表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第16章 燃ゆる雪山

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

185/247

05 おかげさまです。~パワーアップしたターク~

 場所:セヒマラ雪山

 語り:ターク・メルローズ

 *************



「んふふ。あんたの父親、アグスって言ったっけ? 今頃死んでるんじゃない?」



 突然、レムスルドラにも来ていないはずの父の名前を出され、私は耳を疑い、顔を引きつらせた。


 彼女の意地悪そうに少し釣り上がった目が、得意げにかがやいている。



「あたいの仲間が、ニジルド殿下を助けに行ったからね。こっちの騒ぎは、陽動作戦(ようどうさくせん)ってわけ」


「ニジルド殿下……? まさか、ゼーニジリアスのことを言っているのか? あいつ、お前らの仲間だったのか?」


「違うわよ。知らないの? ニジルド殿下はノーデス王の弟君だよ」


 ――えぇ? 何言ってるんだ?



 (にわか)には信じられず、寝不足で回らない頭を無理に動かしてみると、次第に心臓が音を立てはじめ、嫌な汗が噴き出してきた。


 父さんがそう簡単に死ぬとは思わないが、私は父を、ミレーヌに任せてきたのだ。



 ――こんなことなら、頼むなんて言わなければよかった。ミレーヌ、無理をしていなければいいが……。


 ――しかし、ニジルド殿下か。聞き覚えがあると思ったら、昔、母さんが会ったと言っていたな。



 あれは、私が十四になった頃だった。隣国の貴族を招いての社交パーティーに出かけた母が、そこで出会った立派な殿下の話を、私に言って聞かせた。


 突然マリルを婚約者として紹介され、まだまだ戸惑っていた時に、「ニジルド殿下のように、女性に敬意を持って接しなさい」と、母は私を(さと)したのだ。



 ――全く、母さんは人を見る目がないな。



 嫌な気分になった私は、思わず小さなため息を()らした。


 あの頃感じていた懐かしい不満と、母を亡くした喪失感(そうしつかん)が私の胸に淡く広がる。


 それにしても、ゼーニジリアスが隣国(クラスタル)の王の弟だとしたら、やはりこれらの厄災は、隣国(クラスタル)からの侵略なのだろうか。



「とんでもない話だな。お前、誰に言われてこんなことをしているんだ? これはやっぱり、戦争なのか?」


「違うわよ。ニジルド殿下を助けたら、すっごいご褒美(ほうび)が貰えるんじゃないかって、あたいらが勝手にやってるだけ」



 ――本当なのか?


 ――くそ、早く山を降りて確認しなくては……。


 ――しかし、浄化が終わらない……。どうする? どうすれば……。



 心細く、もどかしい気持ちに焦れながら、私は遺跡の外に目をやった。


 真っ白だった景色は、火山灰で灰色にくすみ、私の下山を(はば)むように、溶岩と泥流(でいりゅう)がうごめいている。


 この山を降りるには、もう一度足を燃やさなくてはならないようだ。



 ――この中を走って降りるのか?


 ――流石の私も燃え尽きそうだな。



 そんなことを考えていた私の耳に、「おーい」と、カミルの声が聞こえてきた。


 カミルに会ったのは数日前だが、その聞きなれた張りのある声が、今は懐かしいとさえ感じてしまう。


 空耳かと思ったが、その声は次第に近づいて来た。


 そして、彼女の声が大きくなるにつれ、私の体が、激しく光りはじめた。



 ――なんだ? 力が湧いてくる。


 ――あれは、アーシラの精霊達か? シュベールもいるな。



 色とりどりにかがやく精霊達を連れ、こちらに飛んでくるのはガルベル様だ。


 彼女の(ほうき)の後ろに乗ったカミルが、私に大きく手を振っている。


 その背後から、風になっていたイーヴ先生も、実体化して現れた。



「ターク、ボロボロじゃないか。大丈夫か?」



 私のひどい姿を見て、イーヴ先生は私に駆け寄ってきた。



「ぐすっ……。ターク、すぐに来てやれなくて、すまなかった。一人で、よく頑張ったな……!」



 美しい先生の顔が見事に崩れ、まるで滝のような涙と鼻水が、次から次へと流れだしてくる。



 ――まずい、つられそうだ。



 先生になで回され、かなり照れくさいと思いながらも、ホッとする気持ちで涙腺が熱くなり、漏れそうになる嗚咽(おえつ)を必死に(こら)える。


 今ここで泣いては、流石に少し格好がつかない。



「お陰様で、無事です、先生。カミル……。これは?」


「タークに加勢が必要だってマリルちゃんが言うから、精霊達を集めてきたよ」


「マリルが……?」



 そう言うカミルの後ろには、十人近い精霊があつまっていた。


 彼女達のおかげで、まるで精霊の集会所に居るかのように、私の体は強く光り、ファトム達が浄化されていく。



「すごいな。精霊ってこんなに連れてこれるものか?」


「ファシリアにも声かけてもらったからね」



 イーヴ先生の横で、ファシリアが得意げな顔をしている。



「なるほど。みんな、協力ありがとうございます」


「当然よ。可愛いぼうや。いつでも私を呼んでね」


「闇堕ちした仲間を放ってはおけないしね」



 精霊達は口々にそう言って、私に力を貸してくれた。


 そして、浄化された闇魔道士は、どうやらネドゥの姉だったようだ。



「ねえさん! 元に戻って良かった」


「ネドゥ……。これはいったい……? あたし、ずっと悪い夢を見てたみたい」



 ネドゥは喜びに瞳をかがやかせている。姉を闇魔道士にしてしまったのは、彼女の本意(ほんい)ではなかったようだ。



「あなた達、さっさと山を降りるわよ」



 ガルベル様はネドゥをメロウムで拘束(こうそく)し、すごい速さで小脇に抱えた。



「寒い! 早く砦に戻るのよ! 全く、どうして遺跡なんかに(こも)ってるのよ。場所が分からなくて探したじゃないの」


「待ってください。まだ浄化が……。と言うかガルベル様、ミヤコ達はどうしたんですか?」


「二人は山小屋に置いてきたわ」


「えっ? あそこに二人きりですか?」



 不満に顔を歪め、げんなりと肩を落とした私を見て、彼女は首を傾げ、「何も問題ないでしょ?」という顔をする。



「食料なら、置いて来たわよ?」


「そういう事じゃないんです」



 ――最悪だ。早く、ミヤコを迎えに行かなくては……。



 耐え難い胸のモヤモヤで、ため息しか出ないが、まずは砦と、父さん達の無事を確認しに行かなければならないだろう。


 焦る気持ちを抑えつつ、私達は雪山を降りた。



 第二研究室が襲撃(しゅうげき)されているという話に、さらに焦りを(つの)らせるターク様。長い間自分の正体を明かさなかったゼーニジリアスの正体にも、驚きを隠せません。


 カミル達の連れてきた精霊のおかげで、無事に浄化を終えたターク様は、達也と二人きりのミヤコも心配しつつ雪山を下りました。


 次回、第十六章第六話 高潔な彼女と全属性な二人。~ちょっとゾワゾワするな~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


こちらもぜひお読みください!



三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~





カタレア一年生相談窓口!~恋の果実はラブベリー~

― 新着の感想 ―
[一言] 花車様おはようございます! ターク様はなんとか皆に助けられるようですね! ですがやはりアグス様とみやこたちが気になりますね! 続き拝読させていただきますね! 本日もよろしくお願いいたします(…
[良い点] ターク様は気が気じゃないでしょうね(ノ_<) 愛しの宮子がライバルと一緒に暮らしているなんて……! 揉め事にならないといいですけれど。。。
[良い点] 人の心の絡まりがカオスでいつも面白いです。ネドゥもお姉さんは大事、というのがさりげなさすぎて笑ってしまいました。そこ、人間らしいのか、と。敵も非道に徹しきれないのが妙に人間臭くて素敵です。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ