07 無情の朝。~ターク様、起きられますか?~
場所:フィルマンの屋敷
語り:小鳥遊宮子
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「ターク! ミヤコ~~! 朝じゃぞ~!」
うとっとした瞬間、地鳴りのような大声で名前を呼ばれ、私はおどろいて、ビクッと体を揺らした。
ターク様が眠りについてから、まだ五分も経っていない気がする。
ターク様は、私が逃げると思ったのか、私を抱く腕に力を込めた。
逞しい腕にガッチリと固定され、足元に大きな人影を感じるけれど、全く身動きが取れない。
「おぉーい、朝飯じゃぞ」
またフィルマンさんの声が聞こえて、『かわいそうだな……』と、思いながらも、私は顔だけ上を向いて、眠ったばかりのターク様に声をかけた。
「タ、ターク様、お休みのところ、申し訳ないんですけど、フィルマンさんがこられたみたいです……」
「んん……?」
「あのぅ……ターク様? 起きられますか?」
「いや……。パンはそのままでうまいぞ」
――パンの夢?
ターク様の可愛すぎる寝言にキュンキュンしながらも、何度か声をかけるものの、彼はスヤスヤと寝息を立てている。
――ダメみたい。だけど、なんだか視線をいっぱい感じる……。
身動きが取れないまま、横目で周りを確認すると、私達の寝ているベッドの周りで、フィルマンさんだけでなく、イーヴさんやファシリアさん、ガルベルさんまでが私達をのぞき込んでいた。
「わ、ターク様……皆さんこられてますよ」
「ターク、起こして悪いな」
「ほんと、熱いわね~あなた達」
「飯の時間じゃよ?」
「ん……?」
ひどく険しい顔でうっすらと目を開けたターク様は、ベッドの周りに集まった皆の姿をチラリと見ると、「信じたくない」という顔をして、もう一度しっかりと目を閉じた。
「……僕は今、すごく幸せに寝てます」
そう言って、また私を抱きしめなおすターク様。
「いいから起きて、状況を説明しなさい。歌姫ちゃんは闇堕ちしてるし、タツヤはどうしたの?」
「精霊に攫われました……」
「はぁ?」
「い、今起きます……」
ガルベルさんのヒステリックな大声に、目をしばしばさせながら私をはなし、起き上がったターク様。
頭が痛いのか、青い顔で、しきりに眉間を押さえている。
私のせいで、彼女に抵抗できなくなってしまった彼が、やっぱり凄く不憫だった。
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無慈悲に起こされた私は、身体からあふれる闇のモヤを隠すため、腰に精霊の秘宝をぶら下げ、真っ黒なローブに身を包んだ。
まるで闇魔道士のような姿で、眠そうなターク様に手を引かれ、巨人がニ十人も集まって会食出来るくらい、大きな広間に通される。
いつもより金ピカの豪華な服を着て、部屋の一番奥にあぐらをかいて座るフィルマンさんは、まるで、大仏様のようだった。彼の周りには、お付きの人がいっぱいだ。
「がっはっは! たべれたべれ!」
床に敷かれた大きくて美しい敷物の上に、朝食とは思えないくらいの、豪華な料理が並べられている。種類はすごく豊富だけれど、よく見ると、どれもこれも、きのこが沢山で、意外とヘルシーそうだ。
「い、いただきます!」
――ほとんど眠れなかったけど、これなら食べられそう!
そう思いながらとなりを見ると、ターク様が、今にも吐きそうな顔をしている。
――いったい、どれだけ寝不足なんですか? あぁ、早く眠らせてあげたい……。
そうは思うものの、魔物が入り込んだ小屋の片付けに、セヒマラや研究室で捕まえた精霊狩り達の取り調べ、実はノーデス王の弟君だったという、ゼーニジリアスの件もあって、とにかく急いでいると言うガルベルさん。
簡単に話を聞いただけでも、セヒマラはそうとう大変だったようだ。
そんな中でもガルベルさんは、アーシラの森まで私と達也を探しに行ってくれていたらしい。
遺跡を探索した後、水晶で私達の居場所を確認。休んでいたイーヴさんを叩き起こし、ここに来たと言う。
――いったい、いつ見られてたの!?
ここに着いてからのターク様とのあれこれを思い返すと、恥ずかしくて顔が上げられない。
「心配しないで? あんまり野暮なことすると、私だって闇に落ちちゃうんだから、気をつけてるわよ」
そう言って、何も見てませんアピールをする彼女。これはもう、信じるしかないだろう。
「それで、いったい何があったの?」
ガルベルさんに質問され、私は、覚えている限りの事情を彼女達に話した。
眠った瞬間、フィルマンたちに叩き起こされた宮子とターク様。眠い目をこすりながら、集まった四人に事情を説明します。
次回、第十七章第八話 不確かな伝説。~休みたいって言ってます!~をお楽しみに!




