09 [番外編]恐ろしい女子会。~心配で、かわいいとこです~
場所:マリルの屋敷
語り:小鳥遊宮子
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――ポルールの奪還から、二ヶ月程経った頃。
私、小鳥遊宮子は、マリルさんの開く、お茶会に呼ばれていた。
季節はすっかり冬だけれど、秋のポルールと比べても、王都は暖かく過ごしやすい。
昼下がりの明るい日差しが差し込むティールームに、その日集まったのは、マリルさんとカミルさん、私、ミレーヌに、ミアさん、ユナさん、ニナさんを加えた、合計七人だった。
これは、日本で言うところの、「女子会」というやつだ。
ちなみに、エロイーズさんもいたけれど彼女は会話には参加せず、いつものように少し離れた所から、じっとマリルさんを見守っていた。
彼女はそれだけで、天にも昇りそうなほど幸せなのだそうだ。
眩しい程白いクロスがひかれた大きなテーブルに、色とりどりのケーキが、美しく並べられている。
「さぁ、ハーブティーの準備が出来たようですわ」
マリルさんがそう言うと、何人ものメイドさんが現れ、ハーブティーをテーブルに並べてくれた。
少し緊張した顔をしている私に、「今日はセバスチャンがブレンドしましたの。マルベットは入ってなくてよ」と、マリルさんは、ばつが悪そうに声をかける。
「はわ、わ、わかってます! 良い香りですね。今日はどんなブレンドなんですか?」
「消化促進効果のある、ラヒーユを主役にしたティーですの。今日はみなさんに、お腹がはち切れるまで、ケーキを食べていただきますわ」
「わぁ、それは、嬉しいです」
思わず声が大きくなった私に、マリルさんがニコニコと笑いかけてくれた。
私と仲良くなろうと、彼女は努力してくれているようだった。
ターク様をあんなに愛していた彼女だけれど、婚約を解消した後の様子は、本当に潔く感じる。
「美味しい~! 甘酸っぱい香りがするね。だけど、僕たちまで呼んでもらってよかったの?」
マリルさんとは長い付き合いだというカミルさん。だけど彼女は、初めてお茶会に誘われたらしく、少し意外そうな顔をしていた。
「こんな素敵なお茶会、僕達参加したことないよ。ねぇ」
そう言って、ミアさん達に同意を求める彼女。
最近までアグスさんのゴイムだったミアさん達は、当然のように首をブンブンと縦に振った。
奴隷から解放された三人は今、マリルさんと同じ、国家魔術機関の試験に向け、猛勉強中らしい。
ミアさんがマリルさんに試験対策のアドバイスを求めたこともあり、彼女たちは知らない間に思いの外仲良くなっているようだった。
「わたくし達、ポルールで共に戦った仲間ですもの。たまには女子だけで、お菓子を食べながら盛り上がりたいですわよね。特にずっと戦地を支えてくださっていたミアさん達には、感謝を込めて沢山ご馳走したいですわ」
「ありがとうございます! マリル様」
「「わぁーい、ありがとうですー! マリル様!」」
「ミレーヌさんも、体だけとはいえ、あんな危険な場所に参戦したんですから、心置きなく楽しんでくださいませね」
「ありがとうございます!」
彼女達がケーキを頬張る様子を、にこやかに眺めるマリルさん。
ゴイムを蔑んでいるように見えたマリルさんだけれど、彼女のあれは、ミアさんへの、積年のヤキモチから来ていたらしい。
マリルさんはこのお茶会で、何かを乗り越えようとしているようだ。
「ミヤコさんも、今日は沢山食べてね。あなたにはお詫びしたいことが、山ほどありますもの」
「いえいえっ、私の方こそです。本当に、お気になさらずっ」
裏返った声で返事をする私。
彼女の婚約を破綻させ、恋人を奪ってしまった立場で、何をお詫びされると言うのだろうか。
私が冷や汗をかいていると、カミルさんが、不思議そうな顔で、私達を観察しはじめた。
「で、マリルちゃん達って結局、何があったの? タークと別れてそんなに経ってないのに、マリルちゃんがミヤコちゃんと仲良くするなんて、意外だよね」
――ひぇえ! 流石カミルさん、ド直球!
相変わらず、歯に絹着せぬカミルさんに、「それはそれは、大暴走してしまいましたの」と、私の封印を解除しようとした話を、サラリとはじめるマリルさん。
青ざめる私のとなりで、カミルさんは、「ミヤコちゃんは可哀想だけど、まぁ、あんな情けないタークを見たら、腹も立つよね」と、マリルさんに同情の視線を送った。
「仕方ありませんわ。ターク様が何か悩んでいると気付きながら、わたくし、自分の勉強ばかり優先していたんですもの。結局自分が、一番かわいかったのですわ」
「まぁ、それは、みんなそうだよね。きっと。だけど、そう思えるマリルちゃんは偉いよ」
「うふふ、ありがとう。カミルさん」
とても仲の良さそうな二人に、少し気を抜いていると、カミルさんはその、青い宝石のような瞳を輝かせ、ガバッと私に向き直った。
「で!? ミヤコちゃんは、タークのどこが好きなの?」
「ひゃい!?」
――この流れで、それ、聞きますか!?
目を丸くして固まる私に、「ほらほら、聞かせてよ。あのピカピカの、どのあたりが気に入ったのかな?」と、絡みつくように揶揄いはじめるカミルさん。
「え、えぇっとお……。なんだか心配で、放っておけなくて、か、かわい、い……とこですかね」
「かわいい? へー! それから?」
「えっ? み、みんなに優しくて、戦ってるときは、カッコいい、ですし……」
「かっこいい!? へー!」
――ひぇー! 勘弁してください!
次々に新しいケーキが運ばれてくる中、カミルさんの試験体を切り裂くメスのようなトークで、私たちの秘密や誤解、わだかまりが全て白昼に晒され解剖されていく。
――こんな恐ろしい女子会が、開催される日が来るとは……。
私のHPがゼロになりかけた頃、今度はマリルさんが、カミルさんに反撃を開始した。
「だけど、カミルさん? あなたこそ、闇に堕ちてまで秘宝に何を願ったんですの? ターク様のために、闇のシェンガイトを集めていらしたんですわよね?」
「うぇっ!? それ、聞いちゃう?」
「嘘はダメですわよ。みなさん、正直に答えたんですからね」
「うぁっ、わ、わかってるよ?」
急激に動揺し、目を泳がせるカミルさん。彼女は秘宝を使い、長い間その身に闇を宿していたのだ。
「実は、タークの、不死身を治す方法を教えてって、願ったんだよね」
観念したような、低く抑えた声でそうつぶやいたカミルさん。マリルさんは、すごく意外そうに「まぁっ」と、声を漏らした。
「なるほど、やっぱりカミルさんも、ターク様が心配だったんですね!」
「ち、違うよ? 決闘の時、不死身はずるいから、剥ぎ取ってやろうと思っただけだよ?」
「け、決闘!?」
「はいはい。この中で一番素直じゃないのは、カミルさんで決まりのようですわね」
マリルさんが呆れた顔でそう言うと、カミルさんは照れ臭そうに「あはは……」と笑い、頭をかいた。
「でも、あの秘宝はすごいよね。願って一時間もしないうちに、森の中でアグス様に会ってね、タークの不死身の治し方が分かったんだよ」
「わぁ、そうだったんですね! すごいです」
「でしょでしょ? 闇に堕ちて、本気でタークを殺しかけたけどね」
――えっ!? カミルさん、それって……。
秘宝の呪いが、一番大切な人を殺そうとする、という事実を知らないのか、ケロッとした顔でそう言ったカミルさん。
「まぁ、恐ろしいですわね!」と、おどろいた顔のマリルさんも、やはりこの事実を知らないようだ。
私は更なる冷や汗をかきながら、そんな二人を眺めていた。
これは出来る限り、彼女達には秘密にしておきたい。
とても心をすり減らしたお茶会だったけれど、ケーキはどんどん無くなり、美味しいハーブティーも沢山いただいて、私は大満足で、ターク様のお屋敷に帰ったのだった。
今回は、マリルさんのお屋敷のティールームで開かれたお茶会の様子をお届けしました。いやぁ怖い。
次回はいよいよ17章に入ります。17章は結構ひどい事が起こりますので気を付けて読んでください。
次回、第十七章第一話 助けを求めて。~彼女は僕を愛さない~をお楽しみに!




