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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第16章 燃ゆる雪山

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03 全てを抱えて。~お前らいい加減にしろ~

 場所:セヒマラ雪山

 語り:ターク・メルローズ

 *************



「ネドゥは最初から、オレの力が欲しかっただけだったんだぁ。くそぅ。死ねぇ! 死ねぇ! ネドゥゥ!」



 私の腕の中で、炎の精霊ファトムは、長い時間、そう(わめ)いていた。これは彼の、本心か。それとも、秘宝の呪いだろうか。


 騙されたと分かっていても、一度愛してしまった相手は、簡単には忘れられないものなのかもしれない。


 しかしそうなると、セリスのことは、もう愛していないのだろうか。


 少し不思議に思っていると、彼は次に、セリスの心配をはじめた。



「あぁ、可愛いセリスぅ……あの子は無事かぁ……」


「さぁな。だが、ネドゥを捕まえたら、セリスを売った先を聞き出そう」



 私がそう言うと、ファトムは気怠(けだる)そうな顔に、少し笑顔を浮かべた。彼が今愛しているのは、ネドゥなのか、それともセリスなのか。


 一度はネドゥに浮気したファトムだが、今でもセリスが大切なことには、変わりがないようだ。




 その時だ。突然轟音と共に地面が揺れはじめ、ドゴーンという轟音と共に、強烈な爆風が岩陰に居た私達の周りを吹き抜けた。


立ち上がって確認してみると、山の頂上から、煙が立ち上がり、溶岩が噴き出している。



「あぁ~。ネドゥだぁ。あいつぅ、好き放題しやがってぇ」


「噴火か!? これは、まずいな」



 バッグに入っていた縄でファトムを背中にくくりつけると、噴石(ふんせき)と溶岩を避けながら、私は、火口に向かった。


 一刻も早く、ネドゥを捕まえ、馬鹿(ばか)(おこな)いを止めなくてはならない。


 火口からはもくもくと嫌な匂いのする煙が上がり、肌が溶けそうなほど空気が熱い。


 だが、カミルに渡された炎属性防御のペンダントが、私の首元で、その効果を発揮していた。



「ネドゥ、どこだ! 隠れてないで出てこい!」



 私の呼びかけに、火柱の向こうから、ネドゥはその姿を見せた。


 きわどい服装に身を包み、大きく露出(ろしゅつ)した腰を、くねくねとひねって歩く妖艶(ようえん)な女だ。


 その腰には、黒々と光る精霊の秘宝がぶら下がっている。火の精霊の力と秘宝の力を使い、彼女は火山を噴火させたようだ。



「んふ。すごいパワーでしょ。 あたい、激しいのって大好き」



 彼女はそう言いながら、余裕な顔でゆっくりと私に近づいてきた。


 高く噴き出す真っ赤な火柱、流れ出る溶岩、喉に突き刺さるようなガスと煙、飛んでくる噴石。


 いくら、精霊の力を手に入れたからと、こんな場所で、平気でくねくねしていられるなんて、妙に(きも)の座った女だ。


 ネドゥは上目遣いに私を見上げ、ねっとりとした仕草で、焦げ茶色の髪をかき上げた。



「あら、素敵。キラキラのあんた、もしかして、ターク・メルローズ?」


「お前、なんなんだ。早くこの騒ぎを(しず)めろ」


「あらぁ、そんな怖い顔で、おこっちゃ、いやぁ……よ!」



 ネドゥの瞳がギラっと光り、急に姿勢を低くしたかと思うと、低い位置から、鋭い小刀が私の腹部目掛けて突き上げられた。


 不意打ちを狙ったようだが、私をターク・メルローズと知りながら、小刀で攻撃してくるとは変な女だ。


 私はネドゥの腕をつかみ引き寄せると、彼女を小脇(こわき)に抱えた。同時に、後ろから嫌な気配を感じ、横に回転しながら振り返ると、顔の見えない闇魔道士が、メロウムを持って襲いかかってくる。


 本当のねらいは、どうやらこちらだったようだ。



 ――その手は食わない!



 片手で大剣を振り、闇魔道士の手からメロウムを弾き飛ばすと、ネドゥの持っていた短剣が、私の脇腹(わきばら)に突き刺さった。



「やめろ、いたいぞ」


「放しなさいよ、くそ坊主!」


「いい加減にしろ! ここ、危なすぎだろ。場所を変えるぞ」



 ぐさぐさ刺してくるネドゥの手から短剣を(うば)い取り、それを火の中へ投げ捨てる。


 周りはすでに溶岩に囲まれ、ぐずぐずしていると逃げ場を無くしてしまいそうだった。


 メロウムを失くした闇魔道士は、自分のローブが燃えているにもかかわらず、私に執拗(しつよう)にスリープをかけた。


 タツヤに渡された状態異常軽減のペンダントが、それを弾き返している。


 もう二日、まともに寝ていない私だが、こんな場所で眠るのは、流石(さすが)にごめんだ。



「ネドゥ様の御心(みこころ)のままに……」


「あぁ、もう! お前もこい!」



 闇魔道士の燃えるローブを()ぎ取ると、ネドゥと同じように、妙に露出度(ろしゅつど)の高い女だった。



 ――こんなのは殆ど下着と同じじゃないか?



 そう思いながらも、黒いモヤにつつまれたその女を、私は腕に抱えた。


 背中にはファトムと大きなバッグ、片腕には大剣とネドゥ、さらにもう片腕に闇魔道士を抱え、私は溶岩を避け、ジャンプした。



 ほとんど足の踏み場がない中、足先を燃やしながら走り回り、なんとか雪の中に降り立つ。


 改めて周囲を見渡すと、マグマと泥流がどんどん麓へ流れ落ちているようだった。



 ――砦は……カミル達は無事なのか?



 不安に胸を軋ませながら、しばらく歩き回った私はそこに、雪に埋もれた精霊の遺跡の入り口を見つけた。



「その秘宝はここのものだな」



 石レンガで出来たその遺跡は、噴火の衝撃であちこちが崩れ、天井から流れ込む溶岩と高温の泥に浸されていた。


 奥まで進むことは出来ないが、とりあえず細かい噴石を防ぐ、屋根の役目くらいはしてくれそうだ。



 ジタバタするネドゥ達を遺跡の柱に縄でしばった私は、どうしたものかと首を(ひね)った。



 ――闇深いこいつらを連れ、山を降りるわけにはいかない。ここで浄化するしかないのか?


 ――しかし、この場所もいつまでもつか分からない。


 ――それに、闇が深すぎる。癒しの光を吸われすぎて、自分の傷すら治らないじゃないか。



 刺された傷と、燃えた足先の治りが悪く、ジクジクとした痛みが広がっている。


 寒いのか暑いのかも分からない中、焦る私の背中を、冷たい汗が流れ落ちていた。



 雪山が噴火する中、精霊狩りのネドゥと闇魔導師に出会ったターク様。傷を負わされながらも、三人を抱え安全な場所を探して移動します。しかし、あまりの闇深さに自分の傷すら癒えず、ターク様は途方に暮れたのでした。


次回、第十六章第四話 光れ!もっと強く!~愛されたターク~をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] これは、ターク様のマジピンチじゃないですか!? こんな所で倒れないでくれ!! これは先を読まなくては!? !!!( ゜д゜)ハッ!!!! どうやらまた…花車様の虜になっているようだ…。 笑
[良い点] ターク様は攻撃されてもちょっとやそっとじゃやられない姿が逞しいですね! それにしても攻撃してきた者まで助けるなんて優しすぎる。。 パーフェクトヒールが発動できなくなってしまったことか痛いで…
[良い点] 火山に露出度の高い女性たちという謎シチュエーション過ぎて、とても面白かったです。そして、これに騙されたファトムの愚かしさが可愛らしいですね。ターク様一人だけが大変、という状況も妙に似つかわ…
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