02 二人の魔法合宿2~魔法は愛よ!~[挿絵あり]
場所:ガルベルの小屋
語り:小鳥遊宮子
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私達は、ガルベルさんの小屋から少し歩いた場所にある、広い草原に移動した。
とてもシンプルな、魔法の杖らしい木の棒を配られ、早速、ガルベルさんの魔法訓練が始まる。
この杖は、あっても無くても良いらしいのだけれど、一応持っていた方が、初心者は魔法が発動しやすいのだとか。
「まずは、自分の魔法属性を知らなくちゃね。普通、魔法師が使える魔法の属性は、一人一つなのよ」
人差し指を一本立てながら、そう切り出したガルベルさん。
私達の周りに、複数属性を使う英雄が何人もいるせいか、ガルベルさんは、「普通」という言葉を、かなり強調した。
「魔法を使うには、願いや呼びかけに応えてくれる、精霊に愛されないといけないの。あなた達は、魔力ゲージがあるから、既に何かの精霊に愛されてるわ」
「わぁ、そうなんですか? 精霊って、シュベールさんや、ファシリアさんみたいな……?」
「そうじゃなくて、普通の魔法師は、空気中に溶け込んでいるような、小さな微精霊達に愛されているのよ」
ガルベルさんが言うには、精霊はその力の強さによって、大きく分けて、微精霊、精霊、大精霊の、三種類いるらしい。
目に見えるシュベールさん達は、この中では、普通の精霊に当たる。
普通の精霊や大精霊は、微精霊より圧倒的に力が強いけれど、運良く出会い、愛される人はかなり稀だと言う。
普通の魔法師は、知らぬ間に何かの微精霊に愛されている。
そしてそれは、イーヴさんやターク様が受けた愛と同じように、精霊達からの、かなり一方的な愛のようだ。
「私達には、断る権利もなければ、選ぶ権利もないわ。愛されたら、受け入れるだけよ」
「はぁ、そんなものなんですね」
少し呆気に取られながらも、そう応えた私を見て、「ふふ、やっぱり、歌姫ちゃんは受け入れるのが早いわね」と、感心したように言うガルベルさん。
「普通は一属性しか使えないっていうのは知ってたけど、まさか属性を選べないなんて……」
そんな風にぼやいている達也は、ちょっと納得がいかない、という顔をしている。
「まぁ、愛されるってことは、向いてるってことでもあるからね。どの属性も、使いこなせば便利なものよ。とにかく、何が出るか、試してみましょう」
「姿をみせろ~」と唱えながら、適当に杖を振るように促される私達。
――え、そんな適当な感じで魔法が使えるのはガルベルさんだけなんじゃ……?
と、思ったけれど、微精霊はこっちを愛しているわけで、ちょっと呼びだすくらいなら、適当でも応えてくれるらしい。
「どうせなら、炎とか水みたいな、生活魔法が便利そうなのが良いな」
「風も便利そうだよ。私は何が出るかな?」
「みやちゃんは、可愛いから水とかかな?」
「もう、達也ったらそれ、口癖なの?」
「え? なんのこと?」
軽いノリで女子を褒める達也に呆れつつ、まずは私が杖を振ってみることに。
「微精霊さ~ん、こんにちは。姿を見せてもらえませんか?」
けれど、うんともすんとも、何も起こった感じがしない。
「あら? おかしいわね。あ、見て。足元にキノコが生えたみたいよ」
「え!?」
そう言われ、足元を見てみると、シメジのような薄茶のキノコが、確かにひょろっと生えている。
「歌姫ちゃん、あなた土属性ね!」
――うはぁ……地味! 私にピッタリ。
あまりの地味さに、ついつい苦笑いしてしまったけれど、もっと沢山キノコが出せるようになれば、キノコ料理には困らないかもしれない。
座ってキノコを眺める私のとなりにしゃがみ込み、「可愛いキノコだね」と言って笑う達也。
もはや彼は、何でも可愛いのかもしれない。
「達也もやってみて?」と、私が言うと、しゃがんだままの達也が、「姿をみせて」と、軽く杖を振った。
「何か出た?」
「あれ? キノコが、萎れた……」
達也の振った杖の先から出た黒い球が、フワフワと飛んでキノコに当たると、私の生やしたキノコは、しおしおと萎れてしまった。
「あら? これは、ダークボールね。闇属性だわ」
「えぇ!? 僕のせい? ごめん、みやちゃん!」
達也は萎れたキノコを見て、あたふたと慌て、私に謝ってきた。
「え? きにしないで? 大丈夫だよ!?」
「最悪だよ。萎れるなんて……僕、闇魔道士だったの?」
まるで、苦虫を噛みつぶしたかのように、いーっと顔をゆがませた達也。そのまま頭を抱え、不安そうに声を震わせる。
彼の手に握られた杖の先からは、うっすらと黒い、モヤが立ち上がっていた。




