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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第15章 一方的な愛

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05 そのまさかよ。~赤くなった水晶~

 場所:ガルベルの小屋

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 ガルベルさんの山小屋に来て、三日目の朝。


 窓から差し込む明るい光に顔を照らされ、私はベッドの上で、うっすらと目を開いた。



「きつい……」



 ガルベルさんの魔法の訓練は、なかなかのスパルタで、二日連続、外がすっかり暗くなるまで続き、私も達也も、かなりヘロヘロになって小屋に戻った。


 これで今日の訓練は終わり、かと思ったら、夜は夜で、魔導書片手に、小難(こむずか)しい魔法の解説を延々(えんえん)と続けるガルベルさん。


 (すで)に疲れていた私達は、うとうとしながら夜中までそれを聞き、各自の部屋に戻ると、倒れ込むように眠ったのだった。



 ――うぅ……。今日も訓練かぁ……。


 ――日本の思い出話に花を咲かせる余裕なんて全くないわ。



 あんなに一日中訓練しても、全く疲れる様子のないガルベルさん。やっぱり彼女は、不死身なのかもしれない。


 重い体を無理やり起こし、部屋の扉を開け廊下に出ると、達也も同時に向かいの扉を開け、廊下に顔を出した。



「おはよ、達也」


「うん、おはよ、みやちゃん」


 そう言った達也が着ているのは、この世界に来た日に着ていた、オレンジの学校ジャージだ。寝ぼけ眼で、髪にはひどい寝癖(ねぐせ)がついている。


「ぷは。達也、王子様ファッションとのギャップがひどいよ」


「みやちゃんこそ、ほっぺに寝跡(ねあと)ついてるよ」


「えっ、やだ!」



 そんなことを言い合いながら、朝食を摂るため階段を降りる。


 昨日と同じなら、ガルベルさんが作ってくれたお料理が、テーブルに並べられているはずだった。



「あれ? 朝ご飯がない……。ガルベルさんはどこ行ったのかな?」


「変だね。昨日は朝早くから、早く食べろって急かしにきたのに」



 昨日の不満を思い出したのか、達也がぼやくように言う。


 少しキョロキョロと小屋の中を見回していると、バーンと扉が開き、彼女が小屋に入ってきた。


 大量の食材が入った大きなカゴを胸に抱えている。



「お帰りなさい。こんな朝早くから、食材の調達ですか?」



 私が(たず)ねると、彼女はそのカゴを椅子の上に置きながら言った。



「あなた達、これで、しばらく食いつないでいてちょうだい。私、何日か出かけるわ」


「「はい!?」」



 何かの冗談かと思ったけれど、ガルベルさんは、ひどく顔色が悪く、ずいぶん(あわ)てているように見えた。



「悪いけど、あなた達を屋敷に送ってあげる時間がないのよ。あ、山の中は魔物が出るから、勝手にウロウロしちゃダメよ。待ってる間、昨日と同じ魔法を練習しててね」



 矢継(やつ)ぎ早にそんなことを言うと、小屋を出て行こうとするガルベルさん。


 こんな転送ゲートもない山小屋に、私達二人を残し、本当にどこかへ行ってしまうつもりのようだ。


 だけど、それ以上に、ガルベルさんの顔つきがあまりに深刻で、嫌な予感が胸を(ざわ)つかせた。



「待ってください! 一体、何があったんですか? まさか、ターク様に何か……」



 青い顔で彼女のローブをつかみ、引き()めた私から、彼女は気まずそうに目を()らした。



「……そのまさかよ。今ね、セヒマラ雪山(せつざん)が噴火して、大変なことになってるみたいなの。タッ君はまた、行方不明よ」


「そんな……!」



 目の前が暗くなるのを感じて、ふらりとよろけた私を、達也が慌てて支えてくれる。



 ――まさか、噴火だなんて、そんなこと……。



 いろいろ聞きたいことはあるけれど、何も言葉が出てこない。


 そんな私の代わりに、達也がガルベルさんに質問した。



「ターク君、ガルベルさんの水晶には映らないんですか?」


「ダメよ。水晶が赤くなっただけだったわ。とにかく、ちょっと行ってくるから。二人は大人しく待っててちょうだいね。さっき言ったことを忘れないで」



 そう言って小屋から出ようとするガルベルさんの肩の上に、どこから出てきたのか、ライルが飛び乗った。



「ミヤコ。タークはきっと無事だよ」


「ライル……」



 ガルベルさん達は、小屋を出ると、そそくさと(ほうき)にまたがり、飛び立ってしまった。


 力が抜けたように、椅子に座り込んだ私の前に、達也が寄り添うようにしゃがみ込んだ。



「達也、どうしよう、ターク様が、私のせいで……私が、魔法を暴発(ぼうはつ)させたばっかりに……」


「みやちゃん……。ターク君なら、ガルベルさんに言われなくても、きっとセヒマラに登ったと思うよ」


「うん……」


「大丈夫だよ。彼、不死身だし、信じて待とう。ね?」



 ――だけど達也、不死身って怖いよ。



 ターク様の不死身が、時に恐ろしい事態を(まね)く事を、達也だって、わかっていない(はず)はない。


 何度も頭を振ってみたけれど、嫌な想像はなかなか振り払えなかった。



 ――こんな時に、山奥の小屋に置き去りにされるなんて……。



 何も出来ない自分に失望する私を、達也は心配そうに見つめていた。



 セヒマラ雪山が噴火し、行方不明になってしまったターク様を探しに行くというガルベル。自分を責める宮子を達也は(なぐさ)めますが、宮子の不安はぬぐえません。山奥の小屋に二人きりになってしまった二人の運命は……?


 次回、第十五章第六話 醜い嫉妬心。~幼なじみは警戒できない~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[一言] 花車様おはようございます! そしてある意味平和的に過ごせそうに思えた修行中まさかの事態が!? ターク様はどうなるのか!? みやこと達也はどうするのか!? 続きを拝読させていただきますね(⁎ᴗ…
[良い点] これを機にもしや……なんて思っていたらあとがきでやはりなことが書いてあってやはり! でした。 達也にとっては今がチャーンスですもんね。 やはりすぎて笑ってしまいました( *´艸`)
[良い点] それで炎属性がいっぱいで、本来氷の子たちは大慌てだったのですね。読んでいて魔獣たちが可哀想になりました。この噴火が人為的なものだとしたら、魔獣たちのためにも許せないですね。成敗してやってほ…
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