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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第14章 冬の到来

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09 闇に沈むセヒマラ雪山1~新たな災厄~

 場所:タークの屋敷

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 ――山で合宿!? 嫌な予感しかしない!



 不安に身をすくませた私を見て、ガルベルさんはため息をついて言った。



「もちろん合宿よ。未知だって言ったでしょ? 街中まちなかで出来ないわよ。あと、拒否権は無いわ。そうね、明日の朝迎えにくるから、準備しておいてね」



 ――えぇっ!? 明日!?



 色々と困惑している私をよそに、「よろしくお願いします」と、頭を下げる達也。


 日本へ帰るため、ゲートを研究している達也が、魔法の訓練にやる気を出すなんて、とても意外だ。


 あらためてターク様を振り返ると、彼はコホンと、咳払いして言った。



「ミヤコ、確かに少し、訓練は必要かもしれないぞ。魔法を習うなら、先生はガルベル様が一番だ」


「そうよ。でも、そんなに気を張る必要はないわ。魔法をコントロールするための、簡単なイメージトレーニングだから」



 ターク様にも背中を押されてしまい、仕方なく小さくうなずく私。



「ガルベル様、ミヤコをお願いします」


「よ、よろしくお願いします」



 立ち上がり頭を下げるターク様を見て、私もあわてて立ち上がり、頭を下げた。



「まかせて。安心して街で過ごせるようにしてあげるわ」



 そう言って、威厳たっぷりに頷くガルベルさん。


 最近、歴史の本を読んで知ったのだけれど、彼女は本当に、この国で一番の大魔道師だ。


 彼女は過去に、周辺諸国からのベルガノンへの侵略しんりゃくを、その魔力と指導力で、何度も何度も食い止めている。


 今ベルガノンが平和なのは、この人のおかげと言っても過言ではないのだ。


 少し困った所のある人だけれど、こんなすごい人に魔法を習えるなんて、よく考えると、幸運なことなのかもしれない。


 ターク様が賛成なら、尻込みするわけにはいかないだろう。



 覚悟を決めた私が、またソファーに座ると、いつからそこに居たのか、黒猫姿のライルがひざの上に飛び乗ってきた。



「わ。ライル! 元気だった?」



 そう言って彼の頭をなでると、ライルは気持ちよさそうに目を細めた。



 ――かわいい。あごの下も触っていい?



 私がライルの顎の下を、くすぐるかどうかで悩んでいると、ガルベルさんが神妙しんみょうな声で言った。



「見てきたのね? ライル。それで、どうだったの?」


「うーん、イーヴと山の上を飛んでみたけど、結構モヤが濃くなってきてるからね。頂上の辺りはよく見えないよ」


「モヤって……。何かあったんですか?」


「なんかね、また精霊の厄災が起こってるのよね。イーヴが、タークは休ませておきたいって、うるさいから黙ってたんだけど」


「えぇ……!? 言ってくださいよ」


「言うつもりだったわよ。今からね」



 ガルベルさんの言葉に、眉をひそめたターク様。



 ――精霊の厄災って、あれよね……?



 闇のモヤに包まれ、真っ黒になったルカラを思い出すと、不安が胸に押し寄せてくる。達也とミレーヌも、緊張した様子で姿勢を正し、座り直した。



「魔物も湧いてきてね、雪山の頂上付近から、どんどん下りてきてるんだよね」


「わ、それって、一大事なんじゃ……」


「そうなんだよ。でも、前みたいに大きな魔獣じゃないから、砦は今のところ大丈夫だよ。イーヴの第一騎士団が出動してるしね」


「いや、それでなぜ私が呼ばれないんだ……」


「イーヴは何より君が大事みたいだね」


「困った先生だな」


「まぁ、今はカミルの第三防衛隊も出動してるし……」


「カミルが……? 雪山って、どこの雪山だ?」



 自分だけ状況を知らされていなかったことに、不愉快そうな声を出していたターク様。カミルさんが現地にいると聞き、さらに、こわばった顔をした。


 ターク様は相変わらず、カミルさんが心配のようだ。



「えーっとね……」



 ガルベルさんは、ローブの中から取り出した巻物状の地図を、テーブルに広げた。


 そのセヒマラ雪山は、ルカラ湖と同じく、隣国クラスタルとの境の、クラスタル側にあった。


 そして、その山のふもと、クラスタルとの国境の上には、長い長い第三砦がある。


 さらに、砦の手前には、ポルールよりもひと回り大きい、レムスルドラと呼ばれる街があるようだった。


 もし、この第三砦が破壊されるようなことがあれば、レムスルドラは、第二のポルールとなってしまうだろう。



「クラスタルとは、平和条約を結んでるって話なのに、向こうから攻められてばかりなんですね」



 ガルベルさんの説明を聞いて、達也が不思議そうに首をかしげた。


 確かに、前回も今回も、厄災はクラスタルの領土から始まり、魔物達は、ベルガノンの砦を壊しにくる。


 これは本当に、たまたまなのだろうか。


 昨年捕まえたゼーニジリアスは、アグスさん達の質問攻めにも屈せず、いまだに自分の素性も、納得のいく動機も、何一つ話そうとしなかった。



「なんだか、嫌な感じですね」と、ターク様が緊張した声を出すと、「本当にね」と、ガルベルさんが不満そうに答え、客室は重い空気に包まれた。



ターク様に背中を押され、ガルベルさんの山小屋合宿への参加を決意した宮子。そこにライルがやってきて、とある雪山で起こっている新たな厄災の話が持ち上がります。一人呼ばれていなかったターク様は不満げな様子です。そして、隣国から国境の砦を壊しに来る、精霊の厄災の原因は……?


次回、第14章第9話 闇に沈むセヒマラ雪山2~ガルベルのむちゃぶり~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 雪山で起こってる怪しげななにか。 みやこ達は大丈夫なのか!? これは気になります…>_<…
[良い点] 次から次へと災難は降り注ぎますね(>_<) 楽しみにしていた合宿がお預けになってしまいました……。 でも、次話も楽しみにしています♡
[良い点] ガルベル様の偉業からの隣国クラスタルとの不穏な政情。とても楽しい展開でした。イーヴ先生の溺愛も一貫して相変わらず凄まじいのですね。微笑ましかったです。 [一言] ガルベル先生の「言うつもり…
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