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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第16章 燃ゆる雪山

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06 高潔な彼女と全属性な二人。~ちょっとゾワゾワするな~

 場所:第三砦

 語り:ターク・メルローズ

 *************




 ファトム達を浄化し終えた私達は、ファシリアの風に乗り、セヒマラ雪山を降りた。


 (ふもと)に近づくと、マリルの燃える鉄壁バーニングアイアンウォールが、砦を守っているのが見える。


 あんな強大な魔法を、彼女は昨日からずっと、維持(いじ)し続けていたらしい。



「マリルちゃん、立派だよ」


「あぁ、本当に。やはり彼女は高潔(こうけつ)だな」



 巨大な噴石(ふんせき)も、高温の泥流(でいりゅう)も、全てマリルの鉄壁がせき止め、砦は無事な姿で残っていた。


 噴火もおさまり、もう砦が壊れる心配はなさそうだ。



「マリル、大丈夫か? 鉄壁はもういい。ありがとう」



 私達がマリルに駆け寄ると、彼女はフラフラとその場に倒れ込んだ。



「マリル様!」



 一晩中マリルを守っていたらしいエロイーズも、街を守っていた騎士や兵士たちも、ひどくボロボロだ。


 街に魔物が入り込まないよう、砦の上で懸命に戦ってくれていたようだ。


 よく見ると、大量のポーションの空き瓶が、マリルの足元に転がっていた。



「これ、全部飲んだのか?」


「う……うぷ」


「よくやったマリル!」


「マリルちゃん、ありがとう!」


「うぇっ……ぷ……」



 かなりキツそうな彼女達を医務室に運び、後の事はイーヴ先生に任せて、私達は捕まえた精霊狩りたちを連れ、牢屋に移動した。



「一体なんのつもりなの?」



 檻に入れたネドゥ達を、早速問いただそうとするガルベル様。カミルも興味深そうに牢屋をのぞき込んでいる。


 私もまだまだ、彼女達には聞きたいことがあるのだが、今は尋問している余裕がない。



「ガルベル様、精霊狩りたちの仲間が、第二研究室を襲撃しているようです。僕はポルールヘ行ってきます。囚人たちをお願いします」


「え? 第二研究室が!?」



 私が雪山で聞き出した話を、二人に伝えると、カミルとガルベル様は揃って青い顔をした。



「え? ゼーニジリアスが、ノーデス王の弟ですって?」


「うそっ! アグス様のところに、精霊狩りが? すぐ行かなきゃ!」


「ちょっと待って! タッ君、カミルン、先にこれで様子を見てみましょう」



 走り出そうとする私達を引き止め、ガルベル様が水晶を取り出した。


 水晶がもやもやと色を変えると、ポルールの坑道の奥にある第二研究室の様子が、ぼんやりとそこに映し出された。



「本当に襲われてる……」



 研究の道具や資料がめちゃくちゃに散乱し、ゼーニジリアスの入っていたカプセルは壊され、誰かが床に倒れているのが見える。



「まずいわね。アグス達は無事かしら。私も行くわ。カミルン、囚人たちの見張りはあなたに任せるわね」


「えぇー!」



 少し不満そうなカミルに見張りを任せ、私はガルベル様と共にポルールに向かった。



      △



 ――父さん、ミレーヌ、無事でいてくれ!



 ポルールに到着した私達は、重く大きな鉄の扉を開き、第二研究室に駆け込んだ。



「あら? ガルベル様にターク様? 雪山のモヤはもう、平気なんですか?」



 青い顔で息を切らしている私達を見て、少しぽかんとした顔をするミレーヌ。


 彼女は随分ずいぶん落ち着いた様子で、散らかった研究室の片付けをしていた。


 部屋の(すみ)にはゼーニジリアスと、襲ってきた精霊狩りらしい男達が三人、縄でしっかりと拘束されている。皆目を回し、気を失っているようだ。



「ミレーヌ、これは一体……」


「いきなり襲いかかってきて、大切なカプセルを破壊されたので、捕まえちゃいました」


「これを、お前が一人で?」


「あ、アグス様なら、お部屋で寝てますよ。ごめんなさい、殴られて、少しケガをされたんです。でも、しっかりヒールで治したので大丈夫ですよ」



 そう言って、ケロッとした様子で微笑ほほえむミレーヌ。全属性魔法を簡単に操れてしまうと言うのは、どうやら本当らしい。



「つ、強いんだな。父さんを守ってくれてありがとう、ミレーヌ」


「ミヤコのおかげで、最大魔力二万ですからね。だけど、ミヤコみたいな強い魔法は使えないんですよ。普通の魔法が沢山使えるだけです」


「それでもすごいよ。おどろいた」



 部屋の隅で小さくなっている精霊狩り達に、あらためて目をやると、皆服が焦げて破れ、肌はすすけて黒くなっている。


 どうやら一度、焦がされ、ヒールで治療されたようだ。これは強めのファイアーボールか、それとも電撃剣(ライトニングソード)だろうか。



 ――ミレーヌも、怒らせると怖いんだな。



 先日、ミヤコの落とした電撃剣(ライトニングソード)で、指先が炭になった感覚を思い出し、また背中が寒くなった私は、ゴクリと喉を鳴らした。



「思った通りね。ミレーヌならうまくやると信じてたわ」



 さっきは私と同じように、青い顔をしていたガルベル様が、まるでこうなることを知っていたかのような口振りで話している。


 だが、全属性魔法を使えるこの二人には、何か共通する秘密があるのかもしれない。


 歴史の本には、三十年程前、東の帝国オトラーとの戦争で活躍したガルベル様は、闇属性魔法のみを使う魔女だったと書かれている。


 それ以降に彼女は、全属性の力と、衰えない体を手に入れたのだ。


 いつか自分を愛してくれている、身近な人々が死んでしまっても、この人だけは生きているのかもしれないと思うと、少しゾワゾワしなくもない。


 詳しく聞きたい気もするが、この辺りの話に踏み込むと、彼女を怒らせる危険がある。



 ――そう言えば、全属性の力を持つ大精霊が居たとか、ファトムが言っていたな。


 ――もしかすると、この二人は、その大精霊に愛されているのか?


 ――まぁ、今はいいか。



 何日も寝ていない頭で、余計なことを考えると疲れてしまう。


 皆の無事を確認した今、私は一刻も早く、モルン山の小屋へ、ミヤコを迎えに行きたかった。



 ――だが、闇を集めたシェンガイトを置いていかなくてはな。



 早る気持ちを抑え、私は背負っていた大きなバッグから、シェンガイトの封印ケースを取り出した。


 そう言えばうっかり、浄化した秘宝も持ってきてしまっている。



「これ、どうしたらいいんだ?」



 私がそう言った時、背後から「ターク……?」と、少しおどろいたような声がした。振り返ると、そこに、父さんが立っていた。



 雪山を降りると、そこには懸命に頑張っているマリル達の姿がありました。彼女の頑張りに感謝しつつ、第二研究室に駆け付けると、精霊狩り襲撃は、ミレーヌがすっかり片づけてくれていたのでした。


 早く宮子を迎えに行きたいターク様の所に、めずらしくアグスが現れます。


 次回、第十六章第七話 託された秘宝。~どうしたいのか考えろ~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] ミレーヌもアグス様もとりあえず無事でよかった! そうなると気になるのはやはりみやこ。 引き止められましたがどうなるのか!?
[良い点] マリルさんたちずっとがんばっていたんですね! 宮子への嫌がらせも可愛らしい嫉妬からですし、エロイーズさんが惚れるのもわかります! マリルさんお疲れ様(*´꒳`*)
[良い点] ミレーヌさん、強すぎますね。予想外の展開でした。マリルさんも頑張っていて、とてもえらかったと思います。アグズ様もご無事で何よりでした。 [一言] 精霊狩りの、この連中との戦いは一件落着でし…
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