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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第14章 冬の到来

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02 このままじゃ危ない?~ガルベルの不安~

 *************

 場所:タークの屋敷

 語り:小鳥遊宮子

 *************



「あ、ここは狭いですから、客室でお茶をれます」



 私はそう言って、ガルベルさんを近くの客室に案内した。


 長い足を組んで、ソファーに腰掛けた彼女は、相変わらず、美しい。



 ――これで六三歳?


 ――もしかして、ガルベルさんも、不死身なのかな?



 そんなことを考えながら、ティーカップに紅茶を注ぐ私に、ガルベルさんは、ため息混じりに言った。



「あなたのラストリカバリー、街でずいぶんうわさになってるわよ」


「……なんとも、お恥ずかしいです」



 そう言いながら、私はガルベルさんの正面に座った。


 ターク様に迫られるたび、街中にとどろいてしまう私のときめき。


 当然ながらそれは、前々から噂の種になっている。


 あれが発動すると、街中の人が全回復するのだから、もちろん、喜ばれてはいるのだけれど、はっきり言って、もう、顔を上げて外を歩けないくらい恥ずかしい。


 私が顔を赤くしてうつむくのを見て、ガルベルさんはあきれた声を出した。


「婚約発表の前に、子供が生まれるんじゃないか、なんて言ってる人も居るみたいよ? 良くないと思うわ、そういうの。火炙ひあぶりにされちゃうわよ?」


 ――ひぇえ! 火炙りって何!?



 あまりに空恐ろしくて、口をぱくぱくさせる私。


 出来ちゃった婚なんて、日本なら今どき大した騒ぎにもならないけれど、この世界でそれは、思いの外一大事らしい。



「タ、ターク様は、そんな、無責任なことは……それに、彼、多忙過ぎて、普段はほとんどお屋敷に居ないですし……」


「まぁ、タッ君は仕事バカだものね。分かってはいるんだけど」


「そうなんです」


「だけど、歌姫ちゃん。その魔法の暴発ぼうはつ、そろそろ止めないと危険だわ」



 彼女が言うには、先日、私が「王都に届いたかも?」と、思っていたラストリカバリーの青いかがやきは、ガルベルさんの山小屋から見ると、巨大なドーム状に広がり、実際に王都の端に届いていたらしい。


 美しい春の湖のようなかがやきを放つラストリカバリーは、水属性の最上級魔法だ。歌で発動する特殊な術では、ほとんど魔力を消費しない私だけれど、あれを放つと、一気に全ての魔力を消費し、私はへたへたと座り込んでしまう。


 そして、その威力が大きくなるにつれ、消費する魔力も増え、私の最大魔力量もどんどん増えていた。



「前よりずいぶん威力が上がってるじゃない? ラストリカバリーだけなら良いけど、あなた、たまに他の魔法も暴発させてるわよね?」


「そ、そうなんです……」



 実を言うと、この一年、私の魔法は何度も暴発していた。


 うっかりお風呂で口ずさんだ「故郷の小舟」の歌で、水属性の足止めスキルが発動し、お屋敷の床をびしょ濡れにしてしまったのは半年前のこと。


 先月は、無意識に歌っていた「心の種」の鼻歌で、天まで届きそうな大きな豆の木が、お屋敷の庭に生えてしまった。


 それ以外にも、数々の予想を超えるハプニングを、私はしばしば起こしてきたのだ。


 これらの魔法は、私の想いや願いを感じ取った微精霊達が、何かの間違いで発動させているという。


 ターク様は、「気にするな」と言ってくれるけれど、ただでさえ忙しい彼に、迷惑ばかりかけてしまうのは、本当に心苦しかった。



「ガルベルさん、何か、魔法の暴発を止める、いい方法を知りませんか?」



 ガルベルさんは、詠唱なしで自在に魔法を発動させる。


 それは、一見便利そうに見えて、実はとても、制御が難しいはずだった。


 私がたずねると、ガルベルさんは、うんうんと、頷いた。



「私レベルになるとね、それはもちろん、制御できるわよ? だけど、それには、訓練が必要だわ。あなた、もっと、魔法をよく知る必要があるのよ」


「そ、そうですよね。みなさん、訓練されてますもんね……」


「そう。だけどそれ以上に、あなた、心と体がバラバラのままでしょ? 一番の原因はそれだわ。早くミレーヌと、体を交換することね」


「やっぱり……そうですよね」



 魔法が発動するたび、何となく感じる、心と体のずれ。


 それは、初めのうちはほんの小さな違和感だったけれど、最近はかなり、はっきりと感じるようになってきていた。


 十二歳でゴイムになるまで、様々な属性の魔法を簡単に使えたというミレーヌ。


 だけど、物心ついた頃から奴隷だった彼女が身につけていたのは、ほとんどが生活魔法だった。


 彼女は、私のように、魔法を暴発させることはなかったし、その威力も普通程度だったようだ。


 この体に入っているのがミレーヌなら、何も問題は起きないはずなのだ。



「だけど、体の交換は、ミレーヌが嫌がってまして……」


「そんな呑気のんきなこと言って、もっと、思いもよらない魔法が飛び出したらどうするの?」


「そうですよね……」


「もう一度、真剣に頼んでみた方が良いんじゃない? あなたは確かにベルガノンを救ったけど、このままじゃ逆に、ベルガノンを滅ぼしかねないわよ」


「えぇ!? そこまでですか?」


「そうよ。一緒に頼んであげるから、ミレーヌの所へ行きましょうよ」


「わ、分かりました」



 ガルベルさんにうながされた私は、重い腰を上げ、立ち上がった。


 街に魔力があふれている今となっては、私が魔力を失ったところで、困る人は特にいない。


 魔力が足りなければ、街で普通に売っている、魔力回復ポーションを飲めばいいだけだ。


 ターク様はきっと、何も気にしないだろうし、私達の体の入れ替えを望んでいる達也は、すごく喜ぶだろう。


 私とターク様を結び、英雄にしたこの力だけど、今となっては危険なだけのようだった。



 ――少し寂しいけど、仕方ないかな。ミレーヌ、納得してくれるといいけど。


 ――そろそろポルールの石像が完成するはずだけど、歌姫騒ぎは随分落ち着いたし、大丈夫かも……?


「じゃぁ、ターク様に声をかけてから出かけますね」



 私達は、領主用の入り口に向かうため、庭を歩きはじめた。


 そして、達也がクリスマスツリーに見立てた大きな三角さんかくの木のそばまで来たとき、私たちはふと、足を止めた。



 ――あれ? ターク様だわ。



 噴水のある広場のすみの壁際で、ふんわりと微弱な光を(まと)った彼の、後ろ姿が見える。


 さっきと同じ、黒い王子様ファッションのまま、誰かと話をしているようだった。


「タ……」と、声を上げかけた私は、突然口を押さえられ、木の影に引きずり込まれた。



突然訪ねてきたガルベルに、魔法の暴発を心配された宮子は、ミレーヌに体を交換してもらうため、ガルベルと共に出かける事にしました。そんな時、庭で見かけたターク様。彼はいったい何をしているのでしょうか。そして、突然木の陰に引きずり込まれた宮子の運命は?


次回、ひどすぎます。~どっちでもいいターク様~をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] ガルベルさんに色々聞いたみやこ。 このままだと本当に危険そうですね。 そしてターク様に声をかけようとしたみやこだったが果たして誰に引っ張られてしまったのか!? 続き楽しみにお待ちしております…
[良い点] 次回のタイトル予告でなんとなく悟ってしまいました。 ひどいです、ターク様!笑 それにしても、街中に響き渡るラストリカバリーの原因を知られているっていうのは恥ずかしすぎますね…笑 達也も…
[良い点] 相変わらず宮子の受難は続くのですね。本当に不憫な子です。正直、体がミレーヌなのをそっくり過ぎて読んでいるこちらが忘れるほどです。今話も楽しく読ませていただきました。 [一言] ほんとに宮子…
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