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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第14章 冬の到来

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166/247

10 闇に沈むセヒマラ雪山2~ガルベルのむちゃぶり~

 場所:タークの屋敷

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



隣国りんこくとは、平和条約を結んでるって話なのに、向こうから攻められてばかりなんですね」



 達也が不思議そうに首をかしげると、ガルベルさんは、大きなため息をついて言った。



「えぇ、一応ね、何度かつかいを送ってクラスタルに文句を言ったんだけどね? 精霊の厄災は自然災害みたいなものだから、責任取れないって追い返されてくるのよ」



 クラスタルというのは、ベルガノン王国の北側に位置する隣国だ。


 今から二十二年前、ベルガノンを侵略しようと、軍隊を送り込んできたクラスタル。


 一年続いた戦争の末、ガルベルさん達がそれを食い止めた頃、当時の王が亡くなった。そして、第一皇子だったノーデス殿下が新しい王となり、平和条約が結ばれたという。


 ノーデス王は、とてもベルガノンに友好的で、それ以降両国は、それなりに仲良くやってきたらしい。


 だけど、クラスタルの領地であるルカラから、ポルールに魔獣が押し寄せ、魔獣をけしかけていた闇魔道士の大半が、クラスタルの国民だったこともあり、両国の関係は、随分悪化してしまったようだった。



「あちら側の領地じゃ、私達には管理しきれないのに。もっと、気をつけて欲しいものだわ」



 ポルールの一件以来、精霊が起こす厄災を未然みぜんに防ぐため、日頃から精霊達の多い地域を巡回し、知り合いの精霊を訪ねては、その様子を見守っているというガルベルさん。


 だけど、隣国の雪山のことまでは、彼女も手が回らないようだ。



「やっぱり、また、精霊が闇に堕ちたんでしょうか?」


「そうね、雪山を守っていた、氷の精霊が闇に堕ちたってことなのかしらね」



 ガルベルさんがそう言うと、ライルが首を傾げて言った。



「だけど、いてくる魔物たち、炎属性なんだよね。みんな、燃えてるし、火を吐いてくるんだよ……? 変だよね、雪山なのに」


「えぇ?」


「それにね、寒すぎてお魚が凍ってるんだよ。僕、もうあそこには行きたくないな」



 ガルベルさんに様子を見てこいと言われたらしいライルが、不満そうにぼやいている。


 寒がりの猫ちゃんを雪山に送るなんて、やっぱりガルベルさんは、なかなかにひどい。



 ――それにしても、雪山で燃える魔物かぁ……。


 ――今度は、氷の精霊と、火の精霊の痴話喧嘩ちわげんかかな……?



 私がそんなことを考えていると、ガルベルさんが、くるっとターク様に向き直って言った。



「とにかく、まかせたわよ、タッ君。魔物を吐き出す闇のモヤを回収して、雪山を燃やしてる精霊に、落ち着くように言ってきてちょうだい」



 突然、重大事件の全てを任されたターク様は、「え?」と、戸惑ったように聞き返した。


 砦の防衛に呼ばれなかったことを不満げにしていた彼だけれど、まさか精霊の闇を沈めてこいと言われるとは、少しも思っていなかったようだ。


 そんな彼に、ガルベルさんは「何をおどろいてるのかしら?」と、言いたそうな顔をしている。



「だって、私、この子達の訓練で忙しいし。それにね、今って、真冬なのよ? あそこ、氷点下六十度よ? お肌が乾燥しちゃうわ」


「はぁ……」


「あーぁ、そう言えば私、さっき、凄く魔力使っちゃったのよね。どうしてだったかしら?」



 私の降らせた電撃剣ライトニングソードから彼の街を救った件を持ち出して、得意げな顔でターク様を見つめるガルベルさん。


 ターク様は少し体をこわばらせながらも「それは、本当に感謝してます」と、改めて丁寧にお礼を言った。



「そうよね? それじゃ、この件はあなたにまかせたわ。とりあえず、あなたのベッドを持って行って、雪山の頂上に置いてくればいいんじゃないかしら」



 ガルベルさんにそう言われ、ターク様はまた「え?」と、つぶやいてかたまった。



 ――ものすごい無茶振り。どうしよう、私のせいだわ……。


 ――いくらターク様が力持ちでも、あんな大きなベッドをかついで、一人で魔物だらけの雪山を登れだなんて……!



 私が口をパクパクさせていると、声の出ない私達の代わりに、達也が立ち上がった。



「ちょっと待ってください。あのベッドを精霊の闇に放り込むなんて、絶対ダメです。メンテナンスが出来なくなるじゃないですか! それに、闇の魔力が集まりすぎて危険ですよ」


「そ、そうですよ。あのベッドが無いと、ターク様が不眠症になってしまいますよ」



 達也の勢いに便乗びんじょうし、私も頑張って声をあげてみたけれど、ガルベルさんは不満そうに顔をしかめた。



「じゃぁどうするのよ? のんびりしてると砦が破られちゃうわよ」


「アグスさんが、この一年で新たに集めた、シェンガイトで回収しましょう。どこかで闇の魔力を集めたいと言っていたところなんです」


「それもそうね。それで回収しきれるなら、ぜひそうしてちょうだい。頼んだわよ。タッ君」


「分かりました。行ってきます」



 達也の提案で少しホッとしたのか、ガルベルさんの無茶振りを引き受けてしまったターク様。だけど、一人で真冬の雪山に登り、モヤを吐き出す精霊を見つけ出して鎮めてくるなんて、普通に考えてとても大変そうだ。



 ――まさか、私の落としたライトニングソードのせいで、ターク様がガルベルさんの言いなりになってしまうなんて……。


 ――もしかして、魔法合宿に賛成したのもそのせいですか?



 戸惑いながらも、フラフラと立ち上がった私。



「待ってください、ターク様一人でなんて、危険すぎます。わ、私も行きます!」



 力強くそう叫んでみたけれど、魔力をほとんどど失った私が、ターク様の役に立つはずもなかった。



「絶対ダメだよ」


「ミヤコは、魔法の訓練があるだろ」



 そっくりな二人から、口々に止められ、私がしょんぼりとソファーに座ると、ターク様は、すっくと立ち上がった。



「じゃぁ、砦が心配なので早速行ってきます。行くぞ、タツヤ。シェンガイトを用意してくれ」


「ちょっと、待ってください! そんな恰好かっこうで雪山に登ったら、死にますよ!?」



 私はとっさにそう叫んで、出発しようとするターク様の腕をつかんだ。


 ターク様はそんな私を驚いた顔で見下ろすと、「え?」と、小さくつぶやいたのだった。



平和条約を結び、友好的なはずの隣国から魔物が押し寄せるという事態が続き、不穏ふおんな空気が流れ始めたベルガノン。ガルベルの無茶ぶりでターク様は一人真冬の雪山を登ることに。宮子は自分を責めつつも何もすることが出来ません。


次回、第14章第11話 二人の出発準備。~あたたかくして行ってください~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] これはターク様が一人で雪山を登ることに? みやこは、どうする!? つ、続きを(ノ´▽`)ノ♪
[良い点] ターク様、薄着でお出かけ!?笑 ちょっと最後にクスリとしました。 でも、それでも耐えられるのでしょうか。 ターク様なら(*'ω'*) 次話も楽しみにしています♪
[良い点] ターク様は無茶振りに耐性ありそうだから、読んでいて私はうん、頑張ってね、と思ってしまいました。ガルベル様は説明足りないだけで賢そうですものね。新しい事件の展開が楽しみです。 [一言] 大丈…
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