14 雪山登山。~あるといいもんだな~
場所:セヒマラ雪山
語り:ターク・メルローズ
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レムスルドラを出た私は、山頂から降りてくる、燃える魔物を退治しながら、夜の雪山を進んだ。
降りてくる魔物は、だいたいがイエティだ。巨大と言えば巨大だが、大きくても三メートルくらいで、フィルマン様とあまり変わらない。
他に現れるのは、巨大なトカゲやワァーム、それから、おかしな岩の化け物だ。
イエティは炎を纏い、トカゲは火を吐き、ワァームは透けた体の中が赤く煮えたぎっているように見えるが、元々そうだった訳ではなさそうだった。
イエティたちをよく見ると、自分が燃えている事にあわてている奴や、おどろいている奴がいたりする。
元が雪男なんだから、当然と言えば当然だろう。
どうも、誰かに無理矢理炎属性を付与されたようだ。
「おかしな光景だな。上はいったい、どうなってるんだ」
ライルの話では、山頂付近で、かなり広範囲に闇のモヤが発生しているらしいが、闇夜に包まれ、今はよく見えない。
のんびり上を見上げている間にも、どんどん魔物が降りてきた。
父さんが用意した新しい大剣を抜いてみると、いつもの黒い大剣ではなく、鋼の剣のように見える。
しかし、どうやら魔道武器のようで、既に私の光を吸収し、金色に輝いていた。光をベッドに転送しないため、いつもより早く魔力がたまるようだ。
私を見つけたイエティたちが、燃える棍棒を振り回し、殴りかかって来た。
しかし、新しい大剣の切れ味は最高で、簡単に倒せてしまった。刃先から飛び出す光の刃で、遠距離攻撃ができるのも前と変わらないようだ。
トカゲやワァームたちも襲ってくる。イエティも大して素早くはなかったが、こいつらは地を這っていて、もっと遅い。
思わず火で暖を取ってしまうくらいだ。
新しい剣のおかげか、それともペンダントのおかげなのか、私の攻撃力は確かに上がっているようだった。運も上がっているらしく、適当に振っていてもなかなかいい場所に当たる。
何にしても、これらの魔物は大して強くなかった。
しかし、思いの外厄介なのは、燃え盛る岩の化け物だ。固くてかなり気合を入れないと普通ならダメージを与えられないだろう。
しかも、こいつは油断していると、しばしば痛い目をみる。
大剣で岩を砕くと、細かくなった破片が、弾丸のように勢いよく飛んでくるのだ。広範囲に飛び散った石つぶては、なかなか全ては避けきれなかった。
当たると皮膚がえぐれ、下手すると貫通する。
――かなり痛いが、ずっと盾を出しているのも面倒だ。
――これは雷にも耐性があるな。イーヴ先生の得意な相手でもない。
――放っておけば砦が危険だ。一匹たりとも、下には行かせない!
出来れば、他の魔物も出来るだけ倒しておきたい、とは思うものの、全てを倒していたのではとても進まない。
――岩だけは倒しておくので、イーヴ先生、後はよろしくお願いします。
取り逃がしたイエティの後ろ姿を見送りながら、イーヴ先生に心の中で敬礼した。
私はとにかく、登らなくてはならないのだ。
燃える岩を砕く度、石つぶてにあちこち穴をあけられながら、私は山頂を目指した。
足元は雪に埋まり、霧で視界も悪いが、ルカラの泥沼を思えばまだ進みやすい。
ただ、登れば登るほど気温が下がり、大剣を握る手に感覚がなくなっていく。
――まずいな。
と、思ったその時、私の脳裏に、あくせくとバックに荷物を詰めていた、ミヤコの姿が浮かんだ。
『手袋、二重にしませんか?』
鈴の鳴るような声でそう言って、私の返事も待たず、バックに手袋を詰める様子は、なんだか愛しかった。
――そうするよ。
手袋を取り出した私は、それを二重にはめ、バックを背負い直した。
――急がなくては。
ミヤコを思い出し、少し緩んでしまった気持ちを引き締め直す。
大剣を握り直した私は、再び山頂を目指し、走りはじめた。
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――もう、かなり登ったな。やっと闇のモヤに入ったようだ。
急激に視界が悪くなったのを感じた私は、立ち止まり、周囲を見回した。
しかし、自分がどの辺に居るかなんて、全く見当もつかない。
下手をすると、方向を見失い、山を下ってしまいそうだった。
――とにかく、回収だ。
タツヤから受け取ったシェンガイトを何粒か取り出し、闇のモヤにかざしてみる。
――確かに吸ってはいるが、遅いな。こんなに時間がかかるのか?
――しかし、沢山出すなと言われたしな……。
シュンシュンとモヤを吸い込む石を雪の上に置き、私はその場に腰を下ろした。
――冷たい……。
慌てて腰を浮かせた私は、バックをガサゴソと探り、ミヤコに渡されたシートを取り出した。片面が銀色に輝く不思議なシートだ。
敷いて座ってみると、思った以上に温かかった。
――保温シートだと言っていたが、なんだ? 魔法か?
不思議なシートに首を傾げながらも、私は次に、ミヤコがバックに詰めた水筒を手にした。
何時間も走っていたため、喉がカラカラだ。
――温かい茶を入れたと言っていたが、流石に凍ってるだろうな。
そう思いながらも、ミヤコに教えられた通りにしてみると、湯気の上がる茶が、コップに注がれた。
――おぉ。まさか、湯気が出るとは……。魔法か?
今日は朝から、随分色々なことがあったが、これはその中でも、かなりの衝撃だ。
冷え切った身体に、ミヤコのやさしさが染み渡る。
――うまい……。
――無くても死にはしないが、あると良いもんだな。
幸い周辺に魔物の気配はないようだ。今のうちに少しだけ、休憩をしておきたい。
荷物の詰まったバックを抱きしめ、私はしばらく、その場に横になった。
皆に渡された装備の効果を実感しつつ、あちこち穴を開けられながら、魔物溢れる雪山を登るターク様。「いや、盾だせよ!」とおもわず突っ込んでしまいますね。宮子に持たされた登山グッズにも驚きつつ、精霊のモヤの回収を開始しました。
次回からは15章です。語りは宮子にもどり、ガルベルの山小屋での魔法合宿が始まります。
第15章第1話 二人の魔法合宿1~気を引き締めてがんばります~をお楽しみに!




