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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第16章 燃ゆる雪山

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01 レムスルドラに来たマリル。~まぁ、ドロドロですのね~

 場所:レムスルドラ

 語り:マリル・フラン

 *************



「マリルちゃん、来てくれたんだね。エロイーズちゃんも、ありがとう」


「えぇ。国家魔術機関からの要請ですもの。ベルガノンの英雄としては、断れませんわ」


「お迎えありがとうございます! カミルさん」



 エロイーズを従え、極寒(ごっかん)のレムスルドラに到着したわたくし、マリル・フランは、転送ゲートのある街の南の端で、カミルさんに出迎えられた。



「静かですわね」


「一応、みんな避難させたからね。居るのは砦を守る兵達だけだよ。あ、あと、タークは登山中」


「まぁ、ターク様がセヒマラ雪山に?」


「モヤを消してこいって、ガルベル様に言われたみたいでさ」


「ガルベル様は相変わらず、人使いが(あら)いですわね。あのモヤは危険ですのに」



 まるでゴッドタウンのような、誰もいない街の路地(ろじ)を歩き、わたくし達は砦を目指した。


 わたくしが頼まれたのは、万が一、雪崩が起きた時、砦や街を守るための燃える鉄壁バーニングアイアンウォールだ。


 闇のモヤから魔物が降りてきていると聞き、初めは皆、六メートルの巨大な魔物を想像したのだろう。


 実を言うと、わたくしが出発する頃には、その心配は無さそうだと連絡が来たのだけれど、ターク様が来ていると聞いて、気がつくとわたくしはここまで来ていた。


 と言っても別に、これはわたくしが、まだターク様に未練(みれん)があるとか、そういうことではなく……。


 ただ、あの日、濁流が押し寄せたポルールで、伸ばした手が私に届かず、「マリル」と叫んだ彼の、(くや)しそうな顔を思い出したのだ。


 ターク様がそうであったように、わたくしもあの時は、本当に悔しかった。


 わたくしが砦を守るのだと、意気込んで(とな)えたバーニングアイアンウォール。


 強く高く大きく、そして熱いわたくしの鉄壁が、茶色い濁流(だくりゅう)に飲み込まれ、絶望に沈んだ所を、ミヤコさんのラストリカバリーに救われた。


 今、英雄としてもてはやされていることは、決して悪い気はしないけれど、どうしても少し、心に引っかかってしまう。


 瞬時(しゅんじ)にそんな負の感情を思い出したことで、わたくしは少し、不安になったのかもしれない。



 ――何となく、嫌な予感がしてきてしまったけれど、取り越し苦労だったかしら。


 ――だけど、何事もないならそれが一番ですわ。



 (とりで)についたわたくしを、兵達は、かしこまった敬礼(けいれい)で出迎えた。



「英雄マリル・フラン様に、敬礼!」


「ふふ。ごきげんよう」



 砦の階段を登り、屋上に出ると、山から降りてきた魔物達と戦っている、イーヴさんと、彼の騎士団の騎士達の姿が見えた。



「まぁ、ドロドロですのね」


「うん、雪山から泥が流れてくるんだよね」



 てっきり、騎士達は白い雪の上で戦っているのかと思っていたけれど、彼らの戦う足元は、黒い泥に(おお)われていた。


 セヒマラ雪山を見上げると、燃える魔物達の降りて来た道が、何本も黒くはっきりと見えている。


 そこだけ雪が溶け、流れ出した水によって泥流(でいりゅう)が起こり、(ふもと)まで流れて来ているようだ。



「泥にワァーム。最悪ですわね」



 泥の中、近接戦でワァームやトカゲと戦う騎士達には、本当に頭が下がる。


 この魔物達、イエティ以外は一見放っておいても、砦には影響がなさそうに見えるけれど、そのままにしておくと、壁面を登って砦を越えてしまうようだ。


 街中(まちなか)を這い回られると、街が火災に襲われてしまうだろう。


 一方、砦から放たれる魔導砲(まどうほう)は、ズキュン、ズキュンと、降りてくるイエティを蹴散(けち)らしている。


 魔導砲の威力は凄まじいけれど、イエティは大きく、数もなかなか多い。



「加勢して差し上げたいけれど、炎属性攻撃はあまり効果がなさそうですわね」



 わたくしはそう言って、もう一度、高く立ちはだかるセヒマラを見上げた。


 ターク様が精霊の闇のモヤを回収に向ってから、既に四十時間近くが経過し、夕暮れ時の今は、雪に覆われた山頂がうっすらと見えていた。



「一昨日は真っ黒だったんだけどね。かなりモヤの回収が進んで、山頂が見えて来たよ。おかげで魔物が減って、余裕(よゆう)が出て来た所だよ」


「だけど、ターク様、闇に堕ちた精霊の浄化は、どうなさるおつもりかしら」


「んー……」



 わたくしの質問に、(しぶ)い顔で口をすぼめたカミルさん。


 今頃ターク様は、闇に堕ちた精霊を、抱きしめているのかもしれない。



「だけど、それじゃ何日かかるか分かりませんわ。加勢(かせい)を呼ばなくてはいけないんじゃありませんの?」


「加勢……。そっか、なるほどね」



 カミルさんが何か思いついたようにそう言った時、突然大きな爆発音が鳴り、セヒマラ雪山(せつざん)の山頂から、真っ赤な炎と、真っ黒な煙が()き出した。



「きゃぁ!? 何事ですの!?」


「ふ、噴火してる!」



 次の瞬間、直径三メートルはありそうな巨大な岩が、砦目がけて飛んできた。



「バッ、バーニングアイアンウォール!」



 咄嗟(とっさ)に叫んだことで、砦の前に巨大な鉄の壁が立ち上がる。飛んできた岩はその壁に直撃し、ガコーン! と、大きな音を立て落下した。



「マリルちゃん、最高! 砦が壊れるところだったよ」


「だけど、あまり長くは持ちませんわ! ミヤコさんがいれば助かるんですけれど」


「ミヤコちゃんはもう、あの力を失くしたみたいだよ」


「そ、そうなんですの!? ついに体を入れ替えたんですのね」


「魔力回復ポーションならいっぱいあるけど、たくさん飲むのキツイよね」


「頑張りますわ。それより、ターク様が心配です! お願いです、誰か様子を見てきてください!」


「そ、そうだね。イーヴ先生にお願いしてみるけど、大丈夫かな? 先生」



 そうこう言っている間にも、巨大な噴石が、ガンゴンと鉄壁に直撃している。


 雪山から砦までの間の泥沼(どろぬま)に、ズドン、バシャンと、噴石(ふんせき)の落ちる音が聞こえ、騎士達の悲鳴が(とどろ)いている。



 ――どうしましょう、このままでは鉄壁が邪魔で、騎士達が、逃げる場所がありませんわ。


 ――でも、今鉄壁を消せば砦が……。



 戸惑う私の頭上を、イーヴさんが騎士達を抱えて飛び越えていった。


 どうやら、彼らの避難は問題なさそうだ。



 ――だけど、戦うのを止めてしまったら、トカゲとワァームが……。



 青ざめながら上を見上げると、燃える鉄壁バーニングアイアンウォールを乗り越えた巨大なワァーム達が、わたくしの上に、降ってくるのが見えた。



「いやぁぁー!」


「マリル様、お任せ下さい! シャイニングシールド!」



 ガチャガチャとなるエロイーズの大きな盾が、金色のまばゆい光を放ち、さらに大きくなって、落ちてきたワァームを跳ね返す。


 砦の屋上に落ちてなお、くねくねと動きながら襲いかかってくるワァーム達の頭を、彼女の光る槍が、正確に(つらぬ)いていく。



 ――まぶしい……。強くなりましたわね、エロイーズ。



 この一年で、光属性魔法を強化したエロイーズに守られながら、カミルさんが置いていったポーションをがぶ飲みし、わたくしは必死に、燃える鉄壁を維持した。



「今度は、今度こそは、負けませんわ!」



 国家魔術機関から要請を受け、レムスルドラにやって来たマリル。彼女はポルールでの戦いに心残りがあったようです。雪山の噴火から街を守るため、鉄壁を発動した彼女ですが、ミヤコの歌が無くては魔力がすぐに切れてしまいます。少し強くなったエロイーズに守られながら、彼女は気合いを入れました。


 次回、第十六章第二話 炎の精霊ファトム。~ダメージが大きいな~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 花車様こんばんは! 今回はマリルがメイン! そしてマリルは魔術機関からの依頼へと。 マリルも魔力はそこがつきそうな予感!! ですがエロイーズもいますね! なんとか頑張って欲しいものです(* …
[良い点] なんだか切ない…英雄ともてはやされても、実はそうじゃないっていう気持ちがマリルの中にあるんですね。。。 それにしても、マリルあるところにエロイーズあり!笑笑 大好きすぎますね!笑笑
[良い点] マリルさんの思いや頑張りがよく伝わってきました。噴火に伴う危機に対する緊迫感もあって、面白かったです。ただ、マリルさんはまた泥と格闘することとなったのですね。なんだか因縁ぶかさすら感じます…
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