03 ひどすぎます。~どっちでもいいターク様~
場所:タークの屋敷
語り:小鳥遊宮子
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「ところであなた、そんなに制御不能で、攻撃魔法は大丈夫なの?」
「攻撃魔法は、まだ一度も出たことがないですね」
ガルベルさんと庭を歩いていた私は、呑気な顔で、そう返事をした。
実際、この一年で、私がうっかり発動した魔法は全て、回復魔法か支援魔法のどちらかだった。
「あなた、腹が立つことってないの?」
「え? もちろん、ありますよ?」
私がそう返事をした時、噴水のある庭の壁際で、誰かと話をしている、ターク様の後姿が見えた。
「タ……」と、声を発しかけた私の口をおさえ、ガルベルさんが私を木の影に引きずり込む。
――あれは、もしかしてミレーヌ?
ガルベルさんに、口を押さえられたまま、木の影から顔を出し、ターク様の様子をのぞいてみると、彼と話をしていたのは、ミレーヌだった。
「ちょっと様子を見ましょ」
ガルベルさんが小声でそう言って、なぜかこっそりと二人を盗み見る感じになってしまった。
――ミレーヌ、来てたんだ。会いに行こうと思ってたところだから、ちょうどいいわ。
そんなことを考えながら、二人の様子を見守っていると、ターク様はなんと、ミレーヌに壁トンを繰り出だした。
――えっ、ターク様、まさかの人違いプロポーズ!?
――その子はミレーヌですよ?
声を上げようとするけれど、口を押さえられていて声が出ない。
ジタバタする私の耳に、ターク様の囁くような声が、途切れ途切れに聞こえてきた。
「……なら、ミレーヌ、私がお前の……してもいいのか……?」
――ターク様、人違いじゃなかったんですか!? それはそれで問題です! いったい、ミレーヌに何を……?
ジタバタするのをやめ、必死に耳を澄ますけれど、ミレーヌの声は小さすぎて聞こえない。
ただ、彼女が猛烈に戸惑っているのは間違いなさそうだった。
「……私は正直、どっちでもいいんだ。ミヤコでも、お前でも……」
「だ、ダメです、ターク様、やめて下さい!」
「まっ、待ってくれ、ミレーヌ!」
迫るターク様のわきの下をくぐり、逃げ出したミレーヌを追って振り返った彼と、バッチリと目が合う。
「ミヤコ……」と、おどろいた顔で固まるターク様を見て、一気に頭に血がのぼった。
――な、なんてこと……!
――私がプロポーズを断ったからって、ミレーヌを口説くなんて!
――それも、そんな、最低なセリフで!
私が必死に身をよじると、ガルベルさんはようやく、私から手を離した。
――その言葉だけは、あなたの口からききたくなかったです!
キーン! という音が頭に響いたかと思うと、目の前が一瞬真っ白になった。強烈な稲光と共に、黄色く輝く剣がターク様を貫き、ドゴゴゴゴーンっという、激しい雷鳴が響く。
「あらやだ! ライトニングソードが降ってきたわ。タッ君、大丈夫!?」
ガルベルさんの慌てる声が聞こえ、私は頭を小さく横に振った。
チカチカして合わない焦点を、目の前に落ちている、黒く焦げついた物体に合わせる。
バチバチと電撃を放つ剣が突き刺さり、肉の焼ける嫌な匂いがして、もくもくと煙が上がっている。声の出ない私の代わりに、ミレーヌが叫んだ。
「ひゃっ、ターク様!? ミヤコ! なんてことなの?」
「わ、光が弱いからあんまり回復してないわ」
「ガルベル様、ヒールを、ヒールをお願いします!」
「もぅ、仕方ないわね!」
ガルベルさんが、ターク様からライトニングソードを引き抜き、ヒールを唱えると、ターク様のお焦げは元に戻った。
だけど、せっかくの王子様ファッションは、すっかり燃えてしまい、彼のたくましい背中が丸見えになっている。
ターク様はショックを受けたのか、土の上にうつ伏せに倒れたまま、動こうとしなかった。
だけど、私のショックはそれ以上だったようだ。
「どっちでもいいなんて、ひどすぎます!」
叫んだ瞬間、バチバチと稲光を上げる無数の剣が、メルローズの街に降り注いだ。
「ちょっと、歌姫ちゃん!?」
「ミヤコ……!? なんてことなの!?」
ガルベルさんと、ミレーヌの叫ぶ声が響き、倒れていたターク様が私の前に飛び出してきた。
「シャイニングシールド!」
ターク様の光の盾が、私とミレーヌを守る。だけど、私の放った厄災は、街中に降り注いでいるのだ。
――あぁ、なんてこと……。ターク様の街が、消えてしまう。
電撃剣の放つ光で黄色くなった空を見上げ、私達は、立ち尽くした。
庭でミレーヌに何か囁いているターク様を見て、頭に血が上った宮子。彼女が落とした電撃剣はメルローズの街全体に降り注いでしまいました。メルローズ領の運命や如何に……。
次回は少し時間を戻し、ターク様の語りでお届けします。
14章第4話 気にならないの?~仕方のない恋敵~をお楽しみに!




