07 冬が来る前に3~異世界のメリークリスマス~[挿絵あり]
場所:タークの屋敷
語り:小鳥遊宮子
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ルカラ湖で久しぶりに皆に会った夜、私とターク様は、メルローズの屋敷に戻って来た。
いそいそとメイド服に着替え、ワゴンで紅茶を運んできた私を、ターク様は不満げな顔で見ている。
「ミヤコ、もういい加減、メイドはやめてもいいんじゃないか?」
ソファーに座って紅茶を飲みながらも、そんな事を言うターク様。彼は私を、この部屋に戻したくて仕方がないらしい。
「そうもいきませんよ。このお屋敷は広くて人手不足なんですよ?」
「人手不足なら人員を補充するから、な?」
私の手を引いて隣に座らせたターク様は、甘えるように私を見つめる。
「私の仕事を取らないでください」
「歌だって忙しいし、いいじゃないか? 屋敷にいるときはお前と一緒にゆっくりしたいんだ」
軽々と私を引き寄せ、紅茶の香りがする唇を私の唇に押し当てる彼。
アグスさんに貰ったベットを、隣のベッドルームに運んで以来、鎧を着たターク様はお部屋では殆ど光っていない。
前は夢の中にでもいるみたいで、フワフワするばかりだった彼のキスが、光を流し込まれるという事もなくなって、なんだか妙にリアルに感じる。
リアルなターク様は、控えめに言っていつもの十倍眩しい。
――ターク様とゆっくりしてたら私、どうなってしまうの!?
ドキドキが大変な事になっている私に、「今日こそ私と一緒に寝てもらうぞ」と、今度は耳にキスをするターク様。
「ひゃん……わ、私、達也との約束が……」
とっさに、「夜にターク君の寝室には入らないで」と言う、ずいぶん前の達也との約束を言い訳に逃げようとする私。
当然ターク様は、不満げに眉を顰めた。
「あいつはあいつで楽しそうじゃないか? あんなに女達にチヤホヤと囲まれて……」
――そ、それは、同感です。
黙り込んだ私を改めて引き寄せ、ターク様はキスの雨を降らせる。
「あいつの名前を出したりして、私を止めたいなら逆効果だって分かってるよな」
そう言うとターク様は、ひょいっと私を持ち上げて、ベッドルームに運んで行った。
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「なんだかずいぶん明るくないですか?」
「そうなんだ。眠りにくくて困ってる」
ベッドルームの奥に据えられたシェンガイトのベッドは、この一年ターク様の光を吸収し続け、キラキラと激しく輝いていた。
「最初は安眠出来ると思ったが、こうもベッドが輝いたのではな……。タツヤの研究はまだ終わらないのか? この魔力をゲートに使いたいと言っていたが……」
「そう言えば、これ、今日達也に渡されたんですけど。ベッドが明るくなったら押してみてって言ってました」
湖のほとりで、達也に渡された小さなスイッチをポケットから取り出す私。
「なんだ?」
「聞いたんですけど、いいからいいからって渡されました」
「相変わらず肝心な事を言わないやつだな」
よく分からないながらも、ポチッとスイッチを押してみる私。
「わ、なんだ?」
明々と光っていたベッドがシュンっと黒くなり、とたんにベッドルームが暗くなった。
「あれ? なんだか外が明るくないですか?」
「メルローズの街が輝いているぞ……?」
「これは……。ターク様、屋敷の外に出てみましょう」
△
キョトンとしているターク様の手を引いて、庭から屋敷を見上げると、お屋敷は色とりどりの電飾で飾り付けられ、キラキラに輝いていた。
「サンタにトナカイって……これ、クリスマスイルミネーション……?」
屋敷の屋根の真ん中には、でかでかとメリークリスマスの文字が輝き、屋敷に生えた大きな木は、まるでクリスマスツリーのように飾り付けられている。
「クリスマス……って何だ?」
「あっちの世界はこの時期こんな感じなんです」
「何の研究してるんだ。あいつ、本当に帰る気があるのか?」
「あはは……。でも凄いです。街中輝いてますよ! ターク様、街に出てみましょうよ」
「そうだな」
私達は手を繋ぎ、ゆっくりとメルローズの街を歩いて回った。キラキラと輝くイルミネーションに、街中の人が驚いて通りに出て来ていた。
「りょうしゅさまみたいにキラキラだー」
「すごぉーーい!」
「ころぶなよ」
子供達が喜んでターク様の周りを駆け回る。
「ひゃ、冷たい」
手にひんやりした感覚がして上を見上げると、空から雪が静かに舞い落ちてきた。
私のつたない小説にここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございます。
この物語は一旦ここで完結としていましたが、いくつか番外編をはさみ、十四章から後編がスタートします。後編は、残されたいくつかの謎にせまりつつ、ターク様と宮子には、残された数々の問題をクリアして、しっかり幸せになって貰おうという感じです。
そちらの方もよろしくお願いします。




