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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第14章 冬の到来

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14 雪山登山。~あるといいもんだな~

 場所:セヒマラ雪山

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 レムスルドラを出た私は、山頂から降りてくる、燃える魔物を退治しながら、夜の雪山を進んだ。


 降りてくる魔物は、だいたいがイエティだ。巨大と言えば巨大だが、大きくても三メートルくらいで、フィルマン様とあまり変わらない。


 他に現れるのは、巨大なトカゲやワァーム、それから、おかしな岩の化け物だ。


 イエティは炎を(まと)い、トカゲは火を吐き、ワァームは透けた体の中が赤く煮えたぎっているように見えるが、元々そうだった訳ではなさそうだった。


 イエティたちをよく見ると、自分が燃えている事にあわてている奴や、おどろいている奴がいたりする。


 元が雪男なんだから、当然と言えば当然だろう。


 どうも、誰かに無理矢理炎属性を付与ふよされたようだ。



「おかしな光景だな。上はいったい、どうなってるんだ」



 ライルの話では、山頂付近で、かなり広範囲に闇のモヤが発生しているらしいが、闇夜に包まれ、今はよく見えない。


 のんびり上を見上げている間にも、どんどん魔物が降りてきた。


 父さんが用意した新しい大剣を抜いてみると、いつもの黒い大剣ではなく、はがねの剣のように見える。


 しかし、どうやら魔道武器のようで、既に私の光を吸収し、金色にかがやいていた。光をベッドに転送しないため、いつもより早く魔力がたまるようだ。


 私を見つけたイエティたちが、燃える棍棒を振り回し、殴りかかって来た。


 しかし、新しい大剣の切れ味は最高で、簡単に倒せてしまった。刃先から飛び出す光の刃で、遠距離攻撃ができるのも前と変わらないようだ。


 トカゲやワァームたちも襲ってくる。イエティも大して素早くはなかったが、こいつらは地をっていて、もっと遅い。


 思わず火でだんを取ってしまうくらいだ。


 新しい剣のおかげか、それともペンダントのおかげなのか、私の攻撃力は確かに上がっているようだった。運も上がっているらしく、適当に振っていてもなかなかいい場所に当たる。


 何にしても、これらの魔物は大して強くなかった。


 しかし、思いの外厄介なのは、燃えさかる岩の化け物だ。固くてかなり気合を入れないと普通ならダメージを与えられないだろう。


 しかも、こいつは油断していると、しばしば痛い目をみる。


 大剣で岩を砕くと、細かくなった破片が、弾丸のように勢いよく飛んでくるのだ。広範囲に飛び散った石つぶては、なかなか全ては避けきれなかった。


 当たると皮膚がえぐれ、下手すると貫通する。



 ――かなり痛いが、ずっと盾を出しているのも面倒だ。


 ――これは雷にも耐性があるな。イーヴ先生の得意な相手でもない。


 ――放っておけば砦が危険だ。一匹たりとも、下には行かせない!



 出来れば、他の魔物も出来るだけ倒しておきたい、とは思うものの、全てを倒していたのではとても進まない。



 ――岩だけは倒しておくので、イーヴ先生、後はよろしくお願いします。



 取り逃がしたイエティの後ろ姿を見送りながら、イーヴ先生に心の中で敬礼した。


 私はとにかく、登らなくてはならないのだ。


 燃える岩を砕く度、石つぶてにあちこち穴をあけられながら、私は山頂を目指した。


 足元は雪に埋まり、きりで視界も悪いが、ルカラの泥沼を思えばまだ進みやすい。


 ただ、登れば登るほど気温が下がり、大剣を握る手に感覚がなくなっていく。



 ――まずいな。



 と、思ったその時、私の脳裏に、あくせくとバックに荷物を詰めていた、ミヤコの姿が浮かんだ。



『手袋、二重にしませんか?』



 鈴の鳴るような声でそう言って、私の返事も待たず、バックに手袋を詰める様子は、なんだか愛しかった。



 ――そうするよ。



 手袋を取り出した私は、それを二重にはめ、バックを背負い直した。



 ――急がなくては。



 ミヤコを思い出し、少し緩んでしまった気持ちを引き締め直す。


 大剣を握り直した私は、再び山頂を目指し、走りはじめた。



      △



 ――もう、かなり登ったな。やっと闇のモヤに入ったようだ。



 急激に視界が悪くなったのを感じた私は、立ち止まり、周囲を見回した。


 しかし、自分がどの辺に居るかなんて、全く見当もつかない。


 下手をすると、方向を見失い、山を下ってしまいそうだった。



 ――とにかく、回収だ。



 タツヤから受け取ったシェンガイトを何粒か取り出し、闇のモヤにかざしてみる。



 ――確かに吸ってはいるが、遅いな。こんなに時間がかかるのか?


 ――しかし、沢山出すなと言われたしな……。



 シュンシュンとモヤを吸い込む石を雪の上に置き、私はその場に腰を下ろした。



 ――冷たい……。



 慌てて腰を浮かせた私は、バックをガサゴソと探り、ミヤコに渡されたシートを取り出した。片面が銀色にかがやく不思議なシートだ。


 敷いて座ってみると、思った以上に温かかった。


 ――保温シートだと言っていたが、なんだ? 魔法か?



 不思議なシートに首を傾げながらも、私は次に、ミヤコがバックに詰めた水筒を手にした。


 何時間も走っていたため、喉がカラカラだ。



 ――温かい茶を入れたと言っていたが、流石さすがに凍ってるだろうな。



 そう思いながらも、ミヤコに教えられた通りにしてみると、湯気の上がる茶が、コップに注がれた。



 ――おぉ。まさか、湯気が出るとは……。魔法か?



 今日は朝から、随分(ずいぶん)色々なことがあったが、これはその中でも、かなりの衝撃しょうげきだ。


 冷え切った身体に、ミヤコのやさしさが染み渡る。



 ――うまい……。


 ――無くても死にはしないが、あると良いもんだな。



 幸い周辺に魔物の気配はないようだ。今のうちに少しだけ、休憩をしておきたい。


 荷物の詰まったバックを抱きしめ、私はしばらく、その場に横になった。



皆に渡された装備の効果を実感しつつ、あちこち穴を開けられながら、魔物溢れる雪山を登るターク様。「いや、盾だせよ!」とおもわず突っ込んでしまいますね。宮子に持たされた登山グッズにも驚きつつ、精霊のモヤの回収を開始しました。


次回からは15章です。語りは宮子にもどり、ガルベルの山小屋での魔法合宿が始まります。


第15章第1話 二人の魔法合宿1~気を引き締めてがんばります~をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] ターク様は魔物もものともせずに! でもターク様を心配したみやこが持たせてくれたものに愛情を感じ! そして精霊のモヤ回収! 頑張れターク様! (ノ´▽`)ノ♪
[良い点] さすが宮子! 備えあればってヤツですね!(๑>◡<๑) 私は盾じゃなくて、シートに横になるんかーいってツッコミむした。まだモンスターが出てきそうなのに…笑 気配がしなくてもわーってでてきた…
[良い点] 激しい戦闘と、宮子の癒やしでほっこりするターク様のギャップがとても良かったです。無くてもいいけど、あると嬉しい。不死身らしい、面白い感慨だとおもいます。 [一言] 慌ててる魔物。面白い上に…
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