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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第2章 退屈なゴイムとお疲れのターク

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08 達也との思い出3~幼馴染は避けきれない~

 場所:日本

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 暇な私は、今日も窓際で達也との思い出にふけっていた。



      △



 高校生になった私と達也は、前より少し距離があいていた。


 達也は相変わらずなにかと誘いにくるのだけれど、私はいろいろと理由をつけて、それを避けて回っていたのだ。



 ――達也は勉強も運動も得意だし、女子にもモテモテなのに、どうしていつまでも私にかまってくるのかな。



 彼はいまや、学校で一番のモテ男子だ。一方、私はというと、中学の一件以来、達也ファンの女子たちに、すっかり目をつけられてしまっていた。


 と言っても、いじめだなんて騒ぐほど、大したことはされていない。だけどちょっと、ほんのちょっとした嫌がらせを、しばしば受けるようになってしまった。


 そんな私のいまのモットーは、とにかく地味に、目立たないこと。中高一貫校のため、高校に入っても状況は変わらず、私は地味さに磨きをかけていた。


 それでも、達也のほうからかまってくるのでは、どうしても目立ちすぎて、女子たちの視線が痛い。


 できるだけ達也との接触を避けようとする私。だけど、私がどんなに素っ気ない態度を取っていても、達也は相変わらず、私に会いに来た。



      △



 その日も、コーラス部の練習を終えると、音楽室の前で、達也が待ちかまえていた。


「みやちゃん、今度の林間学校のハイキングコースは、すこやかコースにしない? 僕、この途中にある小池を見てみたいんだよね。ワクワクコースより、初心者向けで歩きやすいみたいだよ」



 来週行われる林間学校のハイキングコースは、ふたつから、好きなほうを選べるようになっていた。


 ひとつは蓮の華が咲くきれいなお池を眺めながら、のんびり山の空気を楽しめる『すこやかコース』。もうひとつは、しっかりした起伏のある山道をひたすら歩く、体力勝負の『ワクワクコース』だ。



 ――達也は生きものが好きだから、お池の鯉が見たいのかな。


 ――それとも、体力のない私に気を遣ってくれてるのかな。



 通常なら私だって、ここは迷わず、『すこやかコース』を選ぶところだ。


『ワクワクコース』だなんて言われても、なにがワクワクなのかさっぱりわからない。


 だけど私は、咄嗟(とっさ)に嘘をついて、達也を遠ざけようとした。



「ごめん。ワクワクコースにしようって友達と約束しちゃったから」



 私のそんな様子に気づいたのか、気づかないのか、達也はいつものフワフワした調子を崩さなかった。



「あ、そうなんだ。じゃあ、僕もワクワクコースにしよう」



 私にあわせてすぐに意見を変えてしまう達也に、私は少しイライラした。達也はいつだって、ちょっとやさしすぎる。



 ――私にかまってないで、たまには好きにすればいいのに。



 そう思った私は、顔をしかめて達也を見あげた。



「達也はすこやかコースに行けばいいじゃない。私にあわせなくていいよ」


「えっ、でも、僕は、みやちゃんと一緒がいいんだけど……」



 少しはっきり断ると、達也は悲しそうに肩を落とし、しょんぼりしてしまう。こんなにわかりやすくがっかりされると、どうにも断りにくい。


 でも、同じコースを選んだところで、どうせ達也の周りは、女子でいっぱいだ。二人で並んで歩くなんて、最初から無理な話なのだ。



「達也と一緒に回りたい女子がいっぱいいるでしょ?」



 そっけない態度でそう言うと、さっきまでフワフワしていた達也が珍しく、怒ったように私の腕をつかんだ。



「だから、僕はみやちゃんと回りたいんだってば」


「私は、達也と回りたくないの!」


「まってよ。みやちゃん……!」



 私は達也の腕を振りほどくと、逃げるように家に帰った。



      △



 翌朝、達也は私と目があっても、悲しそうな顔をしただけで、なにも言わなかった。



 ――これでいい。これで嫌がらせもなくなるし、達也はモテるからきっとすぐ立ちなおるはず。



 自分にそう言い聞かせたけれど、今朝の達也の寂しそうな顔が、なかなか頭からはなれない。


 あんなに素直(すなお)に、私と一緒がいいと言ってくれる彼を邪険にするのは、本当に心が痛かった。


 あのときは、達也の好きにすればいいと思ったけれど、やっぱり、可哀想なことをしてしまったかもしれない。





 そんな矢先、私はまた達也ファンの女子たちに囲まれ、人気のない校舎裏に連れ出されてしまった。



「達也がさぁ、林間で回るコース教えてくれないんだけど。小鳥遊(たかなし)さん、達也に口止めでもしたわけ? 彼女でもないくせに、そういう抜け駆け汚いと思うんだけど?」



 彼女たちは、達也にコースを教えてもらえないのを、私のせいだと思っているようだった。



 ――達也、いったいどういうつもりなのかな。



 だれにでもフワフワやさしい達也が、コースを聞かれて答えないなんて、普段ならあり得ないことだ。彼はまだ、昨日のことで落ち込んでいるのかもしれない。


 達也の悲しそうな顔を思い出して、私はまた胸が苦しくなった。


 とにかく、こんなふうに責め立てられても、達也が結局どちらのコースにしたのか、私は知らない。知っていたとしても、本人が言わないものを勝手に教えるわけにもいかない。


「私は知らないよ」と、答えると、「嘘つき!」「卑怯者!」「地味女!」と、女子たちは口々に私を罵って、足元の砂を拾い集めては投げつけてきた。



「もう、やめてよ! 知らないってば!」



 口のなかに砂が入ってジャリジャリする。私はその場にしゃがみ込んで腕で顔を覆った。


「ふふふ、いい気味!」


 乾いた砂をかけられながら、私は考えていた。達也のファン達の嫌がらせなんて、いつもこんな程度だったと。


 砂を払えばなかったことになってしまう程度。人に言うほどでもないくらいで、我慢すれば耐えられる程度。



 ――こんなくらいのことなら、ずっと我慢しててもよかったのにな。あんな態度をとって、達也を傷付けるんじゃなかった。



 抱えた膝に涙が次々にこぼれて、流れた跡が砂埃で黒い筋になったとき、達也の声が校舎裏に響きわたった。



「みやちゃんに、なにしてるんだ!」



 驚いて思わずあげた私の顔に、投げられた砂が直撃した。きっとこのときの私の顔は、涙に砂がくっついて、散々だったと思う。


 私を囲んでいた女子たちは達也の姿を見るなり、一目散に逃げていった。



「みやちゃん、大丈夫?」



 ゲホゴホと咽せる私に、達也は大急ぎで駆け寄ってきた。私を心配して探しまわっていたのか、ずいぶん息があがっている。


 達也は私についた砂を懸命に払いながら、泣きそうな顔で何度も謝った。



「もしかして、いつもこんな目に遭ってたの? 気付かなくて本当にごめん!」


「平気だよ。私こそ、冷たくしてごめんね」



 私の言葉を聞いた達也は、本格的にウルウルと瞳に涙を溜めはじめた。


 その顔が、額がくっつくほどに近づいてきたかと思うと、甘えるような囁き声が耳をくすぐる。



「みやちゃん、僕はずっと、きみだけが好きだよ。きみに避けられるのは、もう耐えられない。ねぇ、みやちゃん、お願い、僕の彼女になって……!」



 小さいころはいつも、私を見あげておねだりしていた達也の顔が、いまは見あげるほど上にある。


 可愛い子犬と言うには、あまりに大きくなりすぎだ。だけど、彼に甘えた声を出されると、ついつい「いいよ」と、応えてしまいそうになる。


 しかも、いくら見慣れているとはいえ、この幼なじみは、超がつくイケメンだ。熱い眼差しで、こんな至近距離から見詰められると、思わず顔も熱くなってしまう。


 戸惑う私に、ますます甘い声を出して、「ねぇ、みやちゃん……」と迫る達也。


 だけど私は、結局達也をおしはなした。



「ちょっと!? 冗談だよね……? とりあえず、はなれてっ?」



 ――いくら、幼なじみに避けられて寂しかったからって、血迷いすぎだよ?



 いまや学校で一番モテる達也と、ひたすら地味な私が、付きあうなんて、そんなの、つりあいが取れるわけがない。


 それに私には、つりあうかどうか以前に、もうひとつ重大な問題があった。


 達也と、恋人になるなんて、全然ピンとこなかったのだ。だって、彼とは小さいころからずっと、家族みたいに、べったり一緒にすごしてきたのだから。



「私たち、幼なじみじゃない」



 私に突きはなされた達也は、納得いかないという顔をした。



「どうして!? みやちゃん、僕は真剣だけど!?」


「だから……達也は大切な幼なじみだもん。そんなの、考えたことないよ……」


「えぇ、そんなぁ……」



 また、あからさまにガッカリする達也。



 ――達也ったら、急になにを言い出すの?


「僕が大切なら、いまからすぐ考えて……!」


「そ、そんな急には……」



 激しく戸惑う私に、達也が詰め寄ってくる。



 ――今日は本当に、どうしちゃったの?


 ――いつもなら、すぐ引きさがってくれるのに。


 

 いつもフワフワしているはずの達也に、勢いよく迫られた私は、そのまま下を向いて黙り込んでしまった。そんな私を見ても、達也は珍しく、折れようとしない。



「わかった、返事はまだいいよ。でも、ちゃんと考えてね? 僕、林間学校は絶対みやちゃんと回りたいから。ほかの女の子たちはみんな断ったから!」



 ――あー、それで、あの子達があんなに怒ってたのか……。林間学校、不安しかないよ。


 ――達也、ごくたまに、ちょっと強引なときがあるよね……。



 私は困りながらも、「考えてみる」とだけ、返事をした。


 学校一のモテ男子になってしまった達也。ファンからのやっかみを回避するため、達也を避けようとする宮子ですが、うまく行かずいじめにあってしまいます。


 助けに来た達也から告白された宮子は、「幼なじみだから」と言って断ってしまいました。全然諦める様子のない達也にちょっと困ってしまう宮子ですが……。


 この続きは一話挟んでからお送りします。


 次回、宮子はついに暇に耐え兼ね、行動を起こします。


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 中高一貫校の面倒臭い部分で、人間関係が変わりづらいところが挙げられます。 その中で目をつけられた宮子ですが、本当にちょっとした嫌がらせで済んでいるのでしょうか? 案の定、厄介ファンに苛め…
[一言] 花車様こんにちは! こういう展開って男側からしたら彼女としてしまい全部を守ってやる! という気持ちになってしまうんだよなぁ。 でも達也はやはり皆に優しいという所があるとこんな展開になってしま…
[良い点] キィー(♥ω♥*)タァー(๑ơ ₃ ơ)♥ 達也〜(;ω;)よく言った、よく言ったよおおお(´༎ຶོρ༎ຶོ`) 対して色恋がよくわからなそうな宮子*・゜゜・*:.。..。.:*・'(*…
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