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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第17章 闇に浸されて

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06 治療じゃない?~逃げないで頑張ります~

 場所:フィルマンの屋敷

 語り:小鳥遊宮子

 *************



 フィルマンさんのお屋敷の、大きくて赤いベッドの上で、ターク様は私のとなりに横になると、しっかりと私の腕をつかんだ。


 私の干からびた手を口元に運ぶと、「はぁ」と、ため息をつくように、金色に光る息を吐きかける。



「本当にもう、逃げるなよ?」


「すみませんでした。頑張ります」


「ミヤコ……会いたかった……」


「ターク様……」



 こんな醜い姿になってしまった私を、セヒマラへ行く前と変わりなく、愛しそうに見つめるターク様。


 その光は私の吐き出す闇に打ち消され、いつもより穏やかなはずだった。


 だけど、闇の中から見ている私には、キラキラしたターク様の姿が、いつも以上に眩しく感じられる。



 ――どうして私、まだ嫌われてないのかな。


 ――何の役にも立たないし、迷惑しかかけてないのに。


 ――ターク様は面倒見がいいし、何か責任を感じてるのかも。



 彼の気持ちを、真っ直ぐには信じられなくて、余計に申し訳ないし、ただただ胸が苦しい。



「口……あけて」



 やさしい口調でそう言った彼の、少し不安そうな顔を見上げながら、私があーんと口を開けると、彼の疲れた顔が、真っ赤になった。



「素直だな……」



 金色の光があふれるターク様の唇が、ちゃぷ……と音を立て、私の上唇を吸っている。



 ――ひゃふ……? これ、治療じゃない……。


 ――口を開けさせた意味とは!?



 ドキドキしすぎて硬直していると、唇がだんだん下に降りてきた。彼に触れられている場所が、熱を持ったようにじんじんしている。


 だけど、闇が身体から引き剥がされるように、吸い上げられるこの感覚は、まるで弱った心を丸裸にされるような、どうしようもなく、嫌な感じなのだった。



「タツヤに噛まれたのはここだけか?」


「そ、そうです」


「くそ……まだ跡が残ってるな……」



 達也の残したキスの跡を掻き消すように、首筋にキスするターク様。


 私の上に覆いかぶさって、試すようにやさしく吸い付いてくる。



「なんだ。私は跡がつけられないようだな……。すぐ消えてしまう」



 なにやら悔しそうに、ぶつぶつとぼやいているターク様。


 こんな思いをさせたのも申し訳なくて、胸がギュウギュウ締め付けられる。


 このたまらない胸の痛みも、ターク様の浄化で消えるのだろうか。



 私の口から、「く、くるし……」と声がもれると、ターク様は顔をあげ、腕で自分の口元を拭った。



「また、力が入りすぎたか?」


「そ、そうじゃなくて……。闇が、浄化を拒んでるんです」


「それは……我慢しろ」


「あの、ターク様、噛み付いていいですか?」


「は……?」


「お願いです」


「え……?」



 真っ赤な顔で少し身を引いたターク様を見ると、私の自制心は、完全にどこかへ行ってしまった。


 彼のバスローブの袖をまくり、上腕にがぶりと噛み付くと、ターク様の口から、「くっ」と、小さなうめき声がもれる。



 ――あぁ、脳がじんじんする……。



 どんなに食いついても、傷ひとつつかないターク様の体に、ガジガジとかじり付く私。


 ターク様は諦めたのか、「好きにしろ」と言わんばかりにじっとして、時々ビクッと身体を震わせた。


 満足感と高揚感で、胸の痛みが消えていく。


 私のかじり付きたい衝動が治ると、ターク様は「はぁ」と大きなため息をつきながら、私をギュッと抱きしめた。



「凶暴なリスに襲われた気分だった」


「ほ、本当にごめんなさい。ご馳走様でした」


「……浄化するぞ」



 金色の光のもれだす唇を、今度はしっかりと私の口に被せる彼。


 癒しの光が束になって流れ込むと、カサカサと干からびていた体が、じわじわと回復していく。


 私の肌の色が大体元に戻ると、ターク様は私の耳元にキスをした。



「ここの傷跡も一緒に消えたな。一体、なんの傷だったんだ?」


「あ、あれは……。おバカの勲章です」


「なんだ? それは」


「木登りしたら落ちたんです」


「お前が、木に……?」



 不思議そうな顔で、首を傾げたターク様。「結構じゃじゃ馬なんだな」と囁いて、今度は耳にキスをした。


 癒しの光が入り込んで、耳の中がくすぐったい。



「まだ途中だが、今日はもう寝よう」


「はい、おやすみなさい。ターク様、お疲れ様です」



 彼はもう一度、私をしっかりと胸に抱き寄せ、すぐにくぅくぅと寝息を立てはじめた。


 彼の首元に、三つのペンダントが光っている。


 ターク様が自分でアクセサリーを付けるところなんて、今まで一度も見たことがない。


 これはきっと、みんなの心配が形になったものだろう。



 ――そう言えば、レムスルドラは、大丈夫だったのかな。


 ――自分のことでいっぱいいっぱいで、ターク様の話、全然聞けなかったわ。



 色々気になるけれど、今は私も、とにかく休みたい。



 ――眩しいけど、ねむい……。



 カーテンの隙間から入り込んでくる光で、外がもう朝なのがわかる。


 だけど、すっかり疲れた今なら、すごくよく眠れそうだった。


 うとっとしかけたその瞬間、地鳴りのような大声と共に、ベッドルームのドアが開いた。



「ターク!ミヤコ??!朝じゃぞ?!」



 ベッドの上で、達也に焼きもち全開のターク様。頑張って眩しい彼に耐えていた宮子ですが、少々自制心を失ってしまいました。闇に堕ちると、噛み付きたくなりますよね、きっと。浄化もほどほどに眠りについた二人に無情の朝がやってきます。


 次回、第十七章第七話 無情の朝。~ターク様、起きられますか?~をお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 宮子の自制心は、私の相当斜め上をいっていました。笑 ガジガジって、りすちゃんかーい!笑 それにしても、二人のいちゃつきっぷりは見ていてドキリとさせられますね。 私も今新作で恋愛モノ描いてる…
[一言] 闇堕ちすると噛みつきたくなるんですかΣ(゜д゜;)?笑 まじかァ…笑 俺は結構ターク様よりなんで闇堕ちする事ない派ですが花車様が闇堕ちした際は腕を差し上げる事にしましょうか( ᐛウデェ 笑 …
[良い点] ロマンチックではないけれども、どこかこの2人らしいやり取りで面白かったです。噛むというね。思わぬはけ口に驚きつつ。このまま宮子が元に戻れるのか。注目していきたいと思います。 [一言] 本人…
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