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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第14章 冬の到来

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13 走り出したターク。~何日かかるんだ?~

 場所:レムスルドラ

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 ポルールから転送ゲートをくぐった私、ターク・メルローズは、セヒマラ雪山せつざんふもとの街、レムスルドラに出た。


 山の上ほどでは無いが、この街は年中氷点下らしい。雪に覆われ、どこもかしこも真っ白だ。


 麓と言っても、雪山と街の間には、強固な第三砦がある。


 雪山から魔物が降りてきているようだが、夜の街は、静かなものだった。


 住民たちは既に、どこか安全な場所へ避難したようだ。



「おーい! ターク、こっちこっち!」



 転送ゲートの周りでキョロキョロしていると、カミルが私を迎えに来た。毛皮のマントに、もこもこの帽子をかぶり、マフラーもしているため、目しか見えない。


 彼女の碧い瞳を囲む長いまつ毛が、白いトゲのように凍っていた。


 私を砦に案内しながら、彼女は変らず、ジロジロと、観察するように私を見た。



「セヒマラを登るんだって? 大丈夫? って、大丈夫そうだね。防寒対策ばっちりだ。流石、ミヤコちゃん」



 私とミヤコの、出かける前のやりとりを見てきたかのように、うんうんと頷くカミル。顔はよく見えないが、ニヤニヤと笑っているのが目元でわかる。



「だけど、これも持っていくと良いよ。炎属性防御のお守り」


 彼女はそう言って、私の首に、何か引っ掛けた。


「なんだ? またペンダントか?」


「アグス様からだよ」


「そうか……。本当に魔物が燃えてるんだな」


「うん、不思議なことにね。だから僕が、万が一のために、消火活動に呼び出されてるわけ。って言っても、アクレアを連れてきたわけじゃないから、微力だけどね」


「いや、アクレアを連れてくるのは大袈裟だろう。洪水になってしまうぞ」


 いつも自由に飛び回っているファシリアとは違い、アクレアはルカラ湖を守る精霊だ。カミルはいつも、アクレアを連れているわけではないようだった。


 そうこう言ってるうちに、私たちは第三砦に到着した。



「ただいま、コルニス! 変わりはない?」


「おかえりなさい、カミル隊長! 現在のところ、状況に変化はありません!」


  

 カミルの隊の男が、彼女に話しかけられ、ビシッと敬礼している。


 彼女の隊の兵士は大体顔見知りの筈だが、この男には見覚えがなかった。と言っても、耳当て付きのモコモコ帽子に、眉まで隠すおかっぱ頭、丸メガネまでかけていて、ほとんど顔も見えないのだが。



「ターク、コルニスは見たことないかな? アーシラの森の調査を手伝ってもらった時はいなかったもんね」


「そうだな」


「彼は、ポルールに駆り出されていた、僕の隊の治癒魔道士の一人だよ」


「なるほど。カミルは手がかかるだろう。面倒だろうがよろしく頼む」



 私がそう言うと、コルニスは丸いメガネをキラリと光らせ、声を張り上げた。



「お任せください! 大剣士様! カミル隊長は自分が命に変えてもお守りします!」


「お、おぅ……。お前も命は大事にな」



 少し面食らったが、彼はなかなか気合が入っているようだ。これならカミルを任せておいても、大丈夫かもしれない。



「まぁ、イーヴ先生は砦の外で戦ってくれてるし、砦が破られない限り平気だけどね。出番もないし、僕は魔導砲を撃ってるよ」


「分かった。お前はケガするから、砦から出るなよ」


「コルニスが居るから、即死しなければ平気だよ?」


「馬鹿なこと言わずに気をつけろ」


「はいはい」



 ――こいつ、やっぱり心配だな。



      △



 呑気そうな顔をしているカミルに、「本当に出てくるなよ」と念を押し、私は砦の屋上に登った。


 砦の向こう側には確かに、赤く燃える魔物がうようよと集まっている。


 イーヴ先生がそれを、空からライトニングソードで丸焦げにしていた。



 ――魔物が可哀想だな。



 つい今朝方、ミヤコに丸焦げにされたばかりだった私は、炭になった指の砕けた感覚を思い出し、ブルブルと身震いした。


 風の精霊の力で空を飛び、雷の微精霊の力で魔道剣を出現させるイーヴ先生は、ガルベル様の言葉を借りれば「浮気者」だ。


 精霊達は本来嫉妬(しっと)深く、一人の人間が複数の属性を操ろうとすると、反発しあってしまう。


 だが、イーヴ先生の場合、その威力は落ちるどころか、上がっているように見えた。


 精霊達は、彼が多くを同時に愛し、また、愛されていることを、完全に容認しているのだ。



 ――自身のあふれる魅力一つで、精霊達を納得させてしまうんだからな。やはり、私の師匠は尋常じんじょうじゃない。



 そんなことを考えながら、稲光をあげるイーヴ先生を眺めていると、彼は手を止め、私の元にやってきた。


 カミルに着せられたという毛皮のコートを羽織っているが、風に包まれた先生は、随分(ずいぶん)寒そうに見える。



「ターク、お前には知らせないつもりだったんだが、来てしまったんだな」


「ガルベル様に言われてきました。僕も騎士団の一員なんで、ちゃんと連絡下さいよ」


「すまなかった。だが、あのモヤは危険だ。ガルベル様に何と言われたか知らないが、あの中には入るなよ」


「周辺から回収するつもりなので大丈夫です。気遣いありがとうございます」



 そう返事した私を、苦虫を噛みつぶしたような顔で見ているイーヴ先生。彼は私を、よほどモヤに近づけたくなかったようだ。



「本当に一人で登るつもりか? 私が途中まで、送ってやろうか?」


「大丈夫ですよ。先生はここをお願いします」


「そうだ、分かった。ウィンドクイックをかけてやろう」


「寒そうなんで、大丈夫です」


「う、そうか。確かにな、飛んでると寒くて仕方ないぞ!」



 まるで、小さな子供を水辺で遊ばせる母親のような顔で、私を心配するイーヴ先生。


 英雄になった今でも、私への子ども扱いは変わらないようだ。


 苦笑いする私に彼は、「そうだ、これを持って行け」と言いながら、金の歯車が回るペンダントを差し出した。



 ――また父のペンダントか? もう三つ目なんだが……。


 ――先生も父さんも、いったい、どれだけ私が心配なんだ。



 心で文句を言いながらも、私は先生に渡されたペンダントを首に引っかけた。幸運が訪れ、物理攻撃力が上がるらしい。


 ありがたいとは思うが、首がじゃらじゃらだ。


 美しい顔を鼻水で汚しながら、「気をつけていけ」と言う先生に敬礼する。



「任せてください。闇のモヤを回収し、モヤを出している精霊を……」


 ――ん? 精霊を、どうしたら……良いんだ……?



 ここまで来てから気づいたが、私は、モヤを回収した後のことを、深く考えていなかった。


 ガルベル様から、「落ち着くように言ってきてちょうだい」と、さも簡単そうに頼まれ、ベッドを持って行けとか、無茶むちゃを言われたせいか、そちらに気を取られてしまっていたようだ。


 前回のポルールでは、ベッドに溜まっていた光の魔力を解放したことで、諸々(もろもろ)全て浄化された。しかし今回は、私が直接、闇に堕ちた精霊を浄化しなくてはいけないのだろうか。



 ――いったい、何日かかるんだ? こんなことなら、ミヤコにキスしてから来ればよかった。



「どうした? ターク」


「なんでもありません。……行ってきます」


 砦の上から飛び降りた私は、白く立ちはだかるセヒマラ雪山に向かい、真っ直ぐに走りはじめた。



レムスルドラでカミルに出迎えられたターク様は、カミルを守る気満々の治癒魔法師コルニスの存在に少し安堵しながら砦を目指します。達也とカミル、さらにイーヴ先生にまでお父さんからのペンダントを渡され、宮子の心配が詰まった大きなバッグも背負って、ターク様は走り出しました。


次回は14章最終話です。

第14章第14話 雪山登山。~あるといいもんだな~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] ターク様はいよいよ雪山へ! カミルもいればアグスさんも息子の為にアイテムを! そしてイーヴ様まで! ターク様!頑張れ(ノ´▽`)ノ♪
[良い点] みんなに心配されすぎてて面白かったです( *´艸`) みんなペンダントを渡したがりたがって過保護さんたちばかりですね!笑笑 次話も楽しみです(=´∀`)
[良い点] 首輪いっぱいターク様、なかなか面白い絵面ですね。良いと思います!そして新キャラのコルニス様にあいも変わらず浮気者の先生といい、登場人物たちの魅力がふんだんに盛り込まれていました。 [一言]…
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