表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第17章 闇に浸されて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

192/247

03 突き立てられた短剣。~胸の痛みは君のもの~

 場所:モルン山(精霊の遺跡)

 語り:小鳥遊宮子

 *************



 ――あれ? 私、なにしてたっけ。


 ――さ、寒い。ベッドが石みたいにかたいわ。



 背中に当たるかたく冷たい感触。ぐっしょりと濡れた重いワンピース。火照った体に、ズキズキと痛む脚と頭。


 身体中に不快を感じながら、私はうっすらと目を開けた。


 目に飛び込んできたのは、口からもくもくと闇を吐き出しながら、短剣を手に私にまたがっている達也の姿だった。


 その瞳は、まるでなにかに取り憑かれたかのように妖しく光っている。



 ――え? 達也、闇堕ちしてる!?


 ――闇属性魔法、失敗した?



 ぼんやりしていた頭が一気に目覚め目を見開いた私を、涙に濡れた顔で達也が見下ろしている。



「た、達也? どうしたの? いつの間に私達、こんなことに……」



 起きあがろうとするけれど、どういうわけか体が動かない。



「とりあえず、お、おちついて、危ないから、刃物はしまおう? ね?」



 状況がよく分からないながらも、焦りにもつれる舌を動かし、かたまっている達也を宥めてみる。


 だけど、達也は短剣を私に向けたままだ。


 ぼんやりと山を彷徨っていた記憶があるけれど、いったいあのあとなにが起きたんだろう。



「みやちゃん、僕、君を殺したい」



 混乱する私に、達也はふるえる声でそう言った。彼の瞳から、ポロポロとこぼれ落ちた涙が私の上にふってくる。



 ――もしかして、秘宝の呪いかな?



 あらためて周りをよく見ると、どうもここは、精霊の遺跡のようだ。



 ――私、達也に殺されるの?


 ――これって天罰かな。



 そう思った瞬間、なんだかそれはそれで仕方がない気がして、胸から焦りが消えていった。


 達也にされた告白の返事をきちんとしないまま、ターク様を好きになった私は、ひどく達也を傷付けてしまったのだから。


 彼の気持ちを知りながら、達也ならきっとうまく立ち直るだろうと、簡単に考えていたツケがまさに今回ってきたのだ。



 ――バカだな、私。また達也を追い詰めてる……。



 つらそうに黒い息を吐き出しながら、涙を流す達也を見ていると私の目からも涙があふれはじめた。


 達也は必死に、殺したい衝動を抑えようとしているようだったけれど、彼の握る短剣はジリジリと私に近づいてきた。



「みやちゃん、逃げないの?」


「だって、体が動かないの」


「そっか、まだ暗示かかってるんだね。……ごめん。みやちゃん、少しだけ僕の好きにしていい?」



 そう言った達也の唇が、返事もまたず私の首筋を這う。



「ひぁ、達也、吸わないで……!」



 とっさに声をあげたけれど、達也ははなれようとしなかった。


 苦しそうに少し呻きながらも、何度も私の首に吸い付いてくる。


 彼の吐き出す闇のモヤを吸わないように、私は口を閉じぐっと息を堪えた。



 ――これ、キスマーク付けてる!?



 達也は明らかに、跡を残そうとしているようだ。私を抑えつける手には爪が食い込むほどに力が入っている。


 いつものやさしさはどこにもなく、荒々しくてひどく乱暴だった。



 ――痛いよ……!



 声も出せず、体も動かせないまま耐えていると、彼は最後に、大きな口を開け思い切り首に噛み付いた。


 傷口から流れ込んだどす黒い感情が、私の中に広がっていく。


 この胸をつぶすような痛みは、彼が感じていたものだろうか。



「ごめんね、痛かった? これは、ターク君に治してもらってね」


「た、達也!?」



 顔を上げた彼の胸には、黒々と光る短剣が突き刺さっていた。


 黒いモヤと一緒に、真っ赤な血が流れ出し、達也は私のとなりにバタンと倒れた。



「はは。いい気味だ。これ見たらターク君、悔しがるだろうな」



 私の首に付けた歯形を指でなぞり、愉快そうに笑う達也の口から、血があふれ出してくる。



「バカ! 何してるの!?」


「みやちゃん、もう、自由にしていいよ」


「いやだよ。もう、どうして!?」



 私の胸から飛び出した黒い魔法陣が、空中で「パリン」と音を立て砕け散った。


 ひどい痛みが走ったけれど、今まで石のように動かなかった体が動かせるようになっている。



「どうしよう!? 誰か助けて!」



 顔をあげ、辺りを見回した私の目に、精霊の秘宝が飛び込んできた。



 ――これで達也を助けられる!



「秘宝にかけた願いは、本当に叶う」私はカミルさんからそう聞かされていたのだ。


 腫れ上がった脚を引き摺りながら、祭壇に向かった私を達也は虚な目で見ていた。



 ――私を殺さないために、自分に短剣を刺しちゃうなんて……!


 ――どうして……! 天罰なら私が受けたのに!



 秘宝に手を伸ばした私の脳裏に、青い薔薇を手に、何度もプロポーズしてくれたターク様の姿が浮かぶ。


 これを使えば私も、ターク様を殺したくなるのだろうか。



 ――ターク様、ごめんなさい!



 秘宝を手に、「達也を助けて!」と、叫んだ私の体から真っ黒なモヤが噴き出した。


 ひどい乾きが喉をひりつかせ、皮膚がパリパリとひび割れ黒ずんでいく。



「な……治った?」



 私は這うように石の台に戻り、倒れている達也の傷を確認した。


 だけど、短剣は突き刺さったまま、止まらない血が床まで滴っている。


 青白くなった達也の顔には、黒い血管が浮き出していた。



「どうして治らないの!?」



 そう叫んだ私の髪をなで、達也は悲しそうに笑った。



「みや、ちゃん、ありがと……。でも、だめだよ。そいつは、誰も救わない……ただの闇だ」


「嘘だよね? カミルさんが言ってたよ? 願いが叶うのは本当だって」


「彼女の、願いは、叶わないよ」


「嘘だよ……! 達也のバカ!」


「ね、最後に……君の歌を、聴かせて……」


「最後なんて、言わないで!」



 血に染まった手で、私の涙を拭う達也。



「お願い! 誰か助けて!」



 掠れた声を絞り出し、私がまた叫んだ時、開かれた広間の入り口から、ターク様が駆け込んできた。



「ミヤコ!?」


「ターク様、達也が……!」



 闇に染まった私達を見て、目を丸くしながらも駆け寄ろうとしたターク様。


 だけど、彼の前に、真っ黒なモヤがもくもくと現れ、黒いドレスを来た髪の長い精霊が立ち塞がった。



「誰だお前!?」


「私はノーラ。闇の大精霊よ」


「お前、秘宝に呪いをかけてる精霊か?」


「正解! 浄化なんてやめてね? ターク。ダー君はもらっていくわ」


「ダー君?」



 ノーラが手をかざすと、達也の身体はモヤに包まれふわりと持ち上がった。彼に刺さっていた短剣がカランと音を立て床に落ちる。



「や、やめて! 達也をかえして!」



 慌てて突き出した私の手から、小さな泥団子が飛び出しノーラのドレスにビチャッとくっついた。



「やだ、汚い。何するの?」


「どうして達也を連れていくんですか?」


「私の渡した短剣を、自分に刺しちゃうなんて、最高だわ。大合格よ」


「何の話だ?」


「タツヤは闇の呪いの中で、自我を保つことが出来るのよ。彼こそ、私がずっと探してた愛しのダーリンだわ!」



 ポカンとする私とターク様をその場に残し、ノーラはそのまま、達也と共にモヤになって消えてしまった。



 ノーラの呪いにかかり、宮子を殺したくなった達也。しかし彼はギリギリの理性で、宮子を殺さず、短剣で自分を刺したのでした。

 達也はノーラに気に入られ、連れ去られてしまいました。いったい、ノーラの目的は何なのでしょう。


 次回、第十七章第四話 待ちに待った再会。~嘘だって言ってくれ!~をお楽しみに!


 語りはターク様になります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


こちらもぜひお読みください!



三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~





カタレア一年生相談窓口!~恋の果実はラブベリー~

― 新着の感想 ―
[一言] 花車様おはようございます! 達也はみやこをまもるために自分を刺しそしてターク様もやっとかけつけた! しかし、達也は連れ去られてしまう!これは、どうなるのか!? 続きを読まなければ!!
[良い点] 達也、頑張りましたね(T . T) 宮子を想いながら、自己犠牲……。 そしてヒーローは遅れてやってくるあるある! ターク様、どうにかして収拾してください(>_<)
[良い点] ノーラさん、ダーリン発見おめでとうございます(笑)奔放すぎて最後の最後で面白かったです。途中まで達也の葛藤とか宮子の罪悪感がー、などと思ってましたが、最後にそっちへもってかれました。面白か…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ