表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第15章 一方的な愛

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

176/247

06 醜い嫉妬心。~幼なじみは警戒できない~

 場所:ガルベルの小屋

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 ガルベルさんが飛び出して行ってしまってから、どれくらい時間が経っただろうか。


 ダイニングのテーブルに突っ伏したまま、しばらく固まっていた私だけれど、あまり達也に心配をかけてはいけないと、とりあえず顔を洗い、服も着替えた。


 私が動き出したのを見て、達也もホッとしたように、自分の部屋へ着替えに戻った。


 とりあえず、朝ごはんの準備をしなくてはと思うけれど、なんだか頭が回らない。



 ――あぁ。本当に、魔法がないと、私役に立たない。



 今だって、もし、私がミレーヌの体に入っていたなら、きっとガルベルさんは、私を小脇(こわき)に抱えて飛び立っていたはずだ。


「それなのに」、「こんな時に」と、考えはじめると、やっぱり何もかも、自分が落としたライトニングソードが原因だという気がしてくる。



 ――あんなに頭に血がのぼることなんて、今までなかったのに。


 ――あれが嫉妬心(しっとしん)っていうやつなのかな。



 ターク様と恋人になるまで、私は幸い、嫉妬に苦しむことはなかった。


 ターク様には婚約者のマリルさんがいたけれど、私はいつだって真剣に、彼の幸せだけを願っていたのだ。


 それなのに今は、彼が他の女性と、少し話をしているだけで、途端(とたん)に冷静さを失ってしまう。


「ターク様が幸せなら、相手は私じゃなくてもいいですよ」なんてことは、今の私には、絶対に言えないのだった。


 大切な人の幸せを願うばかりではいられない、それが恋というものなのだろうか。


 ターク様はよく、私を見ては「心が広い」と言うけれど、このことに関して言えば、私はあきれるほどに、心が(せま)かった。



 ――怒りにまかせて、あんな攻撃魔法を発動したなんて、私、本当に最低だわ……。


 ――あぁ、やっぱり、居ても立っても居られない! なんとか山を降りられないかな?


 ――雪山には登れなくても、せめて、レムスルドラまで行きたい。



 突然立ち上がった私を見て、達也が(あわ)てた顔をする。



「みやちゃん、どうしたの? まさか、山を降りるとか言わないよね」


「あ、えーっと……。ダメかな?」


「ダメっていうか、無理だよ。わかってるよね」


「そ、そうだよね」



 ガルベルさんの小屋があるモルン山には、かなり凶暴な魔物が出る。


 その出現頻度は、アーシラの森が平和に感じるくらいだ。


 ガルベルさんの小屋の周辺や、魔法の訓練に使っている草原は、魔物よけの結界がほどこされていて、魔物が入ってくることはない。


 だけど、結界の外に目をやると、大きな魔物がウロウロしていて、私達は今日まで、何度も冷や汗をかいたのだった。


 山を降りさえすれば、(ふもと)の街に転送ゲートがあるかもしれない、と思うものの、結界の外に出るのはとても危険だ。



「待つしかないよ、みやちゃん」


「うん……、ごめん。わかってる」



 ソワソワする私を、心配そうに見ている達也に、なんだか申し訳ない気持ちがわいてきて、私はダイニングの椅子に座り直した。


 そんな情けない私のお腹から、キュルキュルと音が鳴ったのを聞くと、達也はすっくと立ち上がった。



「お腹すいたね。僕がブランチ作ってあげるよ」



 そう言って、黒いベストの上に、エプロンをつけた達也。


 ガルベルさんが持ってきた、カゴの中身をテーブルに並べ、食材を確認しはじめた。



「何作ろうかな? 玉子にパンに、干し肉、木の実、パスタ……。

 保存食っぽいのばっかりだね」


「キノコと豆は沢山あるよ? と言うか、ダイニングで落ち込んで迷惑かけちゃったし、私が作るよ」



 私がまた、むくっと立ち上がると、「いいから、いいから」と、肩を押され、椅子に座らされた。


「でも……」と、もう一度立ちあがろうとすると、「任せて? お願い」と、またしても押し戻される。



「もう、どうして?」


「だって、作ってあげたいからさ」


 ――そうですかっ。



 私が諦めたのを見ると、達也は、なんだかとても張り切った様子で、腕まくりをはじめた。


 こんな風に彼に甘やかされる感覚は、なんだかとても懐かしい。


 だけど、ターク様と同じ顔の達也に、世話を焼かれてしまうのは、今となってはかなりむずがゆかった。


 ターク様だってすごく優しいけれど、言っても私はターク様のメイドだ。彼の世話を焼くのは、私の仕事であり、幸せでもある。



 ――ターク様に会いたい。



 小さくため息をついた私に、達也はエプロンのポケットから、黒い液体の入った小瓶を取り出して見せた。



「ね、キノコとチーズのバター醤油炒めなんてどう? きっとパンにも合うよ」


「え? 醤油!?」


「僕の作った醤油」


 そう言って、小瓶をチャプンと揺らし、ニヤリと笑う達也。


「えぇ!? どうやって?」


「ふふ、秘密~」



 ――達也ったら、ニヤニヤしちゃって。


 ――また食べ物で、私を()ろうとしてるの?



 また少し警戒を強めた私を見て、困ったように笑いながら、キノコとチーズをきざみはじめる達也。


 彼は、こっちの世界のよく分からない食材で、なんでも作ってしまえるようだ。


 私もお料理は好きだけれど、達也には絶対に、勝てない気がした。



 ――達也さん。いつからそんなに、優秀になったんですか? ターク様みたいに、もっと隙を見せてください。


 ――あぁ、でも、まだ、少し寝癖(ねぐせ)が残ってるわ……。



 少し無頓着(むとんちゃく)なターク様なら、寝癖なんてよくあることだけど、達也の寝癖は、なんだか希少(きしょう)な気がする。


 子供の頃の、あどけなかった達也を思い出し、つい口元が(ゆる)んでしまう。



 ――一緒にお昼寝した後、跳ねた寝癖が可愛かったっけ。



 小さな寝癖一つで、警戒心がどこかへ逃げてしまった私。


 キッチンに立つ彼の後ろ姿を眺めていると、「出来たよ」と、料理がテーブルに並びはじめた。



 ターク様が心配でソワソワする宮子のために、ブランチを作ってくれる達也。なんだかすごく張り切っていると思ったら、また宮子を日本に帰りたくさせる作戦のようです。そうとは知りつつ、達也の(かも)し出すゆるい空気に気を抜き始めた宮子。二人はこの後どうなってしまうのでしょうか。


次回、第十五章第七話 あぁ、日本!~白いご飯と秋刀魚と肉じゃが~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


こちらもぜひお読みください!



三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~





カタレア一年生相談窓口!~恋の果実はラブベリー~

― 新着の感想 ―
[一言] おお…これは達也の作戦勝ちか!? でもターク様の事も思い出すだろうしこれは中々複雑ですな*˙︶˙*)ノ" 花車様今日もお互い無理なく頑張りましょう٩(ˊᗜˋ*)و
[良い点] んまー! 胃袋掴む作戦なのね! にやにやしながら読んでしまいました。 やっぱり料理男子はいいですね(*´ω`*)
[良い点] これは大変なドロドロの予感が。ミレーヌがいたらもっと大変なことに。想像してしまい、ソワッソワしました。とても面白かったです。 [一言] 異世界でも醤油作れるのすごいなぁ。達也の優秀さにさら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ