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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第14章 冬の到来

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12 シェンガイトを取りに。~どこがフワフワなんだ?~

 場所:ポルール

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 ミヤコにしばしの別れを告げ、屋敷を出た私、ターク・メルローズは、転送ゲートをくぐり、ポルールに来ていた。


 父が新たに集めたと言う、シェンガイトを受け取るためだ。


 父の第二研究室の前まで来ると、タツヤとミレーヌの会話が聞こえてきた。



「タツヤさん、私もガルベル様の小屋へついて行きます!」


「ミレーヌちゃん、お願いだよ。僕の代わりに、アグスさんを見ていて欲しいんだ。今はカミルちゃんもいないし、彼、一人にすると心配だからね」


「確かに、アグス様は心配ですけど……」



 不満げな声を出すミレーヌを、タツヤがなだめている。


 いまだ父は、周囲から心配に見えるらしい。



 ――タツヤがこんなに父さんをしたっていたとはな……。



 そう思いながら、開いていた扉をくぐり、私が顔をのぞかせると、タツヤがハッとしたようにこちらを振り返った。



 ――なんだ? 本当は、ミヤコと二人になりたいだけか?



 部屋の真ん中には、乱雑に書類や魔道具が置かれた、大きな研究机があり、その周りには、小さな丸い椅子が、いくつか並べられていた。


 私は、タツヤの態度に少しイラッとしながら、椅子の一つに腰掛けた。



「まさか、お前まで魔術の訓練を受けるなんてな。何のつもりだ。日本へ帰るのはやめたのか?」


 私がそうたずねると、タツヤは飄々(ひょうひょう)とした顔でこう答えた。


「そんなわけないだろ。異世界転送ゲートの研究をするなら、大魔導師様のありがたい話を聞くチャンスを、逃すわけにいかないってだけだよ」


「なるほどな」



 そう言いながら、私はチラッとタツヤのステータスを盗み見た。



 ――魔法魔法って、タツヤに魔力なんかあったのか?


 ――何!? 千四百!?



 目を見開いた私を見て、タツヤが得意げな顔をする。



「研究してたらどんどん上がっちゃってさ。あれ? もしかして僕、ターク君の最大魔力、抜いちゃったかな?」


「バ、バカを言うな。私の最大魔力は今、千六百だ……」


「あー、本当だ。でも、訓練したら勝っちゃいそうだよね?」


「ふ……ん。私には魔力なんて、大して必要ないからな。私の強みは、ちからだ」


「ふーん、ターク君って、ちょっと、脳筋のうきんだもんね」


「なんだ? それ、どう言う意味だ!?」



 意味はわからないが、確実に悪口を言われたのを感じ、私はムキになってガタっと立ち上がった。


 しかし、ミレーヌの顔色が変わったのを見て、動いた椅子の位置を確認し、座り直す。



 ――くそ、タツヤ、何てムカつく顔なんだ。恩人なのに。



 ミヤコがタツヤのことを、「フワフワの子犬みたいな、やさしい男の子なんです」とか言っていたが、多分それは、ミヤコの前だけだ。


 こいつはどことなく、わりと意地が悪いし、少なくとも私よりは色々と、自分の利害りがいを考えて行動しているように見える。



「まぁいい。私は急いでいる。早くシェンガイトを持ってきてくれ」


「せっかく来たのに、ゼーニジリアスを見ていかなくていいの?」


「あいつか……。大して興味もないが、見るくらいは見てやろう」



      △



 ゼーニジリアスの入った透明のカプセルは、研究室の、さらに奥の部屋にあった。


 カプセルの上下には、いくつかのメロウムが埋め込まれている。



 ――わ。少し気分が悪いな。



 カプセルの中で、ぐったりしている男をながめながら、泥に沈み、死を覚悟した瞬間を思い出し、ゲンナリと気分が沈む。



 ――今はあんな状況では死ねない。死ぬのはミヤコと結婚してからだ。


 ――いや、ミヤコが悲しむといけない。ミヤコが死ぬまでは死ねない。


 ――だが、それだと、私が寂しいんじゃないか?



 自分が不死身だということを忘れ、いつ死ぬのがいいか考えるなんて、私は随分ずいぶんおめでたい。



「こいつ、結局何者なんだ? 未だに口を割らないのか?」



 私が気を取り直してたずねると、タツヤはウンザリしたような顔をした。



「ぜんぜんダメ。アグスさんがあの手この手で素性を吐かせようとしてるんだけど。何にも言わないよ」


「随分口がかたいな」


「アクレアが言うには、最初はニジルって名乗ってたらしいんだよね。それで、ルカラ湖のほとりに屋敷を建てようとしてたって」


「ニジル……? そう言えば、ファシリアがそんなふうに呼んでいたな。いや……もっと前に、どこかでその名を聞いたような……」


「え? 本当に!? 思い出して!?」


「いや、何だったかな」


「もう、何だよ……」



 タツヤが、「何だよ」の後に、小さく「脳筋」とつぶやいた気がして、私はまた、イラッとするのを感じながらその場を離れた。



      △




「もう行く。シェンガイトはどこだ」


「これだよ。すごい高級品だから、失くさないように気をつけてね」



 タツヤはそう言って、沢山の細かいシェンガイトの粒が入ったケースを私に渡した。



「少しずつこのケースから取り出して、闇を吸ったら、すぐこっちの封印ケースに入れて。あんまりまとめて入れないで、小分けにしてね」


「なんだ? 面倒だな」


「ファシリアから聞いた話だと、闇の魔力があんまり集まると、良くないものが寄ってくるらしいからね」


「うん?」


「闇の大精霊の呪いだよ。要するに、精霊の秘宝になっちゃうってこと」


「それは、もっと面倒だな。分かった。気をつけるよ」



 私はシェンガイトと封印ケースを、背負っていた大きなバッグに入れた。


 ミヤコに色々持たされ、バッグにあまり隙がない。



「ずいぶん大荷物だね」


「あぁ。ミヤコの心配が詰まってる」


「ふぅん。あ、そうだ。これを持って行ってよ」



 タツヤが私に手渡したのは、金の歯車が回る、小さな魔道具がついたペンダントだった。


 自分と同じ顔の男からアクセサリーを渡され、思わず口元を引きらせたが、タツヤはまるで、いつも通りだ。



「なんだ?」


「モヤに近づくなら、その鎧は脱いだ方がいいだろ。だから、状態異常を防ぐペンダントだよ」


「おぉ。なるほど。助かるよ」


「メロウムの拘束にも多少効果あるよ。だけど、あれには気をつけて」


「あぁ……随分やさしいな」


「当然だろ。君に何かあったら、みやちゃんが泣くからね」


「なるほど……徹底してるな」


「でもそれはアグスさんからだよ。言うなって言われたけどね」


「まぁ……見たらわかるんだがな」


「剣もこっち使えってさ。光転送しないやつ」


「おぉ……」



 私はペンダントと大剣を受け取ると、室内をキョロキョロと見回した。



「それで、父さんはどうしたんだ? 姿が見えないな」


「アグスさんは、疲れたみたいでね、今寝ちゃってるよ。君がくるのを楽しみにしすぎたんじゃない?」


「うん……? なんだそれ、大丈夫なのか?」


「無理する人だから、心配ではあるけど、まぁ、今は大丈夫だよ」


「……そうか。ミレーヌ、すまないが、私からもよろしく頼む」


「うーん、分かりました! 任せてください!」



 さっきは不満そうにしていたミレーヌだったが、私が頼むと、やさしい顔でにっこり笑ってくれた。



「タツヤ、信じてるぞ……」


「何のことかな」


 ――こいつ、本当に、どこがフワフワなんだ?



 眉をひそめてタツヤを軽くにらみ、私は研究室を出た。



「さむっ」



 真冬のポルールは氷点下二十度だ。


 しかし、これから登るセヒマラ雪山は、氷点下六十度だと言う。


 ミヤコに着せられた毛皮のマントを深く羽織り、私はまた、転送ゲートをくぐった。



 シェンガイトを受け取るため第二研究室に出向いたターク様。アグスさんが用意してくれていた新しい装備を手に、宮子と二人になりたがっている様子の達也に不安を感じつつ雪山を目指します。そして、捕まって以来一年自分の身元を明かさなかったゼーニジリアスの正体とは……。


次回、第14章第13話 走り出したターク。~何日かかるんだ?~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] これはターク様と達也の仲が中々悪いですなぁ。 二人ともみやこの事だけを考えてるライバル的なもの。 これからがめっちゃ気になります(ノ´▽`)ノ♪
[良い点] いろいろ言いたいことはありますが……。 やっぱりさむかったんかーい(・Д・)笑 ってなりました。 Twitterでのイラストの3人絵(ターク様、達也、宮子)は微笑ましいのにターク様と達也…
[良い点] 達也の本性、面白いですね。やはり、登場人物たちの言動、面白さの切れ味が増しています。ゼーニジリアス関係の謎も良いスパイスですね。 [一言] ミレーヌもなんか大変そうですね。何がとは言いませ…
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