10 [番外編]カミル1~矛盾の多いサエラ様~
現在続編の執筆が19章まで来ています。そろそろ完結までエタらずに書けそうな気がしてきました。報告がてら、今回はカミルさんの語りで、番外編をお送りします。長いので二話に分けてます。
続編投稿開始まで、ぜひブクマしてお待ちください。十三章までの感想やレビュー、評価もお待ちしてます♪応援していただけると、きっと頑張れると思います。
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場所:メルローズ本邸
語り:カミル・グレイトレイ
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――四年前。
マリルちゃんが毎日のようにタークの所にやってくるようになって、半年ほど経ったあの日。
十四歳の僕、カミル・グレイトレイは、いつものようにメルローズ家の門をくぐった。
屋敷の一角にある訓練所に向かうためだ。
髪に隠したシェンガイトを気にしながら、朝の光が眩しいな、なんて、目を細めて歩いていた。
そんな僕に、「ご機嫌よう、カミル」と、美しい声で話しかけたのは、タークの母、サエラ・メルローズ伯爵夫人だった。
「おはようございます! サエラ様」
「毎日、気を抜かず練習してえらいわ。タークにも見習ってもらわなくちゃいけないわね」
元気に挨拶した僕に、少し悲しげな顔をするサエラ様。彼女を笑わせたくて、僕はタークのいい報告をした。
「最近はタークも頑張ってますよ。イーヴ先生の部隊に入れてもらって、早くポルールに行くんだって、張り切ってるみたいです」
「そうね……。困った子だわ。どれだけ私に心配をかければ気が済むのかしら」
だけど結局、サエラ様はまた、悲しそうに眉根を寄せる。
――練習はしてほしいけど、ポルールには行ってほしくないなんて、相変わらず矛盾してるな。サエラ様。
そう思って、少し眉を持ち上げた僕に、彼女は近付いてきた。
「カミル、今日、訓練が終わったら、私と街へ出かけない? あなたにお話ししたいことがあるのよ」
なんだか、真剣な顔で、僕の手を取る彼女。
「あ、もちろんです。タークやマリルちゃんも誘いますか?」
「だめよ。二人でお話ししましょ」
「分かりました!」
あまりにも珍しいその提案に、僕は心を震わせた。
上品でやさしい彼女が、僕は大好きだったんだ。独り占めしてお話し出来るなんて、ウキウキ以外の何でもなかった。
△
僕が訓練所に着くと、珍しく先に来ていたタークが、なんだかヤケにブンブンと剣を振り回していた。
こんな時のタークは、大体何か悩んでる。僕はもう、流石に分かっていた。悩んだタークはここへ、僕に会いにくるんだ。
それに、悩んでる理由だって、だいたい分かっていた。
少し面倒な婚約者をサエラ様に当てがわれ、まだまだ困惑していたタークは、マリルちゃんと何かあるたび、「どうしたもんだろうな」と、僕に聞いてきたからだ。
『母さんはなぜ、あんな子を僕によこすんだ?』と、その顔には書かれていたけれど、タークはそれを口に出さず、いつだって、うまくいく方法を考えていた。
「また甘い菓子を口に詰められたの?」と、僕がたずねると、「う……カミル。なぜわかるんだ?」と、不思議そうに、君は首をかしげる。
まぁ、なぜ分かったかと言えば、昨日、マリルちゃんに、直接聞いたからなんだけど、僕はそれをタークに言わなかった。
もっと言えば、昨日、マリルちゃんが、
「明日はターク様にアップルパイをお持ちするつもりなんですのよ! ターク様ったら、オヤツは嫌だっておっしゃられるんですもの。早起きして、朝食に間に合うようにしなくちゃいけませんの」
と、言うのを聞いて、『あー、そう言う意味じゃないと思うんだけどな』って思ったけど、それも僕は、マリルちゃんに言わなかった。
「次はサンドイッチにしてくれって、昨日頼んだつもりだったんだけどさ。彼女、どうしたら、僕の話を聞いてくれるんだろうな」
そんなタークの浮かれた恋愛相談なんて、僕はまったく乗る気が無かった。
だから僕は、「知らないよ」と、返事をした。
それから、サエラ様に街へ誘われた話をして、「羨ましいだろ!」と自慢してやった。
「なんだ? 心配だな。街は最近、魔物が出るらしいぞ?」
「大丈夫、魔物が出たら僕がやっつけるからさ」
「ずいぶん頼りない護衛だな。僕も行くよ」
「だめだよ。二人でって言われたんだからね」
訓練の後、まだ心配に顔をゆがませているタークに、「絶対来ないでね」と釘を刺して、僕はサエラ様の元に向かった。
△
街に向かう馬車の中、サエラ様は、何やら楽しげに話していた。
それは、先週行った高貴な社交パーティーで出会ったという、隣国クラスタルの王子か何か、位の高い殿下の話だった。
彼はとても見目麗しく、立ち振る舞いも上品で、完璧だったと言うのだ。軽薄なところがなく、言いよる女性達にも失礼がないよう、丁寧に接していたらしい。
「カミル、あなたは私の娘も同然よ。六歳からずっと、成長を見てきたんですもの。だから、あなたには素敵な人と結婚して欲しいの。あなたにはああいう、慎重なタイプがいいと思うわ」
僕のイーヴ先生狂いを諭したいらしく、他にもいい男はいるのだと、僕に言って聞かせるサエラ様。
――サエラ様は相変わらず、何も分かってないな。
――イーヴ先生は最高に素敵なのに。
その時僕はそう思ったけれど、実際の彼女はもっと、色んなことに気が付いていた。




