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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第14章 冬の到来

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07 焦ってはいけない。~プロポーズはお預けだ~

 場所:タークの屋敷

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 ガルベル様によって、ベッドルームへ閉じ込められた私、ターク・メルローズは、封印の魔法陣が黒々と光る扉を眺めながら、しばらく呆然としていた。


 暴発のショックに打ちのめされ、涙を流すミヤコの姿が、目に焼き付いている。



 ――まさかミヤコが、あんなに怒るとは……。


 ――いや……ミヤコにもおどろいたが、ガルベル様のあのシールドはいったいなんだ? ポルールで、あんなすごい魔法を使ってるところ、見たことないぞ……?



 フラフラと立ちあがった私は、とりあえず、バスルームに入り、すすけた顔を洗った。


 鏡を見ると、電撃で一度逆立った髪がボサボサになっている。服も焦げてボロボロだ。


 私は髪を整え、クローゼットに移動して、いつもの黒いシャツに着替えた。



 ――もう、ミヤコの機嫌はなおっただろうか。


 ――やはり、体はどうあれ、とにかく結婚したい、というのは、焦りすぎだったようだ。



 私がソワソワしながら待っていると、コンコンとノックの音が響き、封印されていた扉が開いた。



「ターク様……?」


「……ん? ミヤコか? 扉の封印はどうしたんだ?」


「あの封印、かけた(がわ)からは簡単に開くみたいです」


「そうか……」



 扉の隙間から姿を見せた彼女は、確かにミヤコのようだったが、彼女はミレーヌの服を着ていた。



「その服……」


「はい。私、ミレーヌに体を返してもらいました」


「本当か!?」


「あのままじゃ、危険すぎるので、ガルベルさんが説得してくれて、ミレーヌも承諾してくれました」


「そうか。よかったじゃないか」



 少し恥ずかしそうに、いつまでも扉の影にいる彼女。



「どうした? こっちへ来い」


「あ、はい……」



 寄ってきた彼女を軽く引き寄せ、頭をなでてみると、白い頬がわずかに赤くなった。



 ――よかった。もう怒ってないようだな。


 ――しっかり、ミヤコだ。



 普段は穏やかな宮子も、たまには怒ることもある。いままでだって、彼女はときどき怒っていた。


 しかし、彼女は、機嫌を治すのがとても早い。しばらくすれば、すっかり忘れてしまったかのように、ケロッと元に戻っているのだった。


 そんな、どこかあっけらかんとした彼女だが、別段忘れっぽいというわけではない。


 だれになにをしてもらったのと、感謝の気持ちのほうは、ずっと忘れずに持っているのだ。


 そんな彼女の寛容で寛大な性格が、彼女の愛らしさを、こんなふうに、何倍にも引きあげているのかもしれない。



 ――やはり、ミヤコはホッとするな。



 いまの彼女の姿を見て、彼女がなにも変わっていないことに、私は安堵のため息をもらした。


 体が変われば、なにか変わってしまうかもしれない。自分で思っていた以上に、私はそれを、不安に感じていたようだ。



 ――はじめて触ったな……。



 思いがけない感動が、胸にあふれてくる。どっちでもいいなんて言いながら、結局のところ、私もこの結果を望んでいたようだ。


 彼女の気持ちを理解していなかったのはもちろんだが、私は自分の気持ちすら、なにひとつ理解していなかった。



「さっきは、焦がしてしまってごめんなさい。街も危うく焼け野原になるところでした……。ミレーヌから話を聞きました。私、勘違いしてしまって……」


「いいんだ、もう、済んだことだ。それより、その体、調子はどうだ?」


「とてもいい感じです!」


「そうか。本当によかったな。不思議だが、私も、しっくりくる気がするよ」


「ふふ。ありがとうございます!」



 そう言って、にっこり笑ったミヤコは、いつもどおり、とても愛しい。



 ――私はなにを心配していたんだ?


 ――キスしようか? いや、焦ってはいけない。


 ――最初のキスは、皆が帰って、落ち着いてからだ。



 そんなことを考えていた私に、ニコニコしながらミヤコはいう。



「魔力は消えましたが、これで思う存分、好きな歌を歌えます!」


「あぁ。そうだな。楽しみだ。これからはもっと、いろいろな歌を聞かせてくれ」


 私はそう言って、あらためて彼女の顔を眺めた。いつもジワジワとあふれていた魔力がなくなり、やはり少し、静かに感じる。


 しかし、気になってステータスを見てみると、彼女にはしっかり、魔力ゲージが存在した。



「しかしミヤコ。お前、魔力ゼロというわけではないんだな」


「え?」



 私に言われ、はじめて自分のステータスを確認した彼女は、そのゲージを見て、おどろきの声をもらした。



「わ、最大魔力、八百ってなってますね」


「ミレーヌが入っている間に、魔力があがったみたいだな」


「私の身体でも、魔力があがるんですね」


「そうみたいだな」


「これ、あまり、あがらないほうがいいですよね……?」



 困ったように、眉尻を下げてそう言う彼女。



「まぁ、大丈夫じゃないか? 自分の体なら、そうそう暴発はしないだろう」


 内心に、少しヒヤッとするものを感じながら、私はそう、返事をした。



 ――しかしこれ、すぐにあがってしまいそうだな……。



 彼女の場合、歌を歌ってなにか魔法が発動すれば、簡単に魔力があがってしまうだろう。


 出会ったころ、九千ほどだった彼女の最大魔力は、ミヤコが歌うたびに跳ねあがり、この一年で、ニ万を超えていた。このままでは、ガルベル様を超えてしまう勢いだったのだ。


 それが、八百まで下がったのは、一安心には違いないが、平穏な期間は、そんなにつづかないという気がした。


 だが、せっかく歌が歌えると喜んでいる彼女に、いますぐそれを伝えるのは気が重い。



 ――まぁ、最大魔力があがったからと、使える魔法が初歩的なものなら、問題は少ないだろう。


 ――あの強力な魔法はきっと、ミレーヌの高い素質と、ミヤコの豊かな感性の、相乗効果によるものだろうからな。



 多少の不安はあるものの、いまはとにかく、ミヤコの希望が叶い、体が戻ったことが嬉しかった。


 もう、それを理由にプロポーズを断られることもないはずだ。



 ――だが、プロポーズはしばらくお預けだ。


 ――慌てることはない。私は不死身だからな。二十六歳なんて、明日くらいに感じる筈だ。



「あ、そうだ、ターク様。みんな待ってるので、こっちに来てもらえますか?」



 黙って考え込んでいた私の手を取り、ミヤコは私を、扉のほうへ引っ張った。


 ガルベル様が、なにか話があると言っていたらしい。


 今回の件で、彼女はすっかり、私の恩人になってしまった。


 彼女がミヤコを、木の影に引き留めたりしなければ、あんなことにはならなかっただろう、とは、思うけれどだ。


 そして、焦っていた私に、適切なアドバイスをくれたタツヤにも、私はあらためて、感謝しなければならないだろう。


 しかし、この二人が恩人であるという事実は、はっきり言ってとても厄介だ。


 嫌な予感を感じながらも、私はミヤコに手を引かれるまま、部屋を出た。

 寝室に閉じ込められ、ソワソワしながら扉が開くのを待つターク様。


 彼は自分が、自分の気持ちに無頓着であることに、ようやく気が付いたようです。


 自分の体を取り戻した宮子に、キスしたいと思うターク様ですが、状況が状況だけに、焦ってはいけないと自分を戒めました。


 ちなみに、日本の結婚適齢期26歳というのは、達也が時間稼ぎのために、適当に言ったことです笑 ターク様、騙されてます!


 次回、第十四章第八話 覚悟しててね! ~どら焼きと魔法合宿~をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] なんとかターク様とみやこは誤解がとけたようで! でも焦るのは良くありませんが達也に年齢の事で騙されてしまってるようで。 でもこれくらいが丁度いいのかな笑 楽しく拝読させていただいてます٩(ˊ…
[良い点] ターク様なら勢いでキスしちゃいそうでしたけどしないんですね!笑 いつかいつかと読みながら思っていました。笑 それにしてもケンカしたのちにあっさり許せる宮子は偉いですね( ゜д゜)遠い目 私…
[良い点] 宮子の身体が戻りましたね、良かった。おめでとうございます。そして、ターク様が色気づいて、面白さはキープですね。良いと思います。 [一言] 宮子の魔力、まだまた面白くなりそうですね
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