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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第13章 冬が来る前に

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09 [番外編]アグス。~研究は失敗続き~

現在続編の執筆が19章まで来ています。そろそろ完結までエタらずに書けそうな気がしてきました。報告がてら、アグスさんの語りで、番外編をお送りします。


続編投稿開始まで、ぜひブクマしてお待ちください。十三章までの感想やレビュー、評価もお待ちしてます♪応援していただけると、きっと頑張れると思います。


続編の進捗状況は、Twitterの、固定ツイのリプにて報告しています。https://twitter.com/koeda25032839

 場所:ポルール(第二研究室)

 語り:アグス・メルローズ

 *************



 いよいよ冬が近づいたポルールは極寒ごっかんだった。


 真冬ともなれば、熱湯が一瞬で凍るほどに街は冷え込み、全てが雪に埋もれてしまう。


 カミルの力で、美しい姿を取り戻したルカラ湖も凍りつき、緑の平原も白一色になった。


 しかし、コルク色の岩肌がき出しの第二研究室は、暗く長い坑道を奥へ奥へと進んだ先にあるため、意外なほどに暖かい。


 以前は坑道にあふれていた魔物達も、イーヴの率いる第一騎士団にすっかり退治され、最近はかなり、安全に移動出来るようにもなっていた。


 私、アグス・メルローズは、日本から来たタツヤと共に、ここ数ヶ月、この研究室にこもっている。


 今私が行っているのは、ゼーニジリアスから、精霊の力を取り除く研究だ。


 この一年、私は思いつく限りの実験をゼーニジリアスに対し、これでもかと繰り返した。


 しかし、それらは一つとして、うまくいかなかった。


 精霊ゾルドレと契約していた大地の力は、彼女が一方的に契約を解除したらしく、ある日を境に急に消え失せた。


 しかし、水の精霊アクレアが投げ出した水の力は強大だ。カミルがあっという間に湖を作ってしまったことを考えても、このままこいつに持たせておくのは、危険すぎるだろう。


 精霊を拘束こうそくする石、メロウムで動けないままにしておかなければ、何をするか分からない。


 精霊の力というのは非常にやっかいなものだ。


 タークが身にまとう光を、闇で一気に消し去る計画も、必ず成功するとは限らない。


 少しでも何か間違えれば、タークを闇に突き落としてしまう可能性だってあるのだ。


 その上、闇のモヤの回収となればまた危険が伴う。あれは魔物を生み出すだけでなく、少し吸い込んだだけで、意識を失ってしまう危険物質だ。



 ――本人が自分の意思で、誰かに愛のある譲渡じょうとのキスをする。それが、今はっきりわかっている、唯一の方法だ。


 ――精霊の力は一度受け取ってしまうと、簡単に消せるものではないな……。



 しつこさには自信のある私だか、最近はほんの少し、気が滅入めいっていた。



「アグスさん、今日はずいぶん顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」



 考えこむ私に、タツヤが心配そうに話しかける。


 彼は今十九歳だ。今は見た目もタークと同じだが、普通の体を持つ彼は、この先、当たり前にとしをとっていく。


 しかし、タークはどうだ。


 今までは順調に成長してきたが、これから先、あいつはずっと、今のままだろう。


 今は、のほほんとしているように見えるタークだが、あいつはいつか、間違いなくつらくなるはずだ。


「あぁ。平気だよ」


 タツヤにそう返事をしながら、私は壁際かべぎわの道具棚の上に飾られた、妻の遺影を見上げた。



 彼女が死んでしまって以来、この曇った心が、完全に晴れたことは一度もない。


 愛するものが先にってしまう悲しみは、経験しないと分からないものだ。



 ――サエラ……。君がいてくれたなら、こんな時、なんて言っただろう。


「アグスさん、少し休憩しましょう。ターク君は不死身のことなんて、たいして気にしてないですよ」



 タツヤはそう言うと、温かい紅茶を私のテーブルに置いた。外よりずいぶん暖かいと言っても、室内の気温は五度程度だ。タツヤのやさしい気遣いが疲れた身に染み入ってくる。



「タークは、自分のことを深く考えようとしない。実際に体験するまで、危機感を持たないだろうな。だが、実際のところ、あいつは、人一倍孤独が苦手じゃないか」


「それは、確かに。彼、あぁ見えて人懐っこいですからね。人に会うのが好きですよね」


「あぁ。それに、ひどく一途だ。あいつがイーヴみたいなやつなら、私だってここまで心配はしないさ」


「みやちゃんが居なくなったら、彼は千年でも独り身をつらぬきそうですよね」



 タツヤはそう言うと、困ったように眉尻を下げた。



「やはり、早めになんとかしてやらないといけないな」


「でも、今はあのベッドで、かなり強力に力を吸い取ってますからね。ターク君の寿命じゅみょうは、減ってるんじゃないですか?」


「そうかもしれんが、違うかもしれん。わからんな。今のところ、あれはただの、安眠ベッドだ。下手な期待はさせられない」


「アグスさんの努力は、きっとむくわれますよ」



 しばしばこうして落ち込む私を、タツヤはいつも、やさしい言葉で励ましてくれる。


 しかし、闇の魔道具である異世界ゲートを、他の属性の魔力で動かそうとする彼の研究もまた、随分ずいぶんと険しい道を辿たどっていた。


 肩を並べてため息をつく私達は、まるで仲のいい親子のようだ。



 ――それにしても、長年想っていた女性を、タークに持っていかれてもなお、研究を続けるタツヤの執念しゅうねんは、タークの斜め上を行っているな。


 ――タークも何とかしてやりたいが、タツヤもどうにかしてやりたい。

 

 ――しかし、彼の願いが叶ってしまったら、毎日会えなくなってしまうんじゃないか?



 いつかタツヤが、ここから居なくなってしまうかもしれないと思うと、私の胸は寂しさに、ギュウギュウと締め付けられた。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] アグス様の達也と過ごして感じたものはターク様と似ていることもあるのでしょうか? これはアグス様になんらかの変化が!? 続き楽しませていただきますね( ´˘` )
[一言] 花車様おはようございます! ここへ来て達也がいなくなる事に寂しさを感じるみやこ。 いや、君にはターク様がいるではないかー笑 続き楽しませていただきますね(* ᴗ͈ˬᴗ͈)” 今日もよろしくお…
[良い点] なんて複雑な(;ω;) 締め付けられるような心理描写でした(;_;) 達也推しだった私もグラングランと揺れてきました(;ω;) 最早三角関係ではないですね、難しいです_(┐「ε:)_
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