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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第14章 冬の到来

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04 気にならないの?〜 仕方のない恋敵〜

 場所:タークの屋敷

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 ミヤコに黒焦げにされる少し前、シェンガイトのベッドを前に、私、ターク・メルローズは、タツヤと話をしていた。


 あの、メルローズの街をかがやかせたクリスマスイルミネーションとやらで、光の魔力を消費したベッドは光を失っている。


 この一年、タツヤは魔力の研究やベッドのメンテナンスのため、しばしば私のベッドルームを訪れた。


 と言っても私は多忙たぼうのため、留守のことが多い。


 タツヤには、メイドに声をかければ、いつでもベッドルームに入って良いと言ってあった。


 そんなわけでこの日、タツヤは、知らない間に、私のベッドルームに入り込んでいたのだ。


 そしてどうやら、私が書斎でミヤコにプロポーズしているのを、聞かれてしまったようだった。



「ターク君、毎日みやちゃんにあんなことしてるの?」



 あきれ顔で眉根を寄せるタツヤ。恩人にこんなことを思うのは申し訳ないが、ムカつく顔だ。



「タツヤ、ミヤコにプレゼントするなら、何がいいか教えてくれ。お前、詳しいだろ」



 私がそう言うと、タツヤは思い切り顔をしかめ、口をとがらせてから言った。



「どうして教えると思ってるの? 僕、みやちゃんのこと、ぜんぜん諦めてないよ?」


「知ってる」



 普通なら私だって、こんなことを、恋敵こいがたきに聞いたりはしない。


 だが、長い間私の中にいたタツヤに、今さら格好をつけても仕方がないのだ。


 物心ついた頃から、ミヤコとべったり二人で過ごしてきたと言うタツヤは、本当に、ミヤコを喜ばせるのがうまかった。



「知ってるが、教えてくれ」



 ミヤコを手に入れるため、プライドを捨てた私に、タツヤは露骨ろこつなため息をつく。



「ターク君? 必死過ぎ。気持ちは分かるけど落ち着いて?」



 ――落ち着けって? 私が焦るのは他でもない、お前のせいだ。


 ――今回のことだけじゃないんだぞ……。



 ベッド脇の椅子に座っていた私は、テーブルに乗せた頭を腕で抱えこんだ。


 そのまま、じとっとした目でタツヤを眺める。


 定期的にベッドを点検しに来るタツヤは、毎度ミヤコに会うため、メイド達の部屋を訪れた。


 そんな時、タツヤが手土産てみやげに持って来るのは、日本の食べ物を、こちらの食材で再現したオヤツだった。


 大福とか大学芋とかプリンとか、とにかく見たことも聞いたこともない、甘いものばかりだが、食べるのが好きなミヤコが、喜ばないわけはなかった。


 メイド達にチヤホヤされながらも、しっかりと、ミヤコの心をつかんで帰るタツヤ。こんなことを頻繁ひんぱんにされては、私に勝ち目はない。



 タツヤは私に背中を向けたまま、もくもくとベッドを点検していた。


 このベッドに一年溜め込んだ光の魔力は、街中を一カ月照らせる程の威力いりょくがあった。


 しかし、精霊達の遺跡にある魔道具は全て、闇の魔力によってのみ起動するようだ。


 タツヤのしている研究は、私には正直、無駄に思えた。



「お前、意地をはらず、父さんの集めたシェンガイトを使って、日本へ帰ったらどうだ」



 つい飛び出した私の言葉に、タツヤがムスッとした顔をする。



「君はさ、アグスさんとカミルちゃんの努力を、なんだと思ってるの?」


「……私は、不死身を治して欲しいと頼んだ覚えはない。それに、父さんには、無理をしてほしくないしな」


「ふぅん。何にしても、僕は、みやちゃんを置いては帰らないよ」


「ミヤコは渡さない。これ以上待っても無駄だぞ」


「ふられたくせに」


「ふられてない」



 ピリピリした空気の中、タツヤがこちらを振り返る。ミヤコといる時は、怒っていてもどこかフニャッとしているタツヤだが、私の前では時々、おどろくほどに目つきが悪い。



「君はさぁ、そんな身体で、本当にみやちゃんを幸せに出来るとでも思ってるの?」


「どう言う意味だ……」


「結婚なんて言ってるけど、先のことなんか何も考えてないだろ」


「そんなことはない……。少なくとも私は、彼女より先には死なない。私は最後まで、ミヤコを守るつもりだ」



 何か含んだような口調で「ふぅん」とだけ言うタツヤ。



 ――なんだ? 何が悪い!?


 ――間違ったことは言ってないだろ?



 やり返したつもりが、余計にモヤモヤする結果になってしまい、私は再び頭を抱えた。



「タツヤ……私にも、プリンは作れるか?」


「はぁ? 君には無理だよ」


「たのむ……」


「まったく、君って、本当に仕方がないな」



 タツヤはそう言うと、ベッドから離れ、私の前の椅子に座った。



「あのさ、ターク君。いくらなんでもね、子供が欲しいなんて、あんなプロポーズ、古すぎるよ。流石さすがのみやちゃんもドン引きだと思うよ?」


「……?」


「プロポーズの言葉をあれこれ考える前に、彼女の気持ち、もっとよく考えてみなよ」


「んん……」


「それに、最近の日本では、女性の結婚適齢期けっこんてきれいきは二十六歳くらいらしいよ」


「二十六!? それはもう、行き遅れじゃないか……?」


「そんなこと言ったら、日本の女性に怒られるよ」


「ふむ……」


「だからさ、君とみやちゃんじゃ、価値観がだいぶんずれてるってこと、覚えておいた方がいい」


「なるほど……」


「って、どうして僕が、アドバイスしなきゃいけないの!?」


「助かるよ。いい話を聞いた」


「プリンの作り方までは教えないよ?」


「わかった……」



 思いのほか、適切なアドバイスをくれたタツヤは、また不満げに口を尖らせ、ベッドの点検を再開した。



「まったく、冗談じゃないよ。みやちゃんはどうして、ターク君なんか選んじゃったのかな? 僕はダメで君なら良いなんて、全然納得いかないな」



 小さな声でブツブツとぼやくタツヤ。正直なところ、私にだって、彼女がなぜ私を選んだのか分からない。


 私は一つとして、彼女にいいところを見せた記憶がないのだ。むしろ、ダメなところしか見せていない気がする。



 ――だが、彼女が選んだのは私だ。


 ――ここは、少し、余裕のあるところを見せておこう。



 そう思った私は、意気込んで口を開いた。



「どうしてって、そりゃぁ……私とお前では、何か色々と違うんじゃないか? どっちでもいいって事はないだろう」



 情けないことに、私の口から飛び出したのは、そんな、中身のない虚勢きょせいだった。


 タツヤはまた、すこしあきれた顔をして、作業の手を止めると、私に向き直っていった。



「だいたいさ、ターク君。君は、みやちゃんの体がミレーヌちゃんのままで気にならないの? みやちゃんがこのままじゃだめだって言ってるのに、どうして平気なの? 僕はやっぱり、心も体も、みやちゃんがいいよ」



 タツヤはいまだに、ミヤコの体がミレーヌのままになっていることが、気に入らないようだ。


 しかし、ミヤコの体についての私の見解けんかいは、タツヤとは違っていた。


 私がミヤコに出会った時には、彼女はすでに、ミレーヌの中に入っていたのだ。


 私にとっては、今のままで、彼女はミヤコだ。


 だが、ミヤコが元に戻りたいなら、それはそれで構わない。大切なのは体より中身の方だろう。



「体なんてどっちでもいいんじゃないか? 魔力があるかないかくらいで、後はほとんど同じじゃないか」



 私がそう言うと、タツヤは手に持っていた道具を放り投げ、バタン、と仰向けにベッドに倒れた。



「もう! こんな適当なやつに負けるなんて悔しすぎるよ! 僕は五歳の時から、みやちゃんと結婚するつもりだったのに!」



 顔を腕で隠し、悲壮感ひそうかんあふれる声で、そうわめいたタツヤを見て、私の不安は、加速していった。



 ――これは、明日の自分の姿じゃないか?


 ――このままでは私も、同じようにわめくことになりそうだ。



 すっかりやる気を無くした様子のタツヤを部屋に残し、私は外へ、ミレーヌを探しに出た。



ベッドルームでターク様のプロポーズを聞いてしまった達也と、本音駄々洩れの会話を繰り広げるターク様。一見認めてくれたようで、全く宮子を諦めていない達也にやきもきが止まりません。


次回、第14章第5話 本当のミヤコ?~白黒つける男になるぞ~をお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[一言] ターク様対達也…。 ターク様も達也に勝ちたくて色々焦っていたのですね…>_<… そして中身がみやこならどっちでもいいという発言だけがヤバいかったんですねぇ。 これは中々伝わらなさそう…。 今…
[良い点] こらああああああ\\\٩(๑`^´๑)۶//// やっぱりどっちでもいいっていった! ちがーう! あかーん! 達也に一票を投じます!!
[良い点] どこまでもズレ倒しているターク様はさすがです。理屈が独特すぎて笑いました。会ったときには宮子inミレーヌだったんだから、その状態こそが自分の主観では宮子だと。なかなか至らぬ考えでとても面白…
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