11 [番外編]カミル2~僕の決意~
続編の執筆が進んできたので報告をかねて番外編をお届けしてます。今公開できる番外編はここまでなので、次回は14章1話をお届けしたいと思います。
ブクマして待っていてくれると嬉しいです。
場所:王都
語り:カミル・グレイトレイ
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「たまにはこう言う、可愛い服を着てみたらどう? 買ってあげるわ」
街に着いたサエラ様は、僕が止めるのも聞かず、色々なものを僕に買ってくれた。
沢山のアクセサリー。素敵なバッグ、華やかなドレス。
だけどそれは、僕には絶対似合わないような、可愛いものばかりだった。
彼女の豪快な買い物を呆れ顔で見ていた僕。
「どうして、僕にこんなに?」
僕がそう尋ねると、彼女は申し訳なさそうに言った。
「カミル。あなたの気持ちを知っていたのに。タークに婚約者をあてがったりして、ごめんなさいね」
「な、何の話ですか!?」
「私だって女だもの。分かるのよ。だけど、タークには、マリルくらい、自分を大切にする子をそばに置いて、見習ってもらいたかったの。あの子は、人のことばかりで、自分に無頓着だから」
「サエラ様……」
「だけど、タークは悩みがあるとあなたに甘える所があるわ。それじゃだめなのよ」
「……二人を、応援して欲しいって、言いたいんですね」
「流石カミル。察しが良いわ。タークのことは、突き放してあげて」
「……分かりました」
僕は、サエラ様に渡された沢山のプレゼントを手に、暗くなっていく景色を懸命に見据えていた。
シェンガイトが闇を吸い込んでいく音が、シュンシュンと頭に響いていた。
△
「魔獣が出たぞ! にげろ!」
大きな声におどろいて顔をあげると、目の前を巨大な魔獣が駆け抜け、サエラ様の姿が消えていた。
僕は必死に魔獣を追いかけたけれど、逃げ惑う人々にもみくちゃにされてしまった。
遅れて到着した防衛部隊が、なんとか魔獣を倒し、騒ぎがおさまると、いくつかの死体といっしょに、瀕死のサエラ様が、地面に横たわっていた。
「サエラ様! しっかりして!」
「カミル……タークをお願いね。あの子は、あなたが頼りだから」
「サエラ様、さっきと言ってる事が違います! 僕、どうしたらいいの!? 返事をしてよ! サエラ様!」
泣きわめく僕を残して、彼女は死んでしまった。
△
母親の死の報告を受けたタークは、僕を見ても、責めたりしなかった。
「カミル、お前、ケガはないのか?」と、僕の心配をしただけだった。
だけど、僕には分かっていた。タークは、僕じゃなくて、自分を責めている。『どうして、ついて行かなかったんだろう』って。
あわてて駆けつけたマリルちゃんは、泣き喚いていて、タークは、それを、慰めるハメになっていた。無理もない。彼女はまだ十二歳だ。
「マリルちゃん、ちょっといいかな?」
僕は隙を見て、彼女を呼び出した。
「これ、サエラ様が、マリルちゃんにって。タークをお願いって言ってたよ」
僕が彼女に渡したのは、サエラ様にもらった、大量のプレゼントだった。
「泣いてる場合じゃないよ、マリルちゃん。タークは、今、自分を責めてる。あいつが欲しいなら、今こそ君の出番だ。しっかりして。君が、慰めてきて!」
「わ、分かりましたわ!」
涙を拭いた彼女は、キリリと表情を整え、タークの元へ向かった。
これでいい。全部、サエラ様の望み通りのはずだ。
矛盾をはらんだ彼女の考えは、全てを測れないけれど。
△
それからまた半年以上が経った頃、タークがポルールに出向くことが、本格的に決まった。
その日、タークは、真面目な顔で僕に話しかけた。
「カミル。悪いけど、僕はもうすぐポルールへ行く……」
「嫌になるな。先生は、僕がどれだけ成長したか、全然分かってないよ」
「お前に、ケガさせたくないんだろうな」
「まったく、過保護だよね」
「……そうだな」
そう言ったきり、少し気まずそうに黙り込む君。
ずっとポルールに行きたがっていた僕を、心配してくれてるみたいだけど、僕には余計なお世話だった。
その時の僕はもう、違う決心を固めていたんだ。
「ま、僕は、防衛隊に入るんだけどね。知り合いに誘われてるんだ」
「そうか……。カミルがそんなつもりだったなんてな。ケガしないでしっかりやれよ」
タークは少し笑顔を見せると、僕の頭をぽんぽんと撫でた。ただでさえ夕日で逆光なのに、君まで光ってるもんだから、なんだか酷く眩しい。
「ちょっと、気持ち悪いから、勝手に触らないで?」
「……お前、人が心配してやってるのに」
「偉そうなんだよ、バーカ!」
「こいつ……!」
不満そうに顔を顰めた君を見て、僕は思わず吹き出した。
――もう誰も、サエラ様みたいには死なせない。防衛隊に入ったら、王都は僕が守る。
――それから、君の、心配なお父さんも!
一人心を固めた僕を残して、数日後、タークはポルールへ行ってしまった。




