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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第15章 一方的な愛

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10 おとなしくして。~僕はそろそろ限界だよ~

 場所:モルン山

 語り:名城達也

 *************



「呼んでる……呼んでるよ……」



 道に迷った僕は、これ以上闇雲(やみくも)には歩けないと、()り出した大きな岩の下に彼女を下ろし、身を(ひそ)めた。


 雨が強くなってきて、濡れた体が凍え始めている。


 一度気持ちを落ち着けて、どちらに進むべきかも、よく考えたかった。


 だけど、ちょっと様子のおかしいみやちゃんは、さっきから全く落ち着きがない。


 僕が止めるのも聞かず、何度言っても立ち上がり、痛めた足で、雨の中に歩き出そうとするのだ。



「待って、行かないで、みやちゃん」


「でも、呼んでる……」


「まさか、秘宝に呼ばれてるの?」


「……願いを叶えにおいでって……」


「だめだよ。僕と小屋に戻ろう」



 彼女はどうやら、精霊の秘宝の呼び出しにあっているみたいだった。


 だけど、彼女が場所を知っている精霊の遺跡は、アーシラの森にある遺跡だけのはずだ。そんなの、メルローズに帰るよりずっと遠い。


 僕は彼女の腕をつかんだけれど、彼女はそれを、振り払おうと腕をふった。



「いや、離して! 達也、いや!」


(さわ)いじゃためだ」



 (うつろ)な目で暴れる彼女を、僕は無理矢理、抱きしめた。


 どうして今、こんな時に、みやちゃんにこんなに、拒絶(きょぜつ)されなきゃいけないんだろうか。(むな)しい気持ちで胸が押しつぶされそうだ。



「みやちゃん、僕の言うこときいて。おとなしくして」



 僕が耳元でそう言うと、彼女は急に大人しくなった。


 僕に抱きしめられたまま、気のぬけたような声で、彼女は「はぁい」と返事をする。



 ――え? どうしたのかな……?



 少し困惑しながらも、僕は彼女をもう一度、岩陰に座らせた。今度はかなり素直に、言われるままに腰を下ろし、そのままじっと僕を見上げている。



「みやちゃん、遺跡はすごく遠いからね? 歩いて行けないよ。分かる?」


「はぁい」


「今から、僕と、ガルベルさんの小屋に帰るよ? いいね?」


「はぁい」


「……ね、好きって言ってみて?」


「すきぃ」



 ――なっ、なにこれ!?



 何を言っても、素直に返事をするみやちゃんに、僕は(ふる)えた。これは意外と、そう、意外とレアだ。 


 彼女は僕が「必殺お願い攻撃」をした時くらいしか、僕の言うことなんて聞いてくれないし、最近はそれも、使いすぎたのか少し、(あき)れた顔をされてしまう。


 このみやちゃんは、完全におかしい。



 ――これ、僕の囁きで、暗示かかってるね?


 ――ってことは、もしかして、みやちゃん、僕のいいなり……?



 次の瞬間、(よこしま)としか言えない考えが思考を埋め尽くし、僕はそのままフリーズした。


 僕が、物心ついた頃から片思いしてきたみやちゃん。


 逃げられないようにと散々手を尽くしたつもりが、結局()けられ、自分と同じ顔のやつに、あっさり取られたみやちゃん。


 (あきら)めきれず、異世界に残ってみたけれど、彼女は僕の言うことなんて、本当に全然きいてくれない。


 そのみやちゃんが、今、僕の、言いなりになっている。


 今少しでも口を開いたら、僕はきっと、闇に堕ちるだろう。


 だけど、僕は、ずっと不満だった。


 みやちゃんの幸せを邪魔(じゃま)できないと、こんな怖い異世界で、ずっと我慢してきたけれど、それもそろそろ限界だ。


 今、このまま彼女をあの遺跡に連れて行けば、秘宝(ひほう)で異世界ゲートを起動し、僕は簡単に、彼女を日本へ連れて帰れるかもしれない。


 日本へ帰ってしまえば、もう、僕達を邪魔する(やつ)はいないはずだ。



 ――だめだ、そんなことして嫌われたら、元も子もないだろ。僕、しっかりしろ。



 自分のほおを両手で叩き、僕は気合いを入れ直した。


 みやちゃんが歩いて行こうとした方向の、反対に進めば、多分小屋に帰れる(はず)だ。


 煩悩(ぼんのう)と戦ってるうちに、雨がまた小降りになってきた。



「行くよ、みやちゃん。おぶるから、背中に乗って」


「はぁい」


「魔物がでたら歌ってくれる?」


「はぁい」



 僕の濡れて汚れた背中に、素直によじ登ってきたみやちゃんを背負い、僕は再び歩き出した。


 耳元で、彼女が歌い出す。



「月の光に 照らされて……♪

 妖しく光る闇夜の……」



 ――チャームのやつ!?



「ちょ、ちょっと、みやちゃん!? その歌ダメ! せっかく戻ってきた僕の理性ふっとばしてどうするの!?」


「は、はぁい……」


「ご、ごめん。お豆の歌、歌ってくれる?」


「……ま~め ま~め 豆ダンス♪」


「そ、それじゃなくて……」



 胸がバクバク音を立てているけれど、チャームは発動しなかったみたいだ。


 あの術はたぶん闇属性だから、土属性になったみやちゃんには、そもそも使えないのだろう。



 ――はぁ。危なかった。もうこれ以上、僕を魅了するのはやめてよね。



 そんなことを考えながら、周囲を警戒(けいかい)しつつ暗闇の中を歩く。


 そんな僕の頭に、あの声が(ひび)きはじめた。



『タツヤ……こっちよ、こっちへきて』


 ――ノーラ……? 僕を愛している、闇の精霊……。



 何度止めても遺跡へ歩いていこうとする宮子。達也は耳元で囁くことで、彼女に暗示をかけられることに気付きます。煩悩に負けそうになりながらも、再び歩き始めた彼の耳に、ノーラの声が響き始めました。


 ちょっと先が気になりますが、達也たちの話はいったん置いておいて、次回からは雪山で行方不明になったターク様の様子を見てみたいと思います。


次回、第十六章第一話 レムスルドラに来たマリル。~まぁ、ドロドロですのね~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] みやこも操られてしまったけど今度は達也も…これはヤバそうだ。 !!!( ゜д゜)ハッ!!!! これは暗示…花車様の作品を読む暗示に俺はかかってしまって…(๑° ꒳ °๑)ドキドキ笑 楽しい話…
[良い点] 今日も楽しいお話でした♡ まさか宮子のあんな姿が見られるなんて(*^^*)☆ 続きも楽しみにしています♡
[良い点] 自分と同じ顔のやつに、あっさりととられたみやちゃん。 このフレーズに爆笑しました。そして、チャームをかけそうになるとか。やはり増した切れ味エグいです。とても面白かったです。 [一言] 達也…
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