05 本当のミヤコ?~白黒つける男になるぞ~
場所:タークの屋敷
語り:ターク・メルローズ
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ベッドの上で喚くタツヤを見た私は、「このままではいけない」という想いに背中を押され、立ち上がった。
最近タツヤにやられっぱなしだったために、私はすっかり自信を失い、焦っていたようだ。
タツヤの言った通り、私は彼女の話をしっかり聞いていなかった。
――価値観の違いか……。文化の違いはもとより、体が違うことが、そんなに重要な問題だとは、思わなかったが。
――タツヤが来てるってことは、きっとミレーヌも来てる筈だ。
部屋を出た私は、すぐにミレーヌを見つけた。彼女は庭の隅で、タツヤが戻るのを待っていた。
「ミレーヌ、話がある」
「ターク様、こんにちは。どうかなさいました?」
キョトンとした顔で私を見るミレーヌ。その仕草や表情は、表情豊かなミヤコに比べると、ずいぶん落ち着いて見える。
奴隷として何度も売り買いされ、長く辛いゴイム生活を送ってきた彼女は、ミヤコよりかなり、大人びているのだ。
そんな彼女を前に、私は「ふーん……」と、つぶやいたきり黙り込んだ。
――これが、本当のミヤコの体か。改めて考えると、やはり不思議な状態だな。
――同じに見えるが、あのあふれる魔力を感じない。何というか、とても静かだ。
――しかし、ミヤコの体だというのに、私は、この体に触れたことがないな……。
あの精霊の秘宝が眠る遺跡で、石の上に寝かされていたミヤコの体。触れようとした私に、タツヤは「触らないでね」と釘を刺した。
彼は、中身の有無に関わらず、この体を大切に思っているようだった。
だが私は、ミレーヌの体に入ったミヤコに、毎日キスをしている。
――やはり、私はおかしいのか?
――ミヤコが嫌がっているのを知りながら、私はまた、強引に彼女を手に入れようとしていたようだ。
自分の身勝手さに少々うんざりしながら、ジロジロとミレーヌを見る。
そんな私を、不愉快そうに見上げた彼女は、警戒したように少し後退りした。
「ターク様、なんのご用でしょうか?」
「いや、すまない。つい考え込んでしまった。話というのは、他でもない。ミレーヌ、ミヤコに体を返してほしい」
「え? い、いやですよ。どうして、今頃、急に……?」
逃げ腰になった彼女を、私はそっと、壁ぎわに追いやる。ミヤコと同じ、黒目がちな丸い目が、不安げに私を見上げた。
しかし、彼女にこれを了承してもらわないことには、私はミヤコと結婚出来ないのだ。
「……なら、ミレーヌ、私が、お前の体に、その……色々してもいいのか……?」
「色々……?」
「だから、結婚したり、子供を作ったり、してもいいのか?」
「うわっ、やめてください」
「私は正直、体はどっちでもいいんだ。ミヤコでも、お前でも、中身がミヤコなら……」
「ダ、ダメです、ターク様、やめて下さい!」
「まっ、待ってくれ、ミレーヌ!」
――交換もダメ、そのまま結婚もダメ、これでは話しが先に進まないだろ!
逃げ出したミレーヌを、慌てて追いかけようとした私の目に、見たことがないくらい赤い顔の、ミヤコの姿が飛び込んできた。
――わっ!?
と思った瞬間、空から降ってきたライトニングソードが私を貫いた。
心臓が止まるほどの電撃が全身に流れ、焼き鳥のように体が焼きあがる。倒れて地面についた指先が、炭になって砕け散った。
それはもう、うめき声一つ出せないほどの衝撃だった。しかも、今の私は、すぐには回復しない。
なぜかその場にいたガルベル様が、嫌々ながらにヒールをかけてくれるまで、私の体は地獄のように痛んだ。
――だめだ。心が回復しない……。
あまりの衝撃に、体が治っても、私は起き上がることができなかった。
――なぜ、イーヴ先生の高度な必殺技をミヤコが……。お前には魔法習得の概念がないのか? 魔法属性はどうなってるんだ……。
地面に額を擦り付けたまま、今更ながらにそんなことを考えていると、ミヤコの叫ぶ声が聞こえてきた。
「どっちでもいいなんて、ひどすぎます!」
嫌な気配を感じて空を見上げると、無数のライトニングソードが、メルローズの街に降り注いでいた。
慌ててミヤコの前に飛び出し、シールドを出したものの、こんな物では何も救えない。
――あぁ、分かった。どっちでもいいなんて、二度と言わない。私は、白黒つける男になるんだ。
まるで世界の終わりのような光景を前に、私はその時、そんなことを考えていた。
固まる私のとなりで、ガルベル様が空に向かって腕を掲げると、巨大な光のシールドがメルローズの空を覆う。
そこに、バチバチと白く稲光をあげる剣が、次々に突き刺さった。
――シャイニングシールド!? しかも、無詠唱で……。
「いやだわ、温存してたのに。こんなに魔力を使わせないでよね」
「ガ……ガルベル様……。助かりました……」
自分の街を恐ろしい魔女に救われ、安堵の涙を流しながら、私は両手を地面につき、その場にしゃがみ込んだ。
ミレーヌを説得しようとしたターク様ですが、勘違いした宮子の魔法が暴発し、大変な事態に陥ってしまいました。その危機を救ったのは、ターク様に数々のトラウマを植え付けた、大魔道師ガルベル様でした。彼女に自分の街を救われてしまったターク様の運命や如何に。
次回、第14章第6話 ありあまる魔力。~彼女は自由!~をお楽しみに!




