表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第17章 闇に浸されて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

193/247

04 待ちに待った再会。~嘘だって言ってくれ!~

 場所:モルン山(精霊の遺跡)

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 ――タツヤ……ひどい顔色だったな……。いったいどこへ連れて行かれた? 大丈夫なのか?



 タツヤが消えた場所に残っていた黒いモヤを、私、ターク・メルローズは、呆然として眺めていた。


 精霊が人間を誘拐するなんて、今まで一度も聞いたことがない。


 追いかけて助けようにも、二人は突然消えてしまった。このままではあまりにも情報不足だ。


 精霊はタツヤを気に入っていたようだし、すぐに殺してしまうようなことはないだろう。


 今はとにかく、ミヤコを回復させるのが先だ。



「ミヤコ、大丈夫か?」



 私がミヤコに駆け寄ると、彼女は、突然力が抜けたように、ふらりとよろけた。



「達也……」



 受け止めて抱き抱えると、体がひどく熱い。そして、その身体からもくもくと立ち上がった黒いモヤが、私の光の勢いを弱めていた。



「いったい何があったんだ? ここの秘宝に呼ばれたのか?」


「わかりません……」



 噴火した雪山から生還し、やっと会えたというのに、ミヤコは背中を向けたまま、私の顔を見ようともしない。



「ミヤコ、とにかく、精霊の闇を浄化しよう。こっちを向いて、口を開けろ」「いやです」



 すごい即答で、私の浄化を拒んだミヤコは、腫れ上がった脚をズルズルと引き摺りながら、私から離れていく。



「おい、なぜ逃げるんだ」


「私、ターク様を殺したいんです。私に近づかないでください」


「なんだ。そんなことか」



 どうやらミヤコは、秘宝の呪いにかかっているようだ。しかし、不死身の私を殺せないことくらい、彼女は分かっているはずだ。



「いいから、逃げるな」


「いやです……! もう、こんな私なんて、置いて帰ってください!」



 そう叫びながら、彼女は私を振り払おうと手を振った。彼女の手には黒い短剣が握られている。


 その刃先が私の頬を掠め、小さい傷から血が滴った。しかし、一瞬のうちに、そんな傷はふさがってしまう。



「バカ言うな。私がお前に、どれだけ会いたかったと思ってるんだ」



 私を殺したくなると分かっていながら、彼女は秘宝に何を願ったのだろうか。だが、そんな呪いも、私が浄化すれば消えてしまうはずだ。


 私はミヤコから剣を取り上げると、這い回る彼女をひっくり返し、無理矢理その顔を見た。泥と涙で汚れ、闇で黒ずんだ肌がカサカサだ。


『これを見られたくなかったのか?』と思ってみたが、私と目が合った彼女は、慌てた顔で首を押さえた。



「い、いやっ」


「いったい何がいやなんだ?」



 首に当てられた彼女の手をつかんで除けると、そこにはくっきりと、黒くなった大きな歯形が付いていた。周りにはいくつかの、キスマークのような跡まで見える。



「な、なんだ、これ」


「何でもないですっ」


「まさか、タツヤか?」


「……そうです、ごめんなさい」



 気まずそうに私から目を逸らしたミヤコを見て、頭に石斧を振り下ろされたような衝撃が走り、目の前がフッと白くなった。



 ――くそ、あいつ! 何考えてるんだ!


 ――誰か、嘘だって言ってくれ……。



 呆然とする私の下から、ミヤコがまた這い出そうとしている。



「待て。とにかく、全部消す」


「無理です、お願いです、置いて帰ってください! 私、ここに住みます」


「ふざけるな。絶対ダメだ」



 濡れ汚れた彼女の体を、石の床と自分の脚でしっかりと固定し、急いでヒールを唱える。


 彼女の首から歯形が消えたのを確認すると、私はすぐに、彼女の口に唇を被せた。しかし、彼女はしっかりと、歯を食いしばっている。


 闇に蝕まれた体で、こんなに抵抗されたことがない、と思う程に暴れる彼女を、私は腕の力で抑え込んた。



 ――この抵抗はなんだ? ミヤコは、あれを、消されたくなかったのか?


 ――どうしてこうなった? 初めのキスを大切に取ってあったはずなのに!



 ヒールで歯形が消えても、私の心臓は、動き方を忘れたかのように、ドクドクと飛び跳ねている。


 ひどく胸が苦しくて、息が出来ない。



 ――だめだ。また焦りすぎだ。


 ――力任せでは怖がらせるだけだと、私は雪山で学んだはずだ。



 ミヤコを抑えていた力を抜き、ゆっくりと顔を上げると、彼女は諦めたように、ぼんやりと上を見ていた。



「すまない。力が入りすぎた……」


「いえ、大丈夫です。私の方こそ、取り乱してすみませんでした」


「いや……いいんだ。それより、この場所は闇が深い。移動しよう」




 急に大人しくなったミヤコをマントに包むと、私は彼女を抱き抱え、モルン山の遺跡を後にした。


 彼女はまるで、心を失ったかのようにぼんやりとしている。


 外はまだ暗く、さっきまで雨が降っていたのか、地面がかなり濡れていた。


 ガルベル様の小屋から、ミヤコの生やした豆のツルを辿ってここまで来たが、小屋に戻ってもゲートがないし、魔物も入りこんでいる。


 私はモルン山の麓の街を目指し、山を下ることにした。


 目指す街の名は、フィルマンガルト。フィルマン様の治める、何もかもが巨大な街だ。



「ミヤコ、随分前に約束したな。そのうち、フィルマン様の屋敷に連れていくって」


「あ、そうでした……」


「大きくて美しい街だ。そこで闇を浄化しよう」


「はい。ターク様」



 私の体からあふれ出す癒しの光は、ミヤコに吸われどんどん消えていく。


 来た時より足元はかなり暗い。


 山から見下ろすフィルマンガルトの夜景が、眩しく滲み、ゆがんで見えた。



 達也が宮子に残していった歯形を発見し、動揺するターク様。宮子に拒絶され、ついつい力が入ってしまいましたが、何とか気持ちを落ち着け、宮子を抱えて山を下りる事にしました。行先はフィルマンさんの治める大きな街です。


 次回、第十七章第五話 フィルマンガルト。~大きな街で休もう~をお楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


こちらもぜひお読みください!



三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~





カタレア一年生相談窓口!~恋の果実はラブベリー~

― 新着の感想 ―
[良い点] 今回のターク様は、大人の男性っていう感じがして良かったです。達也に対してハラワタにえくりかえっていることでしょうが、おそらくどうにかしてくれるだろう、そんな安心感を与えてくれるお話でした。…
[一言] なんとかみやこを救い出したターク様。 しかしみやこを回復させるにはやる事が沢山あるはずですね! 続きを楽しみに休憩過ごします(* ᴗ͈ˬᴗ͈)”
[良い点] 宮子の複雑な心境がよく現れていたと思います。ターク様の戸惑いももっともで、流れが自然な良い回でした。いざ落ち着いてしまうと達也どころではなくなってしまった、ターク様も、なんだか、ターク様ら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ