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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第16章 燃ゆる雪山

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08 隣国の王子と石の上の宮子。~どこが無事なんですか?~

場所:ポルール(第二研究室)

語り:ターク・メルローズ

*************



 研究室に戻った父さんは、ゼーニジリアスが隣国の王の弟君と知り、顎が外れるほどおどろいていた。


 一年もこんなカプセルに入れ、毎日観察していたのだから、それはおどろきもするだろう。



「父さん、彼をいつまでもここに置いていては、またいつ襲撃されるかわかりません。早く王都の収容所に移しませんか?」


「しかしな~。こいつが本当にノーデス王の弟なら、さっさとクラスタルに返したほうがいいかもしれんぞ」



 父さんがそう言うと、ずっと黙っていたゼーニジリアスが、突然大声をあげはじめた。



「や、やめてくれ! 兄さんに……ノーデス王には、私の居場所を知らせないでくれ! 頼む! 頼む!」


「なんだ? お前、自分の国に帰りたくないのか?」


「ダメだ、兄さんに引き渡されるくらいなら、ここにいたほうがマシだ。頼む、匿ってくれ!」



 動かない体で、掠れた声を絞り出して叫ぶゼーニジリアス。


 彼がいままで、なにをされても口を割らなかったのは、ノーデス王に自分の失態を知られたくなかったからだろうか。


 確かに、彼のしたことは、ベルガノンとの平和条約を結んだノーデス王の顔に、文字通り泥を塗ったと言えるだろう。


 帰ればなにかしら、処罰はされるだろうが、ここにいたいとは変なやつだ。



「どうしますか? 父さん」


「うーむ、ノーデス王の弟と言われては、下手にモルモットにもできない。やっぱり国に返すしかないだろうな」



 そう言って、ニヤリと笑う父さん。いままでなかなか口を割らなかったゼーニジリアスが、急に狼狽えだしたのを見て、少しいじめたくなったようだ。



「新しいモルモットが必要なら、精霊狩りのネドゥがいるわよ」


「それはいいな、そうしよう。はっはっは!」



 父さんとガルベル様が、簡単に彼をクラスタルに返すとは思えないが、ゼーニジリアスは信じたのか、シクシクと涙を流した。


 どうやら彼も、ノーデス王に命令され、ベルガノンを攻撃したわけではないようだ。



――まったくよくわからないな。


――だが今日はもう、思考力も限界だ。


――とにかくいまは、早くミヤコを連れて帰りたい。



 私の心はさっきから、モルン山と研究室を、行ったり来たりしていた。


 まだいろいろ気になることはあるが、とりあえず役目ははたし、レムスルドラも父さんも無事だ。


 転送ゲートでモルン山の(ふもと)まで行き、馬を借りればガルベル様の小屋はすぐそこだ。


 一晩休むくらいは問題ないだろうと、私はガルベル様に声をかけた。



「ガルベル様、今日はミヤコを、連れて帰っていいですか?」


「あら、いいけど、二人ならもう寝ちゃったんじゃない? もう結構夜中よ」


「え……」



 光の入らない坑道にいたせいで気が付かなかったが、なにかいろいろしているうちに、思いの外時間がたっていたようだ。


 ミヤコを連れて帰りたかったが、寝てるところを起こすのはさすがに気が引ける。



「じゃぁせめて、無事かどうかだけ、確認してください」


「まったく、心配症ね」



 ガルベル様はそう言うと、水晶を取り出し山小屋のリビングを映し出した。


 そこにはなぜか、ガサゴソと動き回る、大きな魔物の姿があった。



「リビングに、オーク……?」


「ガルベル様……これはいったい……」


「結界が切れたみたい……。内側からなにか、刺激があったのかしら。あの子たちの魔法程度では、当たっても開かないはずなんだけど」



 ガルベル様はそう言うと、青い顔で私から目を逸らした。彼女のかける魔封じの封印はやはり、かけた側からは簡単に開くようだ。


 まるでセヒマラ雪山に戻ったかのような、ひどい震えが背中に走り、私はガタンと立ちあがった。



「ミヤコを探してください!」


「わ、わかったわ」



 あらためてガルベル様が水晶に手をかざすと、石の台に寝かされている、ミヤコの姿が見えた。


 かなり苦しそうな息遣いで、「はぁ、はぁ」と、大きく喘いでいるように見える。体は濡れて汚れ、足には血が滲んでいた。



「ぶ、無事みたいよ?」


「どこが無事なんですか? どこですか? ここは?」


「さぁ……わからないから多分、どこかの遺跡ね」


「どこかってどこですか!?」



 両手を机に叩きつけながら身を乗り出すと、ガルベル様はまた、キョドキョドと視線を彷徨わせた。



「……し、知らないったら。でもそんなに遠くへ行けないでしょうから、モルン山の遺跡かしら? もしくは、アーシラの森から呼び出しを受けたとか?」


「僕をモルンに置いて、ガルベル様はアーシラへ向かってください」


「わ、わかったから、そんな怖い顔しないで?」


「すみません、お願いします」



 私は必死に気持ちを落ち着け、ガルベル様と一緒に第二研究室を出た。


 私だって一応、彼女が私を心配し、セヒマラに来てくれたのはわかっているつもりだ。


 しかし、彼女のやることはいつも、大事なところが抜けている。


 その穴だらけの行動で、いつも私は悪夢のような災難を被ってきたのだ。



――ミヤコ、無事でいてくれ!



 研究室を出た私は、ガルベル様に抱えられ、彼女の山小屋があるモルン山に向かった。

 ゼーニジリアスの処遇について話すガルベルとアグス。ターク様はそんな彼の行く末より、ミヤコが気になるようです。彼女がどこかの遺跡に居る事を知り、ターク様は宮子を探しに飛び出しました。


 次話で16章は終わりです。17章に入る前に、番外編を一話お届けします。


 次回、第十六章第九話 [番外編]恐ろしい女子会。~心配で、かわいいとこです~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] ようやくみやこのピンチを知るターク様! これはすぐにでも行かなければ!? 続きを楽しませていただきます(*๓´˘`๓)
[良い点] 豆の木をつたっていたはずがどこかへ到着!? ターク様は心配でしょうね(´;ω;`) でもきっと達也が守っているはずです。 今だけの役得ですもんね!
[良い点] どうやら宮子の状況はだいぶ悪化したようですね。そしてやはり内側からのあれのせいたったのですね。ガルベル様の面白さがふんだんにあらわれていて、良かったです。 [一言] やはり、物語をかき回し…
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