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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第17章 闇に浸されて

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05 フィルマンガルト。~大きな街で休もう~



 場所:フィルマンガルト

 語り:小鳥遊宮子

 *************



 ターク様に抱えられ、モルン山を下った私、小鳥遊宮子は、通常の二倍の高さがありそうな、大きな城壁の前に居た。


 外はまだ暗く、雨が上がった空には星が出ている。



「立てるか?」



 こくんと頷いた私を地面に下ろし、バッグをゴソゴソと探ったターク様は、リンゴぐらいのサイズがある、大きなシェンガイトを取り出した。



「そのままじゃ街で目立つからな。これを持っていろ」


「え、これは、秘宝ですか?」


「あぁ。私の光を吸っているから、モヤを消してくれるはずだ」



 金色に輝く秘宝を渡され、眩しさに目を細めた私。


 ターク様は、そんな私の顔をのぞき込むと、「まだ私を殺したいか?」と、質問した。



「殺したいです……」


「よし」



 恋人に殺意を抱かれていると言うのに、なんだか少し嬉しそうに、私の頭をなでるターク様。


 さっきから私の頭には、『殺したい、殺したい』と、呪いの声が響いていた。



 ――私、ターク様を殺したい。



 彼を殺したい理由なんて無いと思っていたけれど、私の胸には、その呪いが重くのしかかっていた。



 ――カミルさんの願いが、叶わない……。あれって、アグスさんの研究が失敗に終わるって意味だよね……?



 達也が遺跡で言った言葉が、私の胸を締め付けている。


 達也は私に、ターク様の不死身が治らないことを、暗に伝えようとしていたのだ。


 それを察し、少なくないショックを受けた私は、いつからかそれを、切に望んでいたようだった。



 ――私がおばあさんになっても、ターク様は今のままなの?


 ――私が死んだ後、ターク様は寂しい思いをするの? それとも、私のことを忘れて、誰か他の人を愛するの?


 ――ターク様が永遠を生きるのは、やっぱり、嫌。私と一緒に、死んでほしい。



 考えたくなかった嫌な想像が、私を闇の底に縛り付ける。


 ほの暗い闇に心が沈むと、ターク様の放つ癒しの光が、なんだかとても不快に感じた。



 ――殺せないなら、逃げ出したい。



 だけど、こういう風にぐちゃぐちゃと、悪い方へ考え、光を避けようとすること自体が、ノーラのかける、呪いなのかもしれない。


 ターク様に浄化されて戻ってきた、ほんの少しの自制心で、私はぎりぎり自我を保っていた。



 ――いつもの私なら、こんな風には感じないはず。ノーラの呪いに、負けたく無い。


 ――だけど、どうしてだろう。闇に沈むのって、心地いい。



 闇に抗いきれない私に、ターク様は黒いマントを被せ、醜くなった顔をフードで隠した。



      △



 少し嫌がる私の手を引いて、ターク様は城壁の門を潜った。


 そこは、フィルマンさんが治めるという、巨人の街、フィルマンガルトだ。



 ――大きい……!



 身も心もボロボロの私だけれど、この景色には、おどろかずにいられなかった。


 もちろん、王都やポルールや、ウィーグミンだって、かなり異世界情緒にあふれていた。だけど、ここはまるで、次元が違う。


 身長が三メートル近くあるフィルマンさんと同じ、巨人族が沢山暮らしているこの街は、何もかもが、とにかく大きいのだ。


 かと言って、巨人しかいないという訳ではないらしく、大きな扉のとなりに、小さな扉があったり、大きなベンチの周りに、普通のベンチが並んでいたりする。



「面白い街だろ。体が治ったら、ゆっくり見て回るか」



 ターク様が、やさしい声で話しかけてくれる。私は小さく頷きながら、彼の後ろをついて歩いた。


 夜の街にいるターク様はよく目立つ。痛い視線を感じながら、私はフードを深く被った。




 私達は、町の東の端で馬車を借り、フィルマンさんのお屋敷を目指した。彼のお屋敷は、街の真ん中にあるらしい。


 山の上から街を見下ろした時、街の真ん中には、目を疑うほどに大きく、沢山の高い尖塔が突き出した、立派な城が建っていた。



 ――まさか、さっきのあれがフィルマンさんのお屋敷じゃないよね……。



 フィルマンさんのことを、てっきり、普段は森に住んでいる、木こりのお爺ちゃんか何かだと思っていた私。


 だけど、よく考えると、フィルマンさんは貴族だとサーラさんが言っていた気がする。



 ――それにしても、街もお城も立派過ぎない?



 首を傾げながらも、馬車の窓にかかったカーテンを少し開き、外をのぞいてみると、街の広場の真ん中に、見上げるほど大きな、彼の石像が立っていた。



 ――うわぁ。ここにも立派な石像が。



 エヘンと胸を張ったポーズで、爽やかに笑うその石像のフィルマンさんは、今より随分と若そうに見える。


 ターク様が言うには、その石像は、三十年以上前に建てられたものらしい。


 東の帝国オトラーとの戦争で、功績を残したフィルマンさんが、大剣士になった時の記念なんだそうだ。


 おどろきに口を開けたまま、真っ直ぐ進む馬車に揺られていると、馬車は本当に、あの巨大なお城に入っていった。



「フィルマン様は公爵だからな。ベルガノンでは王族の次に位が高い。領土も広大だ」



 おどろいた顔をしている私に、珍しく面倒がらず、色々と説明してくれるターク様。



「すごい……」



 英雄で、あちこちに石像が立っているだけでも驚きだけれど、ターク様の周りの人たちには、毎度驚かされた。



      △



 大きな門から長いアプローチを抜け、私達が馬車を降りると、フィルマンさんのお屋敷の、執事らしき人が出迎えてくれた。



「ターク卿、ようこそいらっしゃいませ……そちらは……?」


「青薔薇の歌姫だ。こんな時間に悪いが、休ませてもらえるか?」


「もちろんでございます」



 もう明け方も近い時間だと言うのに、丁寧に対応してくれた執事さんは、巨人ではなく、普通のサイズの人間だった。


 とても品のいいやさしそうなお兄さんだ。


 客室にお風呂や着替えも用意してもらい、酷かった体の泥汚れを落とした。


 ようやく少しさっぱりしたけれど、体があちこち黒ずんで、所々ひび割れて痛かった。



「ミヤコ、フルーツはどうだ?」



 バスルームから戻った私に、ターク様が後ろから抱きついてきた。彼もお風呂あがりなのか、ほかほかして石鹸の香りがする。


 持たされていた秘宝のおかげなのか、ターク様を殺したい衝動は、随分治まっているように感じた。


 だけど、身体に宿ったこの闇は、消されたくないと足搔いているようだった。


 闇に浸された私に、ターク様の光は眩しすぎる。


 ふるっと背中を震わせると、彼は私の首に顔をうずめ、「にげるな」と、囁いた。



 ――あぁ。この腕からはどうやったって逃げられない。


 ――呪いが、消されてしまう。



 嬉しいような悲しいような、複雑な感情に身を任せていると、彼の癒しの指先が、私の口を探った。



「口あけて」


「あの、ターク様、私……」


「なんだ? タツヤが心配か? きっと無事だろうから、落ち着いたら探しに行こう」



 彼の口調がやさしすぎて、申し訳なさにまた身がすくむ。



「私、また迷惑をかけてしまいました……ターク様もお疲れだったはずなのに」


「心配いらない。お前と一緒に眠れば、何もかも治るんだからな」



 ――治るのは、ターク様の方なんですか?



 唇に何かを押し当てられ、素直に口を開けると、フルーツが口に入ってきた。


 噛んでみると、甘酸っぱい果汁が、口の中いっぱいに広がっていく。



 ――スアの実かな? 美味しい。



「よし! もう朝だが、少し浄化してから寝よう」



 ターク様は私を抱き上げると、奥のベッドルームへ移動した。


 そこには、大きくて派手な赤いベッドが、ドーンと一つ置かれていた。



 ターク様と一緒にフィルマンガルトにやってきた宮子。闇に沈んだ彼女にはターク様の光が不快なようですが、ターク様は逃がしてくれません。宮子をベッドルームへ連れ込んだターク様はちょっと嬉しそうです。


 次回、第十七章第六話 治療じゃない? ~逃げないで頑張ります~をお楽しみに!



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― 新着の感想 ―
[良い点] ターク様のニヨニヨ顔が思い浮かべられるシーンですね。 もっと早く、イチャイチャしてほしいものです・:*+.\(( °ω° ))/.:+
[一言] 花車様おはようございます! 闇堕ちしているみやこをフィルマン様の統治する国へ。 ターク様はみやこをつれベットへ! 回復なるか!? 楽しませていただきますね*˙︶˙*)ノ"
[良い点] 宮子が無事浄化されているようで安心しました。フィルマンガルドの巨人と普通の人との同居している街の描写がとても興味深かったです。実は公爵だったことにも驚きました。 [一言] 最後の最後で派手…
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