01 青い薔薇はもういいです。~止まらないターク様~
十三章で一度完結したターク様ですが、十四章から続編をスタートさせました。ブクマして待ってくれていた皆さまありがとうございます。
続編では十三章まででは書き切れなかった内容を盛り込みながら、問題だらけのターク様と宮子を幸せに導きたいと思います。応援よろしくお願いします。
※現在十九章を執筆中です。二十章くらいで完結予定です。
※執筆優先なので、しばらく更新は不定期になります。
場所:タークの屋敷
語り:小鳥遊宮子
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「タ……ターク様、もう、やめて下さい」
ポルールで共に戦った皆と、ルカラ湖で楽しいひと時を過ごした日から、一週間が経とうとしていた。
――壁トンはもう、日本では古いんですよ?
書斎の壁際に追いやられ、私は今、ターク様に壁ドンならぬ、壁トンを繰り出されている。
フリルのついた白いブラウスに、金の刺繍が施された、上質な黒いシルクの上着。
そんな素敵な王子様風ファッションに身を包んだターク様は、胸に青い薔薇の花束を抱えていた。
彼の宝石のような黒い瞳が、真剣に私を見つめている。
「何度言ったら、受けてくれるんだ?」
「何度言われても、ダメなものはダメです。あんまり毎日プロポーズされると、ちょっと困ります」
「ミヤコ……」
悲壮感あふれる顔で、がっくりと肩を落とす様子が、達也にそっくりなターク様。
つい「わかりました!」と、言ってしまいそうになるその言葉を、グッと飲み込んで、私は彼に両手を差し出した。
「お花は花瓶に生けておきます」
「あぁ……。よろしく頼む」
少し口を尖らせたターク様は、不満そうに花束を差し出した。
達也が用意したクリスマスイルミネーションを見た翌日から、ターク様はずっと、こんな調子だ。
あの日、「クリスマスってなんなんだ?」と、改めてたずねたターク様と、私はこんな会話をした。
「クリスマスは、神様の誕生を祝う、お祭りみたいなものです。サンタさんが子供にプレゼントをくれたり、あと、こんな風に街がキレイに飾り付けされるんで、恋人達がデートを楽しんだりするんですよ。すごくロマンチックですよね」
「恋人達が……? もしかしてこれは、タツヤのアピールなのか?」
「え、そうなんですかね……? 達也のことだから、単に皆が喜ぶと思っただけじゃないですか?」
私はそう答えたけれど、ターク様は「あいつ……」とつぶやいたきり、すっかり不機嫌になってしまった。
そして翌日から、彼の連日のプロポーズが始まったのだ。
だけど、彼が二人の将来をまじめに考えているなんて、私には少しも思えなかった。
自分のことを、不死身でもそうじゃなくても、「どっちでもいい」という彼は、明らかに先のことを考えていない。
どうしても、達也に「ミヤコは自分のものだ」と示し、早く安心したいという、今の気持ちだけが、先走っているように見えてしまうのだ。
それに、私には彼のプロポーズを受けられない、もっと重大な理由があった。
「ターク様、昨日も言いましたけど、この体はミレーヌのものなんです。これ以上の勝手は出来ませんよ」
「体を返さないのはミレーヌの方じゃないか。気をつかう必要があるのか?」
「あるに決まってます」
「はぁ」と、厄介そうにため息をついたターク様を押し退けて、私はメイドの部屋に戻った。
――困ったな。ターク様、言い出したら止まらないんだから。
――こんなにあると、お花の手入れも大変だわ。
硬いベッドに腰掛けた私は、青い薔薇だらけになってしまったメイド用の小さな部屋を眺めながら、すっかり途方に暮れていた。
もちろん、ターク様がプロポーズしてくれるのは、私だってすごく嬉しい。
初めの日、青い薔薇を手に、「結婚してくれ」と、ストレートに言ってくれた、彼のプロポーズは完璧だった。
噴水の前で片膝をついたその姿を見た瞬間、トキメキがズキュンと胸を貫いて、暴発したラストリカバリーが、王都にまで届いたんじゃないかと思うくらいだった。
だけど、ミレーヌの体で、これを受けることは出来ない。それを説明したものの、納得がいかない様子の彼。
プロポーズの場所やセリフが悪かったと思ったのか、翌日は「ついてきて欲しい」と、ちょっとおしゃれなレストランで。
その翌日は、海に連れ出され、「必ず幸せにする」と、甘く囁かれた。
ターク様がプロポーズしてくれるたび、ラストリカバリーが発動し、ヘトヘトになりながらも、同じ理由を説明する私。
だけど、三日目にして、「体なんてどっちでもいいじゃないか」「そんなわけにいきませんよ」と、少々小競り合いが起きた。
更にその翌日は、「一生大切にする」と言う彼。
ターク様の言う「一生」とはなんなのか、私は頭を悩ませた。
ターク様は、自分が不死身だと言うことを、時々忘れているのだろうか。やっぱりあまり、具体的に考えているようには見えない。
首を縦に振らない私に焦れはじめた彼。今日は書斎でいきなり、壁トンを繰り出したかと思ったら、「二人の子供が欲しい」と言い出した。
おどろきのあまり、口をパクパクさせた私。達也に差をつけたいだけなのかと思っていたけれど、ターク様は思った以上に真剣のようだ。
――だけど、人の体で子供なんて作れませんよ?
――ぜんぜん分かってないんだから。
私がそんなことを考えていると、トントンと、扉がノックされる音が聞こえた。
『サーラさんかな?』と思いながら扉を開けると、そこに立っていたのはなんと、ガルベルさんだった。
彼女がこんな場所に現れるなんて、とても珍しい。
「ガルベルさん! どうしたんですか?」
「歌姫ちゃん、元気してる? まぁ、なぁに? 青薔薇だらけじゃないの。わぁ、部屋中いい香りね」
「そうなんですよ。最近、ターク様が毎日プレゼントしてくれるんです」
開いた扉の隙間から、するすると私の部屋に入ってきたガルベルさん。狭いメイドの部屋にいると、少し場違いに感じるくらい、今日も彼女はナイスバディだ。
「毎日プロポーズ? なるほど、それであんなにラストリカバリーが発動してたのね。あの子、言い出すとなかなか引かないから」
「ミレーヌの体のままでは無理ですって、お断りしてるんですけど……」
「そうね。本当に、そろそろまずいと思うわ。私、すごく嫌な予感がするのよ」
ガルベルさんはそう言うと、「ふーむ」と唸りながら、腕を組んで私を眺めた。彼女は、その嫌な予感を解消するために、わざわざこんな場所まで、私を訪ねて来たのだろうか。
そう思うと、漠然とした不安が、じわっと胸に膨らんでいく。
「まさか、水晶占いに、何か出たんですか……?」
「水晶占い? いえ、そういうわけじゃないんだけど……。すこし、時間を貰えるかしら」
――な、なんだろう。怖いわ。
彼女の妙に重々しい表情にすこしビクビクしながら、「わ、分かりました」と、返事をした私。
嫌な胸騒ぎを感じて、喉がゴクリと音を立てた。
達也のクリスマスイルミネーションがきっかけで、宮子にプロポーズを開始したターク様。しかし、二人の結婚には、解決しなくてはいけない問題が沢山あるようです。困惑する宮子と、強引に押し通したいターク様。そんな二人の住むベルガノンに、新しい災厄が巻き起こります。二人は数々の困難を乗り越え、無事に結婚出来るのでしょうか。「ターク様が心配です!」十四章から、新しいスタートです。
次回、このままじゃ危ない? ~ガルベルの不安~をお楽しみに。




