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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第16章 燃ゆる雪山

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04 光れ!もっと強く!~愛されたターク~

 場所:セヒマラ雪山

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 ――傷の治りが悪いな。



 いつまでもジクジクと痛む脇腹(わきばら)の刺し傷に、私は眉をひそめた。


 どうやら、私の体から湧き出す癒しの光が、秘宝の闇に打ち消されているのが原因のようだ。


 封印ケースに入れてしまえれば良いのだが、サイズが大きくて入りそうにない。


 しかし幸い、闇魔道士はスリープばかり(とな)えているし、ネドゥも雪山を噴火させたせいか、今は魔力切れのようだ。


 傷の痛みを平気な顔で誤魔化しながら、私はネドゥに尋問(じんもん)を開始した。



「お前、セリスをどこにやったんだ?」


「バカね。上客(じょうきゃく)の情報を()らすわけないでしょ」


「精霊狩りがなぜ、ベルガノンを攻撃する?」


「んっふふ。教えてあげない」



 全く怯える様子もなく、笑顔すら浮かべているネドゥ。


 不死身の大剣士を前にして、随分と余裕なことだ。


 不愉快に感じた私は、いくらか声を低くし、「言わないとひどい目に遭うぞ」と、凄みのある声を出してみた。



「ふふ。無理しちゃって。キラキラのあんた、女の子にひどいことできるタイプじゃないんでしょ?」


「なぜそう思うんだ」


「お見通しだよ。闇堕ち魔道士まで連れてきちゃって、ケガさせたくなかったんでしょ? やさしすぎじゃないの?」


「そんなことはない。こう見えても私は、冷酷な大剣士で通っているんだ」


「こんな場所に一人で来てる時点で、お人好し決定だよ」



 柱に(しば)られているにも(かか)らず、ネドゥはずっと余裕な顔だ。



 ――どうも、何か見透かされているようだな。



 眉をしかめ、元々良くない目つきをさらに悪くしてみたが、ネドゥは薄笑いを浮かべるばかりだ。



「私を甘く見るな。目的のためなら私は手段を選ばない。メロウムの檻に入れられるのが嫌なら、ファトムに力を返せ」


「何言ってるの? こんな気持ちいい力、手放すわけないでしょ?」


「無理だとは言わないんだな。お前、本当はファトムを愛してるんじゃないのか」


「バカ言わないで! そんな堅物(かたぶつ)、大嫌い!」



 何か聞き出せないかとしばらく粘ってみたが、ネドゥはそれきり、何も言わなくなってしまった。


 どうやら本当に、怒らせてしまったようだ。


 ファトムは眠ったように反応がないが、闇のモヤだけはしっかり吐き出して、浄化が進んでいる感じもしない。


 傷の痛みにだんだんと思考力がなくなり、私はぼんやりと、闇魔道士のスリープの詠唱(えいしょう)を聞いていた。


 タツヤに渡されたペンダントの効力が、切れはじめているのだろうか。


 なんだか少し、うとうとする。


 あまりにしつこいので、闇魔道士の口に、布切れを詰めてやった。



 ――ここで寝るのは……まずいだろ。


 ――光れ、癒しの加護かご、もっと、強く!



 はっきりしない意識の中、強く願う。


 もし、この癒しの力がシュベールとの契約(けいやく)なら、願いが届くこともあるかも知れない。しかし、残念ながら、私の癒しの加護かごは、自分の中から湧き出ているのだ。



 ――だがそうだ、私には風の微精霊がいたな。



「ヒール」



 不死身の自分にヒールをかけるなんて、盲点(もうてん)過ぎて完全に忘れていた。


 緑の光が傷口に集まり、ジクジクしていた傷が、瞬時に治っていく。



 ――愛されているな。



 荷物でいっぱいのバッグに、首にかけられた三つのペンダント。癒しの加護かごをくれたシュベールや、願いを叶えてくれる風の微精霊達。


 自分で思っている以上にたくさんの愛が、私が望む望まないに(かか)わらず、私を守っている。


 急に沸き起こった妙な実感が、私の胸を温かくした。


 寒い場所で長時間一人で過ごしていたせいか、気持ちが少し、弱ってしまったようだ。


 何故だかすごく、皆が恋しい。



 ――弱ってる場合じゃない。光れ! もっと!



      △



 やがて夜がふけ、また朝が来た。


 腕に抱えたファトムと闇魔道士は、思ったほど浄化が進んでいないようだ。だが、精霊の秘宝は、随分と禍々(まがまが)しさが薄らいでいた。


 ネドゥの腹がキュルキュルと鳴りはじめると、私はバッグを探り、食べ物を探した。



「食べたいか?」



 ミヤコがバッグに詰めてくれた硬いビスケットをちらつかせ、寝不足に引きつった顔で、ニヤリと笑う。


 目をかがやかせた彼女を見ながら、私はそれを自分の口に入れた。



「あんた、意外と悪いんだね」


「言っただろ。目的のためなら、私は手段を選ばない」



 そう返事をしながら、私はガリガリとビスケットを噛み砕いた。ほのかな甘みが口に広がり、思っていた以上に美味い。


 しかし、かなりパサパサで、口の中の水分が(うば)われた。


 異世界の水筒を取り出した私を見て、ネドゥが不思議そうな顔をしている。


 ミヤコが入れてくれた茶はもうすっかり飲んでしまったが、この水筒には、鍋で沸かした温かい雪解け水が入っているのだ。



「ふふふ」


「分かった。分かったから、その顔はやめて」



 ニヤニヤしながらカップで湯を飲んでいると、ネドゥはついに根を上げた。



「一ついいことを教えてあげる。セリスは多分死んでないよ。精霊コレクターに売ったからね」



 セリスの名前を聞いて、死んだようにじっとしていたファトムが、ピクリと反応した。彼が希望を持てば、浄化が早まるかもしれない。



「おぉ。いい情報だ。他には?」


「それを一個よこしなさい!」



 ぱっくりと開いたネドゥの口に、ビスケットを一つ放り込む。



「硬い……。けどいける!」


「異世界の貴重な食べ物だぞ。ありがたく思え」


「その飲み物をくれたら、もっとすごいことを教えてあげるよ」


「言うのが先だ」


「だめ。先に飲ませてくれないと、絶対言わないよ」



 仕方なくネドゥの口にカップをつけ、湯を飲ませた。彼女がひどく悪い顔をしていて、嫌な予感に胸がざわつく。



「はぁ、美味しい。ガンガン燃やすつもりで薄着しすぎたかな。温かい飲み物っていいよね」


「それで、すごいことってなんだ」


「んふふ。あんたの父親、アグスって言ったっけ? 今頃死んでるんじゃない?」


「はぁ?」



 ――なぜ、こいつから、父さんの名前が……?



 思うように進まない浄化を待ちながら、私の心は、焦りと不安に駆り立てられていた。


傷の痛みと眠気でぼんやりしながら、ネドゥを尋問していたターク様。しかし、完全になめられています。少し心が弱ってしまったターク様は、不意に愛に気付きました。宮子の持たせたグッズも、また役に立ったようです。


次回、第十六章第五話 おかげさまです。~パワーアップしたターク~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] ターク様は何とか、無事なようでほっとしましたね! ですがネドゥもなんとか打ち解け…てきたのでしょうか。 しかしアグスが、やばいという情報にやはり俺は花車様の作品から離れられなく… くっ( ̄^…
[良い点] なぜここでパパンの名前が!? 気になるところで終わりましたね(;_;) 続きが気になります!
[良い点] 食欲と渇きに負けるネドゥが、ある意味チョロく見えて、可愛くすら思えました。推している要素には見えませんでしたが、私には面白くて、ちょっとツボでした。 [一言] アグズ様の危機?次もとても楽…
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