03 二人の魔法合宿3~それ、慰めになってないよ~
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場所:ガルベルの小屋
語り:小鳥遊宮子
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「さ、最悪だ。萎れるなんて……。僕、闇魔道士だったの?」
自分の放った闇属性魔法のダークボールにショックを受け、しょんぼりしてしまった達也。地面に座り込んだまま、頭を抱え込んでいる。
私は彼を励まそうと、その顔を覗き込んで言った。
「で、でも、ライルとか、ガルベルさんだって、闇属性魔法を使うよ?」
「みやちゃん。それ、慰めになってないよ」
「えっ、そ、そっか……?」
慰めたつもりが、なんだか達也は、余計に落ち込んでしまった。
そんな私達を見て、ガルベルさんは不満そうに眉間に皺を寄せる。
「ちょっとちょっと。それ、どう言う意味なの?」
「あ、いえ……特に意味は……」
「ガルベルさん、魔法属性って、本当に変えられないんですか?」
「無理よ。言ったでしょ。向こうから一方的に愛されてるんだって。乗りかえは出来ないし、浮気もおすすめしないわ」
達也は、祈るような潤んだ瞳でガルベルさんを見上げたけれど、彼女はそれに、ピシャリと答えた。
――本当なのかな……?
それは、ミレーヌの体で、色々な属性の魔法を発動させていた身からすると、どうも、あまり、納得の行く話ではなかった。
――それじゃ、ターク様も浮気者ってこと? イーヴさんは? ガルベルさんは?
かなり疑問ではあるけれど、普通は、一人で複数の属性魔法を使おうとすると、魔法の威力が極端に落ちてしまうばかりか、最悪、両方からそっぽを向かれてしまうらしい。
「だけど、ガッカリしないで。闇属性魔法は危険が多いし、悪用されがちだし、イメージが悪いのは否めないけどね。うまく使えば、普通以上に便利よ」
「おぉ、そうなんですね!」
黙ってしまった達也の代わりに、大声で返事をする私。私達が知らないだけで、きっと闇属性魔法にも、素敵な使い道があるはずだ。
期待を込めた瞳でガルベルさんを見上げると、彼女は得意げに話しはじめた。
「闇属性攻撃は相手の生命力を吸い取るからね! 攻撃力が高いのはもちろんだし、封印や、暗示、幻術みたいな各種状態異常も、闇属性なら大体可能よ。便利でしょ?」
「あ、そ、そうなんですね……」
「あとはちょっと高度だけど、重力魔法も闇属性よ。死ぬほど訓練すれば空だって飛べちゃうわ」
「死ぬほど……ですか」
ターク様が、「この広い世界に、闇属性魔法で空を飛べるのはガルベル様だけだ」と、言っていたのを思い出し、私は「ははは」と、苦笑いを浮かべた。
やっぱり闇属性は、あまり使う機会のなさそうな、少し怖い魔法が多いようだ。
いつもニコニコフワフワの達也が、闇の微精霊に愛されるなんて、なんだか不思議な気がする。
「タツヤ、心配ないわよ。しっかり指導してあげるから、安心して?」
「ほら、達也。ガルベルさんがこう言ってくれてるから大丈夫だよ! それに、達也は何でも、上手くできちゃうじゃない! 覚えればきっと役に立つよ」
「みやちゃん……。そ、そうかな! ありがとう」
二人で交互に励ますと、達也は俯いていた顔を上げ、フワリと笑った。
――達也は、大丈夫そうね。
その顔を見て、ホッと胸をなで下ろす私。
小さい頃は、得意げに達也の世話を焼いていた私だけれど、気がつくと彼は、世話なんて焼けないくらい、優秀になっていた。
その上、やさしくて、かっこいい彼は、こんな異世界にいたって、誰からも好かれる人気者だ。
そんな達也を、私はあまり、心配することがない。
――いつの間にか、最大魔力もターク様と変わらないくらいになってるし、達也はまた、どんどん先に行っちゃいそうだわ。
――しっかり訓練して、ターク様の役に立ちたいし、私も頑張ろう。
少しやる気を出した様子の達也を眺めながら、私は気合いを入れ直した。
「まぁ、微精霊達の愛はあまりに一方的で、不満なのは分からなくもないわ。だけど、逆にいうと、こちらから愛を返さなくても魔法は使えるのよ。微精霊を使うのに必要なのは、魔力と、呪文とか歌とか、意思疎通する方法だけ。便利に使って暮らせば良いのよ」
ガルベルさんがそう言うと、達也はキリリとして言った。
「分かりました。僕は闇の微精霊達の愛を、使いこなして見せます」
「それでいいわ」
――え? 言い回し、それでいいの!?
言葉にすると、人間と精霊達の関係は、なんとも不思議だった。
ショックを受ける達也に、闇属性魔法の有用性を説明するガルベル。だけど、便利な生活魔法に期待していた二人には、あまり使い道がなさそうです。とは言え、宮子とガルベルに励まされ、闇属性を受け入れた様子の達也。闇属性魔法を使いこなす!と気合を入れます。
次回、第15章第4話 二人の魔法合宿4~別のこと、別のこと?~をお楽しみに!




