04 二人の魔法合宿4~別のこと、別のこと?~
場所:ガルベルの小屋
語り:小鳥遊宮子
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私達の使える魔法の属性を把握したガルベルさんは、さっそく、魔法の訓練を開始した。
「うーん、何から試そうかしらね? そうだ、まずは歌姫ちゃん、前に庭に生やしたっていう、豆を出してみる? あれは、ツルで魔物を足止めする土属性の補助魔法よ」
「あ、はい。あれは、歌で発動したんですけど、歌っても大丈夫ですか?」
「もちろんよ。是非聞きたいわ! 歌ってみて」
――やった! ガルベルさんが居るし、安心して歌えるわ!
お豆が生える歌は、前にメルローズの街で、ターク様に歌の大会の舞台に押し上げられて歌った、「心の種」という歌だ。
それは、昔から、小学校の音楽の本に載っていて、日本人なら誰でも、クラスみんなで合唱したことがあるような、歌いやすくて、ポピュラーな歌だった。
「なんだか 辛く 苦しくて♪
叫び出したい そんな時
この胸に 小さな種を蒔いた~
大きな夢に なりますようにと~♪」
――わ! 自分の体、声の調子がいいわ! やっぱり、鍛えてるからね!
杖を片手に歌を歌うと、地面からニョキニョキと、太いツルが生えはじめた。
それは、あっという間にどんどん育ち、範囲を広げながら、私の背丈を超えていく。
「言えなかった ありがとうも~
いつか あなたに 届くようにと~♪」
――あぁ、やっぱり、この歌、涙が……!
私が感極まって泣きはじめると、豆はさらにぐんぐん育ち、天を目指して伸びはじめた。
「わ、み、みやちゃん……!?」
「ストップ、ストップ! 歌姫ちゃん、歌止めて!?」
二人の慌てる声が聞こえ、感極まって閉じていた目を開くと、達也がツルの中に巻き込まれ、一メートル近くも浮いている。
――あぁ、うそ!
おどろいてすぐに歌うのをやめたけれど、豆の成長は止まらず、達也がどんどん上に上がっていった。
「あの、これ、どうしたら!?」
「何か、別のことを考えて、さっきの歌は忘れるのよ!」
――そっか、まだ頭の中で、歌が勝手に流れてるわ。
――別のこと、別のこと?
私がアタフタしていると、豆のツルの中から達也が叫んだ。
「みやちゃん、ハンバーグだよ!」
「ハ、ハンバーグ!?」
「そう、中野通りにある、三好亭のハンバーグを思い出して!」
――三好亭のハンバーグ……? あぁ、あの、ジュウジュウ熱い鉄板に乗って出てくる、肉汁たっぷりの……?
――歌のコンクールが終わった後とか、頑張った後によく、達也と一緒に、連れて行ってもらったなぁ……!
頭の中が、三好亭のハンバーグ一色に染まると、伸び続けていた豆のツルが、ようやく成長を止めた。
「達也! 大丈夫?」
「うん、ごめん、ちょっと、枯らすね。 ダークボール!」
タツヤが呪文を唱えると、さっきより随分大きい闇の球が出現した。
達也の周りの豆が枯れ、達也は簡単に、豆のツルから抜け出してくる。
――さすが達也。もうさっきの魔法を使いこなしてる!
――良かった……。安心したら、三好亭のハンバーグ、食べたくなっちゃった……。
ごくりと喉を鳴らした私を見て、「食べたくなった?」と、言いながら、少しニヤリとする達也。
――達也、やっぱり、私を食べ物で釣って、日本へ連れて帰ろうとしてる!?
――油断できない!
唖然とする私と、なんだか余裕な顔の達也を横に並べると、ガルベルさんは少し、呆れたような顔をして言った。
「歌姫ちゃん、やっぱり、あなた規格外ね。たぶん、歌のせいだと思うけど、消費する魔力量に対する魔法の威力がおかしいわ」
「そ、そうなんですか?」
「あなたは魔法を発動する訓練より、魔法を止める訓練をしましょうか」
「は、はぁい……よろしくお願いします」
「それから、タツヤ。闇属性使いは、悪いことをしてるって、気持ちがあると、闇に堕ちやすいわ」
「え!?」
「どんなに悪いことでも、悪気なくする分には良いんだけどね。悪用できそうで、簡単には出来ないのが闇属性魔法なのよ」
「そうなんですか」
「そうね。いいことに使ってますって、大義名分があると安心よ。とにかく、ごめんね、なんて言いながら魔法を使うと危険だわ。自分は良いことをしてるんだって、思い込むようにしましょうね」
「なるほど……」
――えぇ……? 闇属性魔法、危険すぎない……?
こうして、私達の魔法訓練は、魔法の暴発や闇堕ちを防ぐ、イメージトレーニングへと、移行したのだった。




