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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第15章 一方的な愛

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08 無言の逃走。~達也さん、全自動ですか?~

 場所:ガルベルの小屋

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************




「ダークアロー!」



 達也は呪文を唱え、カッコよく杖を持った腕を(かか)げた。


 すると、彼の周りに三張りの黒い弓が出現し、矢の形をした魔力の弾丸が、昨日とは比べ物にならない威力で前方に飛びだした。


 その矢が魔物払いの結界を()え、太い木の幹に突き刺さると、直径十センチほどの穴が三つ空く。



「すごい! 弓が三張りでたよ? 昨日は一張りだったよね?」


「こ、こわい……。どうしてこんな、急激に強化されてるの? 危なくて使えないよ」



 急に弓の数が増え、飛距離や威力も上がったダークアローに、達也は戸惑った顔をした。



 ――確かに、戦う予定もないのに、こんな攻撃魔法、こわいだけだよね。


 ――火や水属性なら、便利な生活魔法が色々あったのに。


 ――達也に闇属性魔法は、やっぱり可哀想かも。



 だけど、小さなキノコや泥団子しか出せない私に比べると、達也の魔法は、何だかすごい。


 このダークアローも、三張り以上は初級じゃなくて中級魔法のはずだし、そもそもダークボールは、威力が低いとは言え、分類的には上級魔法のはずだった。



 ――やっぱり、達也は何やらせてもすごいな。



 そんなことを思いながらも、しょんぼりする達也を(はげ)ましていると、何かスカートを引っ張られたような感じがして、私はふと、足元を見た。



 ――小さい……ゴブリン!?



 私の、地面スレスレの長さがあるスカートを引っ張っていたのは、身長三十センチほどの、小さな悪魔のような魔物だった。


 緑の体に吊り上がった目、口元には鋭い牙。おどろくほどの悪人顔で、小さいけれど普通に怖い。


「ひゃっ!」と、叫んだ瞬間、ゴブリンがスカートに入り込み、私の(すね)にかじりついた。



「いやぁ! 痛い! 痛い!」



 あまりの痛さに、草の上にころがり、ジタバタと足を振るけれど、ゴブリンはなかなか離れようとしない。



「みやちゃん!? どうしたの?」


「足、噛まれてる!」


「えぇ!?」



 達也は(あわ)てた顔で、ジタバタする私のスカートをめくった。



 ――ぎゃぁ!



 違う意味で叫びそうになったけれど、今はそれどころじゃない。


 足にしがみついているゴブリンを見つけると、達也はそれを鷲掴(わしづか)みにした。



()れろ」



 (うな)るような低い声で、達也がそうつぶやくと、ゴブリンの体が、しおしおと(ちぢ)み、みるみるうちに、ミイラのようになっていく。


 力なく私を放したゴブリンを放り投げ、達也が私を抱き上げた。


 それはまるで、重力を失ったかのように、軽々と。



 ――え、達也さん、これ、重力魔法出てませんか?



 おどろきに口を開いた私を抱えたまま、達也は小屋に向かって走り出した。



「まずい、完全に結界きれてるよ。これ!」



 走り出した達也の前にオークが飛び出してくると、彼の周りに三張りの弓が出現し、放たれた矢がオークを(つらぬ)く。



 ――達也さん!? 詠唱(えいしょう)は? 杖は?


 ――魔法、全自動ですか?



 あまりのことに、脳内つっこみが全部敬語(けいご)になってしまう。


 達也は、何匹も出てきた魔物をダークアローで次々と倒しながら、ガルベルさんの小屋に駆け込んだ。



「だぁっ。なんだよ、なんで結界切れてるの!? (あせ)った……」



 背中で扉を閉めながら、怒った声で叫ぶ達也。


 はぁ、はぁと息を切らしつつも、私を椅子に座らせると、「待ってて。扉に封印かけれるか試してみるよ」と入り口に戻った。



 ――封印って、あの時の……?



 先日、ガルベルさんがターク様を閉じ込めるのに使った封印魔法は、確かに闇属性だった。


 だけど、彼女は呪文を唱えたわけでもない。一度見たことがあるだけで、出来るものなんだろうか?


 首を傾げながら眺めていると、達也が無言で扉に手をかざしただけで、あの時と同じように、扉に黒い魔法陣が現れ、扉全体が黒く光りはじめた。



「封印出来たみたい」


「達也、凄すぎ。ガルベルさんみたいだよ?」


「なんだろうね。自分でもおどろいたよ。だけど、君を守れるなら、闇属性も悪くないな」


「ありがとう、すごくカッコよかったよ!」


「ケガする前に気付ければもっと良かったんだけど。とにかく、傷口を洗おう」



 この間まであんなにラストリカバリーを暴発(ぼうはつ)していたのに、今は何の治癒魔法も使えない私。


 幸い、土属性魔法には「キュアフラワー」という範囲回復魔法があるのだけれど、中級以上の魔法で、今の私には使えそうになかった。


 また達也に抱き上げられ、お風呂場に向かう。今度は少し重そうに、達也は私を持ち上げた。



「どうやら、魔力使い切ったみたい」


「ごめん、重いね。自分で歩くよ」


「大丈夫、任せて」



 達也は少しふらふらしながらも、洗い場で私の足を洗うと、今度は階段を登り、私をベッドまで運んだ。



「大丈夫? 魔力切れきついんじゃ……ポーション飲む?」


「ううん、どこにあるかわかんないし、後でいいよ。それより、足かなり痛そうだね」


「こんなの全然平気だよ」



 そう言いながら、あらためて噛まれた後を見てみると、ギザギザの歯や、牙が刺さった深い跡がつき、皮膚(ひふ)は青紫に変色して、結構大きく()れている。


 食いちぎられなかったのは幸いだけど、なかなかにズキズキしていた。



 ――情けない。何にも出来ないし、結局達也にも迷惑かけてばっかり。



 達也はベッドの(そば)に座り、傷に薬を塗って、包帯を巻いてくれた。


 あまりに器用で手際が良く、ただただ感心してしまう。


 だけど、その顔色はかなり悪く、体がふらふらと前後に揺れていた。



「一応処置したけど……油断……できない……な……」



 そう言いながら、達也は気を失ったようにバタッと突っ伏してしまった。



「達也!? 大丈夫?」



 (あわ)てて声を掛けたけれど、反応がない。顔を近づけてみると、スゥスゥと寝息が聞こえてきた。



「寝てる……」



 急に魔力を使い切って、疲れてしまったのだろうか。彼は突然、私の(ひざ)の上に頭を乗せたまま、完全に寝てしまった。



 ――この足じゃ運ぶのも無理だし、起こすのも可哀想かな。


 ――まぁいいや、私も寝よう。



 達也を起こさないよう、ゆっくりと体を倒した私。


 だけど、横になると、またターク様のことが心配になってくる。



 ――眠れない……。まだ夕方だし。



 私はそのまま、長い間じっとしていた。


 いつまでも眠れない私の耳に、「おいで、おいで」と、不気味な声が聞こえはじめていた。



 小屋周辺の結界(けっかい)が切れ、魔物に襲われた宮子達。足をケガした宮子を抱き上げて走り出した達也の魔法が、急激に強くなりました。彼にいったい何が起こったのでしょう。疲れたのかそのまま寝てしまった達也。宮子はベッドの上で不思議な声を聴きます。


 次回、第十五章第九話 彷徨える宮子。~お豆の歌を歌いながら~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[一言] みやこと達也を襲ったモンスター! 達也の魔法も凄かったですねぇ! そして、再び眠りにつく二人…。 みやこを呼ぶのは一体…。 次がめっちゃ気になります( ´›ω‹`) 花車様今日も無理なくお過…
[良い点] 達也かっこいいところ見せますね〜!! それでも揺らがない宮子は偉いっ!(*´ω`*) 続きも気になります(><)
[良い点] 宮子の負傷に達也の魔力切れ、大ピンチな中でさらなるトラブルの予感。急展開が面白かったです。そして、闇属性魔法はこと戦闘については本当に便利ですね。 [一言] 守るのに使う分には闇落ちしない…
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