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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第14章 冬の到来

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08 覚悟しててね!~どら焼きと魔法合宿~

 場所:タークの屋敷(客室)

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 私、小鳥遊(たかなし)宮子が、ターク様を連れ客室に戻ると、ガルベルさん、達也、ミレーヌの三人は、楽しそうにお菓子を囲んで談笑だんしょうしていた。



 ――こ、これは!



 こんがり焼き上がった皮に、たっぷりと詰められたあんによって、ぷっくりと盛り上がった可愛らしいフォルム。


 甘くて懐かしい香りが鼻をくすぐる。


 ソファーテーブルの上に並べられていたのは、なんと、どら焼きだった。



「達也、すごい!」



 私はパタパタとテーブルに駆け寄り、そこに手をついて瞳をかがやかせた。



「みやちゃん、やっときた! 君の好きなの、作ってきたよ」



 そう言って、いつものように、フワフワと笑う達也。こんな異世界に居ても、彼が笑っているところを見ると、日本にいるみたいにホッとしてしまう。



「わー! 美味しそう。ありがとう。大好物だよ!」


「前にみやちゃんが、そこの庭に生やした豆で作ったんだよ」


「えっ!? あんな種類もよくわからない豆で?」


「皮をむていてみたら、見た感じ小豆あずきっぽかったからさ。味も結構似てるんだ」


「すごい! 達也、流石だね」



 そう言って、ようやくソファーに座った私に、「早く食べてみて?」と、ニコニコの笑顔を振りまく達也。



 ――あいかわらず、達也は可愛い!



 いけないと思っていても、ターク様と同じ顔でフワフワされると、ついつい顔が緩んでしまう。



「ターク様、これ、どら焼きって言うんです。日本で人気の、和菓子ですよ」



 となりに座ったターク様に、どら焼きを紹介する私。彼に日本の文化を知ってもらえるのは、何だかとても嬉しかった。



「和菓子……大福の仲間か?」


「そうです! 大福の説明、覚えてくれてたんですね! 流石です、ターク様!」


「まぁな……」


「わ、美味しい! 甘さひかえめですよ」



 私にうながされ、どら焼きを口に運ぶターク様。



「うん……うまい」


「あー、幸せ!」



 テンションが上がった私を見て、達也はまたニコニコしている。彼は本当に、器用で頭が良くて、何でもできてしまう。



 ――異世界にきて、まさか、どら焼きが食べられるなんて!



 そのあまりの美味しさに、「達也、やっぱり天才なの?」と、目をかがやかせた私に、「たまたまだよ」と、余裕よゆうな顔をする達也。


 そんな達也をチラリと見て、「タツヤさん、とても熱心に研究されてましたよ?」と、裏情報をらしてしまうミレーヌ。


 彼女は失敗作のどら焼きを、そうとう食べさせられたらしい。



「ミレーヌちゃん、言わないでって言ったのに……」



 ガクッと肩を落としてしまった達也を見て、私も少し、申し訳ない気分になった。



 ――そ、そうよね。材料も道具も何もかも違うし、レシピだってないのに、いくら達也でも、簡単なはずないよね。


「達也、本当に、ありがとう。懐かしい気分になれたよ」



 そう言った私に、うつむいていた顔を上げ、達也はめずらしく、ニヤリと笑った。



「ふふふ。みやちゃん、そろそろ日本に帰りたくなったかな?」


「た、達也……ごめん」



 即答そくとうする私に、達也はまた、ガクッとなる。


 私だって、日本に帰りたくないわけではないけれど、今帰ってしまうと、二度とこの世界には、戻ってこられないかもしれないのだ。



「いいよ。だけど、また、美味しいの作ってくるから、次は覚悟しててね」


「本当に、ありがとう」



 そう言いながらも、飲み込めなくなったどら焼きがのどに詰まり、あわてて紅茶を手に取る。



 ――やっぱりこれ、達也のアピールだった?


 ――もしかして、ターク様、また機嫌(そこ)ねてる……?



 冷や汗をかきながらチラリととなりのターク様を見ると、彼はおどろくほどの仏頂面ぶっちょうづらで、どら焼きをほお張っていた。



 ――あふん。申し訳ないけどかわいい……。



 こんな状況でも、ターク様の不機嫌顔に、ついついときめいてしまう私。



「良いもの食べさせてもらったわ。タツヤには本当に、いつも感心するわね」



 大きなどら焼きを五つも食べて、ガルベルさんは、満足そうにそう言った。こんなにナイスバディなのに、意外とよく食べることにおどろいてしまう。



「さて、そろそろ本題に移って良いかしら?」


「あ、はい、なんでしょうか?」



 私は二つ目のどら焼きを手に持ったまま、となりに座る彼女に向き直った。



「歌姫ちゃん、タツヤ。私、あなた達に、魔法の訓練を受けてもらおうと思うのよ」


「「え? 訓練ですか?」」



 タツヤと声がそろってしまい、どちらからともなく顔を見合わせる。


 体が元に戻り、魔法はあまり、成長しない方が良いだろうと思っていたのだけれど、訓練なんかして大丈夫なのだろうか?


 だけど、彼女が言うには、それは魔力を持つものなら誰でもするような、初歩的な訓練なのだという。



「今後のためにも、少しはコントロール出来るようになった方がいいわ」


「確かに……。って達也もですか?」


「念のためね。あなた達、色々と未知みちな部分が多いから、確認しておきたいこともあるし」


 そう言って、私の顔をじっと見るガルベルさん。どうもこの、魔力ゲージが気になるようだ。



 ――達也と一緒に魔法の訓練か……楽しそうだけど……。



 振り返ってターク様を見ると、彼はさっきよりひどい仏頂面で、どら焼きをもぐもぐしている。どうも何か、引っかかっているようだ。


 しばらく顔を眺めて待っていると、「行きたいのか?」と、ぼやくようにつぶやくターク様。



 ――え? 行くって、どこへ? お庭でするんじゃないの?



 ポカンとする私をチラリと見ると、ターク様は身を乗り出し、ガルベルさんに話しかけた。



「訓練ってことは、ガルベル様の山小屋合宿……ですよね?」


「え!? 山で……合宿?」



 その言葉を聞いた途端、私の脳裏のうりに嫌な思い出が次々とよみがえった。


 達也と再会した今でも、達也が行方不明になった、山の合宿所での出来事は、心に深い傷跡としてきざまれているのだ。



 ――嫌な予感しかしない!



 不安に身をすくませた私を見て、ガルベルさんは「ふん……」と、困ったように息を漏らした。


達也が作ってきたどら焼きに盛り上がった宮子でしたが、どうやらこれは達也からの、「一緒に日本へ帰ろう」というアピールのようです。達也の気持ちを受け止められない宮子は、冷や汗をかきつつどら焼きを飲み込みました。そんな二人をガルベルは山小屋での魔法合宿に誘います。そして、ターク様にも新たな試練が……。


次回、第14章第9話 闇に沈むセヒマラ雪山1~新たな災厄~をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] 達也がどら焼きを作るのは中々凄かったですね٩(ˊᗜˋ*)و でもやはりみやこはターク様が気になります笑 そして次は二人は試練の時! 何やら怪しい雰囲気がありますが期待です!(*^^*)
[良い点] 合宿! いいですね! そして達也、お料理系男子はポイント高いですよね〜! そんな達也に猛アピールされて、宮子が羨ましいです。 合宿風景はTwitterのイラストで見たことがあるのですが、つ…
[良い点] 達也と宮子の合宿ですか。これはもう達也のグイグイしか予感できません。とても楽しみです。魔法訓練自体も楽しみですが。ガルベル様の教官ぶりもです。盛り上がりそうですね。 [一言] ターク様がど…
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