こうやって、ずっとバチバチしてねぇと、すぐに力が溜まりすぎてバッチバチだでい! そうなったら、山も街も、燃えっちまうんだでい」
「わぁ、大変なんですね」
「豆女、エディアを見かけたら、カーラムが探してるって伝えて欲しいんだでい」
「エディアさんには、残念ながら、会ったことがないんです。どんな精霊さんなんですか?」
「でいでい! オラっちには分からないんだでい! でも、魔力を全部投げ出したって話しだから、どっかで干っからびて、闇のモヤを放ってるんじゃないかと思ってるんだでい!」
「なるほど。もし、見かけたら伝えておきます」
私がそう言うと、カーラムさんは、ニコニコしながら私を見上げた。
「でいでーい! 豆女! 意外といいやつなんだでい! 豆にはおどろいたが、歌は最高だったんだでい! あっちにみんな集まってるから、聞かせてやってほしいんだでい!」
「わぁ、ぜひ、歌わせてください」
「もしかして、精霊の集会所があるのか?」
私達は、カーラムさんについて、精霊達が集まるという、広場を目指した。
△
しばらく歩くと現れたその場所は、小さな川が流れ、木漏れ日の差し込む、素敵な場所だった。
二・三人の精霊達が、私達を遠巻きに見ている。アーシラの森の精霊の集会所みたいに、沢山の精霊がいるのかと思っていたけれど、意外と閑散としているようだ。
――まぁ、歌を聞いてくれるお客様は、少なくても大事にしなくちゃね。
そんなことを思いながら広場に入ると、カーラムさんは大きな声で、私を精霊達に紹介しはじめた。
「でいでーい! みんな聞くんだでい! 歌が上手な豆女を連れてきたんだでい!」
「おい、カーラム。さっきから……ミヤコは豆女なんかじゃない。青薔薇の歌姫だぞ」
「でい? そんなの聞いたことないんだでい。どこが青薔薇だでい? 真っ黒なんだでい!」
「タ、ターク様。私、豆女で大丈夫です。むしろ、しっくりきます」
「はぁ?」
なんだかとても不満そうなターク様。だけど、今の私に、その呼び名は荷が重すぎる。
とにかく、今は歌いたい。この憂鬱な闇を吹き飛ばしてくれる、素敵な歌を!
「好きな歌、歌ってみていいですか?」
「あぁ。好きにしろ。何が起きても、責任は私が取る」
――え、そんな大袈裟な感じなんですか!?
――多分地味ですよ。
そう思いながらも、私は、広場の真ん中まで進み出た。歌うのは、心が明るくなりそうな、春の歌がいい。
中学生の頃から憧れていた、日本で大人気の、シンガーソングライターが歌っていた歌だ。
――携帯で何度も聞き込んで、シャワーを浴びながら、大熱唱したっけ。
――翌日、達也に「外まで聞こえてたよ」って言われて、すごく恥ずかしかったなぁ。
そんなことを思いながら、私は大きな口を開け、その歌を歌った。
「フラワー 咲き乱れて 春
やさしい光 頬照らす~
素直な気持ちで 一歩踏み出そう
あなたの 元へ~♪」
私が歌いはじめると、遠巻きに見ていた精霊達が、フワフワと私の周りに集まりはじめた。二・三人だと思っていたけれど、姿を消していたのか、実はもっと居たらしく、どんどん人数が増えてくる。
まだまだ寒い日が続く中、かなり気が早い春の歌だけど、精霊達は瞳を輝かせて聞き入ってくれていた。
「どんなに辛くても 一人じゃないから
もらった力 やさしさに変えて
笑顔の花咲かせよう~♪」
歌い終わった頃には、なんと、二十人近い精霊達が、私の周りに集まっていた。
「なんて美しい声なの? 闇魔道士かと思ってだけど、本当に歌姫なのね!」
「素敵な歌をありがとう!」
口々にそんなことを言いながら、拍手をしてくれる精霊達。魔法は何も起こらなかったけれど、これだけ喜んで貰えれば大満足だ。
歌ったことで気分が紛れたのか、暗かった気持ちも随分すっきりしていた。
――ターク様は気に入ってくれたかな?
ターク様を探して振り返ると、彼は私に顔を見せないまま抱きついて来た。
「やっぱり、お前の歌は最高だな」
そう言った彼の身体が、真っ白になるくらい輝いている。あまりに明るくて、しっかり目を閉じても眩しいくらいだ。
「す、すごい輝きですね。ターク様……」
「あぁ。やるぞ」
ターク様に顎をつつかれ、口を開けると、彼の光が流れ込んできた。眩しくて何も見えないし、ゾクゾクし過ぎて、とても立っていられない。
――ひぁ。激し……。
「でいでい! お前たち、いちゃつきすぎなんだでい!」
「きゃ。なんなの? 眩しくて、熱いわ」
精霊達に見守られながら、私はすっかり、浄化されたのだった。
カーラムに頼まれ、精霊の集会所で春の歌を歌った宮子。最初は少ないと思った精霊達でしたが、彼女の歌を聞きにたくさんの精霊が集まってくれました。おかげでターク様の光が強くなり、すっかり浄化された宮子でした。
次回、第十七章第十四話 豆女はないだろ。~青いドレスと秘宝のダー君~をお楽しみに!




