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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第15章 一方的な愛

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01 二人の魔法合宿1~気を引き締めてがんばります~

場所:ガルベルの小屋

語り:小鳥遊宮子

*************



「素敵! ここが、ガルベルさんの山小屋ですか!?」


 翌朝、ガルベルさんの箒で人里離れた山小屋に連れて来られた私、小鳥遊宮子は、小屋を(おお)い隠す大木の下で、ワクワクと胸を高鳴らせた。


 ここはメルローズから少し北に向かった場所にある、モルン山の頂上付近のようだ。



 ――想像してたより大きいし、コテージみたいで素敵!


 ――あの林間学校の合宿所とは、古くなり方がぜんぜん違うわ!



 御伽噺(おとぎばなし)に出てきそうなその小屋は、急勾配(きゅうこうばい)の大きな三角屋根(さんかくやね)が可愛らしかった。


 植物達に侵食(しんしょく)された外壁は、所々剥がれた漆喰(しっくい)の下から、すっかり角の取れたレンガが顔を出している。


 その自然な風化具合には、そこはかとない(おもむき)が感じられた。


 丸い窓のついた緑の扉から、私の声が聞こえたのか、先に来ていた達也が、いつものようにフワフワの笑顔を見せる。



「みやちゃん、来たね!」


「達也、のどかでいいところだね」



 今日の達也は、いつもの白衣姿ではなく、首周りにレースの飾りがついた白いシャツの上に、黒いベストと、大きな襟のついた黒いコートを着ている。



 ――達也も王子化してる……。



 最近の達也の普段着はだいたい、アグスさんが若い頃着ていた服らしい。


 今はひょろっとしているアグスさんだけど、若い頃は結構がっちりしていたようで、サイズがピッタリなのだとか。



 ――黒着ちゃうと、ターク様と間違えそうだけど、この立ち姿は、やっぱり達也だなぁ。



 以前なら、達也が何色の服を着ていても、煌々(こうこう)と光っているターク様と、達也を見間違えることはまず無かった。だけど、ターク様は最近、屋敷ではあまり光っていない。


 達也の白衣姿が、すっかり定着していたこともあって、服が黒っぽいと、うっかり誤認(ごにん)してしまいそうになる。


 だけど、達也はいつも、肩足を(じく)に上半身を軽く傾けた、まるでモデルのような立ち方をしている。あれは、現在日本で洗練(せんれん)された、スマートなイケメンのポージングだ。


 そのシルエットを見れば、彼が達也だと言うことは、遠目にもすぐに見分けがついた。


 なぜなら、大剣士で英雄のターク様は、いかにも軍人という感じで、背筋が常に、ピンと伸びているからだ。


 私がそんなことを考えていると、彼はニコニコしながら、私に手を差し出した。



「荷物貸して。運んであげるよ」


「そんなに重くないし、大丈夫だよ?」


「いいから、いいから!」


「ありがとう」



 相変わらず、気のく達也に、つい荷物を渡してしまう。



 ――そう言えば、日本ではいつも、達也に甘やかされてたっけ。


 ――二人になると、快適(かいてき)すぎて危険なんだよね。達也のペースに持って行かれないようにしないと……。



 彼の(そば)に居ると、どんどん気が緩んでいきそうな気がして、自分のほおを軽くたたき、気を引き締める。


 ここへは遊びに来たのではなく、魔法の訓練をしに来たのだから。


 達也について小屋の扉を(くぐ)ると、「部屋を用意してるのよ」と、ガルベルさんが、私達を個室に案内してくれた。



「昔ここで、ひよっこ魔術師達を(きた)えていたからね。ちゃんとした生徒用の部屋があるのよ」



 小さなキッチンのあるリビングを横目に、二階への階段を登ると、シンプルなベッドが置かれた、小さな部屋が二つあった。



「みてみて、この部屋、景色が良いよ」


 左手の部屋に入ると、大きな窓から明るい外の景色が見えている。



「わぁ! 遠くにメルローズの街が見えるね!」


「気に入ったの? じゃぁ、こっちはみやちゃんの部屋ね。で、あっちが僕の部屋。いいかな?」



 達也にそう言われ、向いの部屋をのぞいてみると、その部屋は木の影のせいか薄暗く、さっきの部屋より(せま)く感じた。



「こっちの部屋の方が明るくて広いみたいだけど、いいの?」


「気にしなくて良いよ」


 明らかに良い方の部屋を、私に(ゆず)ってくれる達也。


「わぁ! ありがとう!」



 ――って、あれ? だめだ、気が付くと甘えてるわ。



 これはもう、簡単には治らない(くせ)になっているかもしれないと、冷や汗をかきながらも、部屋の端にリュックを下ろす。



 ――それにしても、向かいの部屋って、隣の家に住んでるより近いよね……。大丈夫、かな?



 一年前、ポルールから戻った私とターク様が、恋人になったことを、しぶしぶながらも認めてくれた達也。


 だけど彼が、少しも私のことを諦めていないらしいことは、普段の会話からして明らかだった。


 達也は私が、ターク様と別れ、日本へ帰りたいと言い出すのを、もう一年も待っているのだ。


 そんな彼の気持ちを、受け取ることも、突き放すことも出来ないまま、私はただ、日々をやり過ごしていた。



「嬉しいな! 訓練が終わったら、いっぱい話そうね。僕、たまには日本の話がしたいよ」



 リュックから荷物を出そうと、しゃがみ込んだ私の(となり)に、同じようにしゃがむ達也。


 ターク様はめったに見せることのない、ニコニコの笑顔でこっちを見ている。



「そ、そうだよね。わかるよ」



 私はそう言いながらも、達也をまともに見られなかった。



 ――ど、どうしよう。近いし、可愛いし、ターク様と同じ顔だし、邪険(じゃけん)にできないし……。



 よく、メイドの部屋に会いにきてくれる達也だけど、ターク様に仕えるメイド達に大人気の彼は、いつも彼女達に取り囲まれている。


 達也とこんなふうに、二人になったのは、本当に久しぶりだった。


 達也に浮気なんてあり得ないけれど、彼が大切な幼なじみなのは、今も昔も変わらない。


 それに、この世界で懐かしい日本の話ができるのは、たった一人、達也だけなのだ。



 ――私も日本の思い出話で、達也と盛り上がりたいよ!?


 ――だけど、やっぱり困る!



 そんなことを考えていた私の耳元に、突然、達也の手が伸びて来た。



「ターク君、これ、消していかなかったんだ」


「これって?」


「この傷……」


 そう言って、うっすらと残る、古い傷跡を指でなぞる達也。


「ひゃ……!?」



 思わず飛びはねるように後ずさりした私を見て、達也は目を丸くした。



「みやちゃん……そんなに、警戒しないで。僕、襲ったりしないからさ」


「達也……」


「だけど、みやちゃんの気が変わるのは、大歓迎だよ」


「……もう、私、達也の部屋にはいかないからね」


「えー!」


「私の部屋も、立ち入り禁止ね?」


「ひ、ひどい……」



 幼なじみの彼に、こんなことを言うのはちょっと厳しいかもしれない。


 だけど、ターク様がミレーヌといるところを見て、自分がどれだけ取り乱したか考えると、こんな状況は、きっと良くない。


 とにかく、達也とはあまり、二人きりになってはいけない気がする。


 ガッカリする達也を、「ごめんね」と思いながらも、部屋から追い出していると、階段の下から、ガルベルさんの呼ぶ声がした。



「二人とも~! さっさと降りてきてちょうだい」


「「はーい!」」



 また声がそろってしまい、顔を見合わせた私達。長年二人で過ごしていた私達は、会話のテンポが、同じだった。


 この合宿は、思った以上に気を引き締める必要があるようだ。


 私はまた、両手で軽く自分の頬を叩き、達也に続いて階段を降りた。



魔法の訓練を受けるため、ガルベルの山小屋を訪れた宮子。先に来ていた達也に優しくされると、ちょっと警戒してしまいます。ターク様と似たような黒い服を着てきた達也ですが、ミヤコには達也とターク様の違いが、立ち姿だけではっきり分かるようです。


次回、第15章第2話 二人の魔法合宿2~魔法は愛よ!~をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] 達也と二人きりになる時間がかなり出来てしまったみやこへの誘惑。 みやこは果たして我慢ができるのであろうか笑 花車様おはようございます! 今日も楽しい話ありがとうございました(* ᴗ͈ˬᴗ͈)…
[良い点] すっかり達也のターンですね! 頑張れ達也〜!╰(*´︶`*)╯♡ でも最近はターク様×宮子もいいなぁって♡ どちらも捨てがたいですね!
[良い点] ふふっ、ドロッドロの三角関係、素晴らしいですね。読んでいてとても楽しかったです。達也はいつもどおりなのか、やる気なのか、読めないのがなお良いですねえ。 [一言] ターク様がいない隙をついて…
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