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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第14章 冬の到来

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11 二人の出発準備。~あたたかくして行ってください~

 場所:タークの屋敷

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



「あぁ、やっぱり、もっと、暖かい服はありませんか? 手袋、二重にしませんか?」



 その夜、すぐに雪山へ出発すると言うターク様を引き止めた私は、彼のクローゼットをひっくり返していた。


 いつものマントで大丈夫だと言うターク様に、フカフカの毛皮のマントを羽織らせ、モコモコの帽子をかぶせながらも、まだまだ心配が止まらない。



 ――どうしてこんなに、薄い服ばかりなの?



 だいたいいつも黒い鎧姿の彼。そんな彼のクローゼットは、何着か貴族っぽい服はあるものの、ほとんどが薄手のシャツばかりだった。


「もっと、セーターとか、耳当てとか、防寒着っぽい服は無いんですか? 私、今からでも買いに行ってきます」



 オロオロしながらクローゼットを飛び出そうとする私の腕を、ターク様がつかむ。



「ミヤコ、そんなに心配しなくても大丈夫だ。私は不死身だからな」


「だけど、登山は準備が大事なんですよ? 手ぶらで行こうなんて、めすぎじゃないですか?」


「しかしな、あまりグズグズする訳には……」


「もう少しだけ待ってください!」



 私が出した大きな声に、ターク様はおどろいたように眉を上げ、少し身を引いた。



 ――もう、ターク様。不死身だからって、適当すぎますよ?



 ガルベルさんが言っていた通りなら、セヒマラ雪山(せつざん)の気温は氷点下六十度だ。


 ターク様は大丈夫だと言うけれど、私は彼が、冷やせば普通に冷たくなるということを知っている。


 引きとめずこのまま行かせれば、生きたままカチンコチンに凍り付いて、氷像になってしまう気がしたのだ。




 ――そういえばターク様、相変わらず、お屋敷の外ではあまり眠れないみたいだけど、大丈夫かな?



 この一年、ターク様は部屋で寝ることの方が少ないくらい、外泊が多かった。


 それと言うのも、新しく王様から与えられた領地に転送ゲートがなく、移動に時間がかかってしまうからだ。


 何日か外泊して帰って来たターク様は、だいたいいつも、フラフラになっていた。


 ガルベルさんのかけた暗示が解けたとはいえ、ターク様は元々、不眠症なのだ。


「ターク様、こんな時間から行って、雪山でいったい、どうやって寝るつもりですか?」


「一日二日寝なくても何とかなる。最高で十五日寝なかったこともあるしな。魔物もいるし、寝る方が危ないだろ」


「そ、そんな過酷かこくな……」


「それに、ポルールだって、真冬は氷点下だぞ。動いていれば、意外と大丈夫だ」


「おかしいです。どうしてそんなに平気そうなんですか? ちょっと、私には理解できませんね……。せめてこれを持って行ってください」



 私が自分の部屋から持ってきたのは、この世界に来た日、達也を探しに山に登った時、背負っていたリュックだ。



「リュックに水筒が入ってたので、温かいお茶を入れておきました! 飲み方は、ふたをコップにして、こうですよ? こう! 聞いてますか?」


「ふむ……聞いてるぞ……」


「あ、保温シートもありますよ。疲れた時、雪の上に直接座るよりは、これを敷いた方が温かいはずです。おやつや非常食も入ってますし……念のためにと思って、お鍋なんかも……」


 そう言いながら、リュックから取り出した登山グッズを、次々にターク様のバッグに詰める私。



「ミヤコ、もう本当に行かないと……」



 パンパンになっていくバッグを眺めて、困った顔をするターク様。「めんどうだな」と思われているのが、ひしひしと伝わってくる。



「あっ、待ってください。もしかして、モヤの中にまた、メロウムを持った闇魔導師がいるんじゃ……」



 メロウムは、精霊の力を持つ者を強力に拘束こうそくする、あの緑の石の名前だ。


 もし、一人で行って、またターク様が動けなくなったらと思うと、もう、不安で仕方がない。


 私が青い顔でオロオロするのを見て、ターク様は私を抱き寄せた。



「まぁ、無いとは言い切れないが、気をつけるよ」


「やっぱり誰か、ついて行ってもらった方が……」


「いや、あのモヤに近づいて平気なのは私くらいだ。必ず無事に帰るから、そんな顔をするなよ。離れたくなくなるだろ」


「わ、分かりました」



 ターク様に耳元でささやかれ、ドキーンと胸がった私。


 だけど、魔力が殆どなくなった体からは、ラストリカバリーは発動しなかった。



 ――そうだ、もし、今プロポーズされたらどうしよう? 体は元に戻ったし……。


 ――結婚は、日本にいる両親に承諾しょうだくしてもらわないといけない、なんて言ったら、ターク様怒るかな。



 だけど、ターク様は、すぐに私を抱いていた腕を離した。



「さぁ、本当にもう行くぞ。砦がこわれると厄介だ」


「は、はい。本当に、本当に、気をつけて行ってきてくださいね」


「あぁ、お前も、あまり危険な真似まねはするなよ」


「分かりました」


「お前も色々と、自分の準備があるだろう。見送りはいらない。行ってくるよ」


「あ、は、はい……。ターク様……」


 ターク様は私の頭をぽんぽんとなで、ほんの少し微笑ほほえみを浮かべると、荷物を背負って部屋を出て行ってしまった。



 ――いつもなら、出かける前にはキスしてくれるのに。


 ――やっぱり、電撃剣ライトニングソードのこと、怒ってるのかな?



 最近、グイグイせまられすぎたせいか、ターク様のあっさりとした態度に、急激に不安になる私。


 ふと気になって、クローゼットの姿見すがたみで、あらためて自分の姿を確認してみると、なんだか少し、いつもより肌のつやが悪い気がする。



 ――ターク様の光で、いつもお肌ツヤツヤだっだからな……。


 ――あ、よく見るとこんなところに、子供の頃作った傷跡きずあとが……。



 少し懐かしい自分の体。目立つ程ではないけれど、ヒールでは治らない古傷ふるきずが、左耳の横に残っている。


 向こう水な行動をして、ヘマをしてしまった、これは言わば「おバカの勲章」だ。



 ――ま、まさか、こっちの体が気に入らないとか……?



 ……なんて、思ってみたりもしたけれど、よく考えると、ターク様は元々、強い責任感を持った仕事人間だ。


 お仕事モードに入った彼は、私なんて、眼中がんちゅうにないのだ。



 ――引き止めて、悪いことしちゃった。


 ――あぁ……ターク様。どうかご無事で!



 手を合わせ、しばらく神頼みをした私は、ひっくり返したクローゼットを片付け、メイド用の自分の部屋に戻った。


 部屋中が、ターク様にもらった、バラの香りに包まれている。



 ――良い香り。


 ――このお花、お手入れをサーラさんにお願いしないと。



 明日から私は、ガルベルさんの小屋で、達也と一緒に魔法の訓練をするのだ。



 ――これ以上、ターク様に迷惑はかけられない。


 ――魔力が上がってしまう前に、魔法の正しい使い方を覚えておかないとね。


 ――着替えと、本と……あと、何がいるかな?



 空になったリュックに、詰められるだけ荷物を詰めた私は、明日にそなえ、眠りについた。


 いつもの姿で雪山に出かけようとするターク様を呼び止め、登山グッズっを持たせようとする宮子。ターク様は一応受け取ってくれたものの、お出かけ前のキスもせず、急いで出かけてしまいました。そして、それぞれ別の場所で頑張ることになった二人は、それぞれの厄災に見舞われます……。


 次回、第14章第12話 シェンガイトを取りに。~どこがフワフワなんだ?~をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] これは二人にとっての試練になるのでしょうか!? みやこもターク様もお互いを信じて進む事でしょう! 楽しい展開にワクワクです(ノ´▽`)ノ♪
[良い点] イチャイチャなシーンでとても良かったと思います(^^)♡ 微笑ましかったです。 宮子はどうしても心配なんですね。 送り出す方は心配になってしまいますよねぇ。 続きも楽しみです♡
[良い点] また、ターク様が準備不足で失敗するフリに見えてしまいました。しかしきっと彼も激闘を乗り越えきたのだから、うまくやれるはずとも思いつつ。先行きがとても楽しみな面白い場面でした。 [一言] 宮…
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