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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第17章 闇に浸されて

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01 助けを求めて。~彼女は僕を愛さない~

 場所:モルン山(精霊の遺跡)

 語り:名城達也

 *************



 豆の生える歌を歌うみやちゃんを背負い、僕、名城達也は夜のモルン山を彷徨っていた。


 どこかで雷の轟く音が聞こえ、時々空が光っている。また少し強くなった雨が、容赦なく僕たちの体を冷やしていた。



「みやちゃん、大丈夫? 寒いよね」


「へぇきぃ」



 秘宝の呼び出しのせいか、元々ボーッとした様子だったみやちゃんだけど、僕のかけた暗示でさらにぼんやりしてしまっている。


 なんだか次第に、元気がなくなってきているみたいだ。



「雷も怖いし、雨のかからないところ探そうか」



 元来た方向に戻りたくても、段差と魔物に阻まれ思うように進めない。僕はまた雨宿りの場所を探しはじめていた。



 ――どうしよう。このままじゃまずいよね。


 ――お願い、助けて、誰か……。



 焦りに押しつぶされそうな胸の内で、僕がそう叫んだ時あの声が頭に響きはじめた。



『こっちよ……。こっちへおいで』


 ――この声は、ノーラ?



 昼間魔物に襲われた時、僕たちを守ってくれた闇の魔法。あの時確かに聞こえた、僕を愛しているという闇の精霊の声。



『そう、ノーラよ。タツヤ、わたしに会いに来て』


 ――僕たちを助けてくれるの……?



 僕は寒さに震える足で、その声のする方へ歩きはじめた。


 しばらく行くと、濡れてぬかるんでいた足元が石畳に変わった。顔を上げると、アーシラの森で見たのと同じ、蔦のからまった古びた遺跡が、生い茂る木々の中にひっそりと建っている。


 僕が近づくと、閉ざされていた扉が、まるで自動ドアかのようにスッと開いた。僕は誘い込まれるようにその中へ入っていく。


 建物の中は薄暗かったけれど、ところどころに魔力で光る小さな照明が置かれていた。魔物が湧いている様子もなく、雨宿りにはちょうどいい。


 ひんやりと冷たい石の壁に手をつきながら、僕は遺跡の中を奥へと進んだ。


 不思議と恐怖を感じることなく、一番奥の大きな広間に入ると、禍々しく光る精霊の秘宝が置かれた祭壇があった。



「達也、よんでるよ」


「そうだね。僕も呼ばれてる」



「よんでる、よんでる」と、繰り返すみやちゃんを僕は石の台に寝かせた。足がひどく腫れ包帯の上に血が滲んでいる。



「みやちゃん、ここ、動かないでね」



 彼女の耳元に口を寄せ、僕はまた暗示をかけた。みやちゃんはとても素直に台の上でじっとしている。


 しばらく様子を見ていると、彼女はそのまま寝てしまった。


 ケガのせいか、それとも風邪を引いてしまったのか、はぁはぁと随分苦しそうな息遣いだ。


 そして時々、小さな声で「ターク様……」と、うわ言を言う。



「ねぇ、僕の名前呼んでよ」



 彼女の額に手を当て、その体温を確かめながら無意識にそうつぶやく僕。


 雨に濡れ火照った顔で「んー。たつやぁ……」と声をもらした彼女が、妙に色っぽく見えてぶわっと顔が熱くなった。



 ――わぁ、むなしい。言うこと聞いてくれるのは、暗示のせいだよ。


 ――これ、彼女が覚えてたら怒るかな。



 思わず額から手を離してしまったけれど、これはかなり熱がありそうだ。


 僕は何か、みやちゃんを回復させる方法はないかと、キョロキョロと周りを見渡した。


 石造りの冷たい部屋の奥に、古そうな書棚が見える。そこには、真っ黒な装丁の分厚い本がぎゅうぎゅうに詰められていた。


 近づいて背表紙の文字を読んでみると、どうやら全て闇属性の魔道書のようだ。



 ――闇属性に、回復魔法ってないんだっけ……?



 僕はそれらしい本を一冊手に取って、パラパラとページをめくってみた。


 ただでさえ読みにくいこの世界の文字で、高度な魔術の難しい解説がつらつらと書かれている。


 しかも、古文のように古めかしい言葉が使われていて、難解さが倍増していた。


 だけど、これを読み解ければ、何か研究のヒントになるかもしれない。



 ――今はとりあえず、回復魔法だ。



 なんとか、回復魔法がまとめられているページを見つけ出して読んでみると、そこにはこんな魔法の説明が載っていた。



 <サキュラル>

 魔物から体力と魔力を吸い取る初級魔法。


 <アンゾーン>

 死体をゾンビ化させて復活させる中級魔法。効果は長くても一時間程度。


 <エグサル>

 自分の命と引き換えに死んだ仲間を蘇生する上級魔法。


 <デモンクーズ>

 瀕死状態の仲間を魔物化させ、魅了して使役する最上級魔法。



 ――うん、全部ろくでもないね……!




「ノーラ? どこにいるの?」



 困った僕は助けを求め、気がつくとノーラを呼んでいた。すると、秘宝からモクモクと黒いモヤが立ち上がり、その中から一人の精霊が現れた。


 彼女は真っ黒なドレスを着た、闇深く美しい精霊だった。黒く真っ直ぐな髪は床に届くほど長く、体つきはとてもスレンダーだ。



「タツヤ、久しぶりね」



 彼女はそう言いながら、細い指先で僕の肩をそっとなぞった。



「久しぶり? 僕は君を知らないよ」


「私は知っているわ。あなた秘宝の力を使って、異世界転送ゲートを通って来たでしょ。あなたをタークに入れたのは私よ。ファシリアじゃ失敗しそうだったからね」


「えぇ……? じゃぁ、もしかしてみやちゃんをミレーヌちゃんに入れたのも……? どうして、そんなこと……」


「タークとミレーヌを守るためだって言ったら、信じるかしら」


「まぁ、それなら、成功はしてるね。だけどどうして君は……」



 僕が質問するのを遮るように、彼女は僕にくるっと背中を向けた。



「あなた、タークの中であれだけ過ごして、本当に自我を保っているのね。すごいことだわ」


「それが……なんなの?」


「一次審査は合格ってことよ」



 彼女は僕に背中を向けたまま、闇に染まった秘宝を指でなで回している。


 その姿を見た僕は、はっとした。



「……もしかして、その秘宝で人を呼び寄せて、闇に突き堕としているのは君なの? 秘宝に変な呪いをかけているのも?」



 僕の質問に、彼女は「えぇ、そうよ」と、答えた。僕に斜めの視線を送りながら得意げな顔でニヤリと笑う。



 ――最悪だ! きっと良い精霊だって期待してたのに!



 僕に力を与えていたのは、人を闇に突き落とし、大切な人を殺させてしまう、とんでもない闇の大精霊だった。



 ノーラの呼び声に誘われ、モルン山の精霊の遺跡にたどり着いた達也。熱を出した宮子を助けようと、ノーラを頼りましたが、彼女はなんと、秘宝に呪いをかけていた恐ろしい闇の大精霊でした。果たして二人の運命は……?


 次回、第十七章第二話 精霊の誘惑。~肯定できない想い~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 花車様おはようございます! 闇の精霊ノーラの話を聞き全ての始まりはこの精霊の仕業だった事を知った達也。 これはどうなるのか!? 気になりますヾ(・ω・`;)ノ 続きいただきます٩(ˊᗜˋ*)…
[良い点] ぼんやりした宮子に呼ばれると、達也は背徳感を感じながらもドキドキしてしまったでしょうね(●´ω`●) なんだか読者までドキドキしてしまいました(=´∀`)人(´∀`=)
[良い点] さすが達也、もってますねぇ。ノーラが想像以上に大物でびっくりしました。そして、そんなところにまた怪我して巻き込まれている宮子も、持ってますね。とても面白かったです。 [一言] ノーラが何を…
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