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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第2章 退屈なゴイムとお疲れのターク

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06 妹弟子はカミル。~ポルールには戻れない~[挿絵あり]

 場所:王都(訓練所)

 語り:ターク・メルローズ

 *************



「なにもせず待っていろよ」



 その朝、私、ターク・メルローズは、それだけをミヤコに告げると、すぐに屋敷を出た。


 訪れたのは王都にある剣術の訓練所だ。街に戻っているからといって、訓練を欠かすわけにはいかない。


 その日の私は、久しぶりに体調がよかった。昨晩よく眠ったせいか、いつも石のように重かった頭がかなりスッキリして、魔力も多めに回復していた。



 ――ミヤコか……。あれは不思議なゴイムだな。



 私が一人剣を振るっていると、一人の女性剣士が、私に駆け寄ってきた。にこやかな顔で大きく手をふりながら、結いあげた深い藍色の髪を風になびかせている。


 彼女は、同じ師匠のもと、幼いころからともに剣の修行をしてきた、妹弟子のカミルだった。


 彼女は王都の警備を任され街に残り、第三防衛隊の隊長をしていた。


 戦地より比較的安全とはいえ、王都にも隣接するアーシラの森から、頻繁(ひんぱん)に魔物が近づいてくる。それらを撃退したり、増えすぎないよう事前に退治するのが彼女の役目だ。



「やぁターク、今日はずいぶん調子がよさそうじゃないか。なにかあったのか? わぉ、魔力がいつもより回復してるね」



 いつもと違う私の様子に驚いた彼女は、すぐに私のステータスを確認してきた。



「勝手に見るな。昨日は久々によく寝たからな、少し多めに回復できただけだ」


「きみが? よく寝ただって? 僕はてっきり噂のゴイムを使ったのかと思ったよ。それで驚いたのさ」



 少しオーバーなくらいの身振りで目を(またた)かせ、彼女は驚きを表現している。こういうときの彼女は、とても面倒だ。



「使うって……。彼女はただのケガ人だぞ。私がゴイムを使わないことくらい、お前ならわかるはずだ」


「まぁね」



 カミルの詮索するような視線を振り払うように、私は剣を振りつづけた。そんな私の一挙一動を、彼女は見逃すまいと見詰めている。


 カミルの詮索は始まると止まらない。ムキになる性格のため、マリルと違ってはぐらかすのも難しい。こうやって忙しそうなオーラを出すくらいしか、対策が思いつかないのだ。


 しかし、今日の彼女は、私の()()()()()()()にも、まったく動じる様子がなかった。不満そうに腕組みをしながら、じっと私を見ている。



「ふーん。そんな使えないゴイムに、きみの貴重な魔力や時間を使うなんてね。そのゴイムって記憶喪失なんだろ? もう記憶は戻ったのかい?」


「まだだ……」


「なんだそれ。じゃぁまだ所有者が見つからないんだね。帰りたくなくて、嘘ついてるだけじゃないの?」



 疑わしいという目つきをする彼女に、私は背中を向けた。



「まぁ、所有者はすぐに見つかるさ。心当たりには手紙を出してあるし、使用人たちにも調べさせているからな」


「まったく、きみがそこまで世話を焼く必要があるの? きみは不死身の大剣士なんだよ?」


「そうは言っても、せっかく治療したものを、外に放り出すわけにはいかないだろ」


「きみってやつはさ。そんなのだれかに任せればいいだろ。だいたい、きみに、回復魔法は似合わないよ。きみは光の剣士だろ? どうして風属性魔法なんて取っちゃうかな?」



 彼女の言うとおり、光の剣士である私が、風属性の回復魔法を習得しているのは、だれもが疑問に思うところだった。


 専門外の属性魔法を習得することは、専門属性魔法の威力を下げると言われている。そもそも癒しの光を(まと)った私には、本来必要ない魔術だ。



「知るわけないだろ。イーヴ先生の指示で取ったんだよ」



 私がそう答えると、彼女は両の手のひらを上に向け、呆れたように肩をすくめた。



「ターク。街のことは僕たちに任せてさ、さっさとポルールの戦いを終わらせてきてよ。きみは、この国の希望なんだからさ」


「わかってるさ……」



 カミルの言うことは、まったくもってそのとおりだ。あまりにも耳が痛くて、剣を振る手も止まってしまう。


 彼女から飛び出す言葉のひとつひとつが、(やいば)のようにぐさぐさと、私の心に突き刺さった。何度はぐらかしたところで、彼女は私を見るたびに、何度でも同じことを言ってくる。



「でもまぁ……いまは心配ない。ポルールにはイーヴ先生とガルベル様がおられるのだ。私がいなくてもすぐに戦況は回復するさ」



 情けないことに、いまの私は、そんなことを言うのが精一杯だった。


 そもそも、「はいそうですね」と、戦地に戻れるなら、国の危機に呑気に屋敷に帰ってきたりはしない。



 私の動きが止まると、彼女は()かさず近づいてきて、私の顔を覗きこんだ。


 その輝くサファイアのような瞳は、私がなにかボロを出さないかと、ワクワクしているようだった。こんなやつに、嘘をついても余計面倒になるだけだ。



「あのさ、どうして街に戻ったのか、そろそろ教えてくれない?」


「前にも言ったとおりだ。私は療養中だよ。お前だから言うが、ほかのヤツには言うんじゃないぞ」


「なにが療養だよ。ふざけてるの? 不死身のターク君」


「ふざけてない。これもイーヴ先生の指示だ」


「なんでもイーヴ先生のせいにするの、やめてくれる?」


「あー、うるさいな、お前は」



 しつこく詮索しておいて、教えても信じないとは困ったやつだ。私の不機嫌を察した彼女は、ようやく口を閉じ不満そうに唇を尖らせた。



 私は大剣を背中に戻し、なんとなしに視線をしたに落とした。見ると、カミルの隊服は(ひざ)のあたりが破れ、血が(にじ)んでいる。



「カミル、わざわざ私に話しかけてきたと思ったら、やっぱりケガしてるな」


「あ、やっと気付いてくれたの? 魔物の攻撃をかわしたら転んじゃってさ」


「お前、私に回復魔法が似合わないとか、どの口で言ってるんだ?」



 私はため息をつきながら、カミルの膝にヒールをかけてやった。彼女は魔力は高いが、勢い任せな行動が多く、昔からケガが多い。


 私の回復魔法は、実を言うと、カミルのために習得したものだ。しかし彼女は、この事実をまったく知らないのだった。



挿絵(By みてみん)

 ターク様がポルールの戦いを終わらせてくれるのを、期待している様子のカミル。


 ポルールに行けない事情がある様子のターク様は「私は療養中だ」と伝えますが「ふざけてるの?」と言われてしまいます。


 ターク様はどうして戦地を離れ屋敷に戻って来たのでしょうか。なんだかますます心配です。


 次回はいよいよ、宮子の傷が全回復します。暇な彼女とは対照的に、なんだか忙しそうなターク様が心配になるお話です。


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ターク様は慢性的に体調が悪いようですね。 絶妙に問題の核心が判明しないところが、構成がうまいと感じます。 ゴイムを使うと回復できるという事でしょうか? 色々な意味で受け取れる、そして現代…
[一言] 花車様こんにちは! ターク様は少しは回復された様子ですがカミルの言う事は確かにその通りなのでしょう。 そしてターク様の事情とは…続きを楽しませていただきますね(o^-^o)
[良い点] (´・Д・)」ターク様 (´・Д・)」ターク様 数多の女の子を悪意無く泣かせてきた、そんな気配を感じ取ってしまいましたですぞよ!(´-ω-`) [一言] 今日の挿絵も素晴らしいです。 困…
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