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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第14章 冬の到来

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06 ありあまる魔力。~彼女は自由!~

 場所:タークの屋敷

 語り:小鳥遊宮子

 *************



「ターク様の街に……私、なんてことを……」


 ガルベルさんの出した巨大なシールドが消えると、私、小鳥遊(たかなし)宮子は、その場に倒れ込んだ。


 あの稲光をあげる沢山の剣は、イーヴさんがポルールで放っていたライトニングソードと同じようだったけれど、その攻撃範囲の広さは、イーヴさんのそれを、はるかに上回っていた。



 ――まさか、あんな強烈な攻撃魔法が、私から飛び出すなんて……。



 あまりのショックに、まだ目の前がチカチカしている。いっきに魔力を使い切ったらしく、体に力が入らず、顔が上げられない。



「みんな無事!? 一体何があったの!?」



 領主用の出入り口から飛び出してきた達也は、地面にへたり込んでいる私とターク様を見て、急に声をあらげた。


「ターク君、みやちゃんに何かした?」



 ――達也、何かしたのは私だよ!



 そう思うものの、口を動かす気力もなく、声が出ない。


 ターク様もしゃがみ込んだまま反応がないし、ミレーヌも口を開けたまま固まっている。



「え、本当に何があったの? 外がすごく光ってたみたいだけど」


「とにかく、移動しましょ」



 ガルベルさんはそう言うと、私とターク様を小脇こわきに抱えた。体が重力から解放され、フワフワする。



「わ!? 僕は自分で歩けます」


 そう言ってジタバタするターク様を抱えたまま、階段をのぼり、書斎に移動するガルベルさん。


「あなた歌姫ちゃんを刺激しげきするから。しばらく避難しててちょうだい」



 ターク様を彼のベッドルームに閉じ込めると、彼女は出入り口をパパっと封印してしまった。


 扉に黒い魔法陣が現れ、扉全体が黒く光っている。



 ――ターク様をあんなに簡単に……。



 唖然あぜんとする私を抱えたまま、客室に入った彼女は、私をソファーに降ろすと、「さぁ、あなた達もこっちへきて」と、達也とミレーヌを呼んだ。


 二人が顔を見合わせながら、ソファーに座ると、ガルベルさんは腕組みをして、早速ミレーヌにせまった。



「ミレーヌ、あなたいい加減、歌姫ちゃんに体を返しなさい。危険すぎるわ」


「え!? で、でも……」


 急に自分に火の粉がふってくるとは思っていなかったらしく、目を丸くするミレーヌ。



「危険って、封印されていた私の魔力を解放したのは、ミヤコ達じゃないですか」



 彼女はそう言うと、ひどく不満そうに顔を(しか)めた。



「なら、あなた、ゴイムのままでいたかったの? じゃぁ、元の体に戻ってから、私がもう一度、封印してあげましょうか?」


「い、いやです!」



 震える声でそう叫んだミレーヌを見て、達也がかばうように体を前に出した。



「ガルベルさん、あんな危険な封印を、また彼女にしようなんて、あんまりですよ」


「タツヤ、本当に、さっきの見てなかったの? 街が一つなくなるところだったわよ?」


「だけど、ミレーヌちゃんはゴイム制度の被害者なんですよ。頼むにしても言い方ってものが……」



 頑張ってガルベルさんにくってかかるタツヤ。私達の体の入れ替えを望んでいるはずの彼だけど、ミレーヌを困らせたくはないようだ。


 そんな二人に、ガルベルさんはさらに語気ごきを強めた。


「ミレーヌが被害者ですって? タツヤ、ミレーヌはね、被害者じゃなくて当事者よ。あなた、自分の魔力が怖くて、自分からゴイムになったんじゃないの? 違う?」


 ガルベルさんにそう問いただされたミレーヌは、見開いた眼でガルベルさんを見ながら、ゴクリと喉をならした。


「え? そうなの? ミレーヌちゃん」


 達也にそう聞かれても、何も言い返さないミレーヌは、暗にガルベルさんの発言を、認めているように見えた。



 ――自分からゴイムに……?



 彼女が自分の魔力をうとんでいるのは、ゴイムとしてひどい扱いを受けたせいだと思っていたけれど、彼女はその前からずっと、強すぎる魔力に悩んでいたのだろうか。



「分かるわよ、ミレーヌ。だけど、いつまでも自分の魔力からは逃げられないわ。力を持て余したからって、他人に放りなげたのでは、やってることが精霊達と変わらないわよ?」



 ガルベルさんは、今度はなだめるように、うつむいたミレーヌに話しかけた。



 ――ミレーヌが、私に力を投げ出した? シュベールさんや、アクレアさんみたいに?


 ――私が今、ミレーヌに魔力を返したいと思ってるみたいに?


 ――そうだったの?



 ずっと、ミレーヌが身体の交換を嫌がっているのは、青薔薇の歌姫が有名になりすぎたせいだと思っていた私。


 だけど今なら、ミレーヌがこの有り余る魔力を恐れているということが、痛いほどにわかる。


 ミレーヌは、うつむいたまま、肩を小さく震わせた。



「……ガルベル様は良いですよね。あなたは英雄だもの。国の為に、人のために、正しく魔力を使える人だわ。だけどもし、こんな強大な力を持った人間が、欲望に負け、自分の為だけに魔力を使ったら? あなたは、奴隷だった私に、強大な魔力を持たせることが、恐ろしくはないんですか?」


 押し殺したような声で、そう言ったミレーヌ。彼女は自分をせいすることに、自信がないらしい。


 それはそうだ。あんなひどい目に遭えば、普段はやさしいミレーヌでも、世の中を恨みたくなることだってあるかもしれない。



 ――でも、私の方が絶対危ないよ!? 怒りに任せて街を破壊しちゃうよ?



 ソファに転がったまま、また青くなる私。今すぐどこか、誰もいない山奥にでも引っ込みたい気分だ。


 いったい、このあり余る魔力は、どこからいてくるんだろうか。


 あんな極大魔法を使った後にもかかわらず、減った魔力が、もう回復しつつあるのが恐ろしい。



「え? 私が世のため人の為に正しく魔力を使える英雄ですって!? そうよね? そうなのよ。それ、もっと言って!? さっきも私、街一つ救ったのよ! 賞賛しょうさんが足りないわ!」



 恐怖に震える私達をよそに、瞳をキラキラかがやかせて立ち上がったガルベルさん。ミレーヌに言われたことが、よほど嬉しかったらしい。達也が呆気あっけにとられつつも、ガルベルさんにパチパチと拍手を送っている。



「恐れることはないわ、ミレーヌ! 自分の体だもの。あなたなら少なくとも暴発ぼうはつはしない。安全なのは私が保証するわ!」


「でも、私……」


「大丈夫! 魔力なんて自分の好きなことに、自由に使えば良いのよ! 誰になんと言われようとね!」


「自由にですか?」


「そうよ! その為にタッ君が、頭の固い貴族達に頭を下げて、ゴイム達を解放してまわってるんでしょ!? あなた達は、自由なのよ!」


 大きな声でそう言って、両手を高くかかげたガルベルさん。


 そんな彼女を見て、ミレーヌは瞳をかがやかせた。



「分かりました。ガルベル様。私、自分の魔力と向き合ってみます!」


「良く言ったわ、ミレーヌ!」



 ――おぉ……。ガルベルさん、すごい……。何もかも、お見通し?



 こうして、私が一言も発せず転がっている間に、ミレーヌは元の体に戻る決心をしたのだった。



ターク様を簡単に監禁し、すごい勢いでミレーヌを説得するガルベル。ミレーヌが体の交換を嫌がっていた本当の理由は、自分の強すぎる魔力を恐れての事だったようです。


次回、第14章第7話 焦ってはいけない。~プロポーズはお預けだ~をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] お!等々ミレーヌはその強大な力と向き合う覚悟決めましたね! いよいよ身体を元に戻すのでしょうか? 楽しみにお待ちしております(*^^*)
[良い点] 宮子が特別なのかと思っていたんですが、ミレーヌの力だったんですね(;_;) あんな膨大な魔力、たしかにこわいですよね。 でも身体を返したらラストリカバリーが見れなくなってしまって残念です(…
[良い点] 単純に、ガルベルとミレーヌ、馬が合うように見えました。ここまでを、読んでいると実に面白い意外な組み合わせですね。引っ込み思案なお嬢さんと前向きなお婆、(あ、私、きっと殺されちゃう)前向きな…
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