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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第13章 冬が来る前に

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05 冬が来る前に1~誇らしい英雄達の石像~

場所:ポルール

語り:小鳥遊宮子

*************



 一年後。


 私、小鳥遊(たかなし)宮子はターク様と二人、転送ゲートでポルールの東の端に出た。


 ここから岩山に刻まれた急な階段を少し昇って行くと、斜面に建てられた立派な鉄の扉がある。


 そこはアグスさんの第二研究室に続く通路になっていた。


 扉の前に座っていたアグスさんは、鉱夫のように真っ黒な顔をしていた。



「おぉ、タークよく来たな」


「父さん、またシェンガイト集めですか? 僕のためにあまり無理はしないで下さいよ」


「ははは! お前を元に戻すまで、私は諦めないぞ」



 白い歯を見せて笑うアグスさん。彼は今もここで、ターク様から精霊の力を取り除く研究に没頭している。



「僕は父さんにもらったベッドがあれば十分ですよ」



 その時、アグスさんの後ろの扉が開いて、カミルさんがひょっこり顔を出した。



「アグス様、実験は失敗でした。ゼーニジリアスのやつ、またドロドロになっちゃってますよ」


「なんだと!?」


「今日は諦めて、ルカラに行きましょう。皆待ってますよ! とりあえず顔を洗ってきてください」



「あぁ、そうだな」と、返事をしながら、よいしょ、と立ち上がったアグスさんの背中を押し、扉をくぐったカミルさんは、振り返って私達にウインクをした。



「二人とも、先に行ってて! 研究熱心な二人は僕が連れて行くからさ」



      △



 この一年で復興が進んだポルールの街は、既に精錬所や鍛冶屋などの工場がたくさん出来ていた。


 随分活気の出てきた街の風景を眺めながら、私の手を引きゆっくりと歩くターク様。


 街の真ん中まで来ると大きな広場があり、そこにはイーヴさんとガルベルさんの石像が建てられていた。沢山の人がその周りで寛いでいる。



「わー! 立派ですね」


「師匠が英雄になると言うのは、思いの外嬉しいものだな」


「ガルベルさんの像は王都にもあるから二つ目ですよね?」


「あの人の像は国中にあるぞ。目障りだな」


「あはは……」



 そんな事を言いながら、第一砦まで歩いてきた私達。砦の塔の螺旋階段を登ると、屋上にはイーヴさんがいた。



「お! 来たな、ポルールの戦いの英雄たち!」


 背景に薔薇が見えそうな、キラッキラの爽やかな笑顔を見せるイーヴさん。


「英雄は先生ですよ。先生の石像の周りで女性たちが失神してました」


「私の像などどうでも良いぞ! 私はただただお前達が誇らしい。見ろ、あの山の上の土台を。あそこに誰よりも大きなお前たちの石像が立つぞ!」


「フィルマン様の石像より大きいのは流石に困りますよ」



 ターク様がそう言って、二人で見上げた山の上には、彼と私の石像を建てるための、特大の土台が用意されていた。



 ――ひゃぁ……これはもう、ミレーヌは体を返してくれないだろうな……。



 そんな事を考えていると、キラキラと淡く光る緑の風が吹いて、私の髪をフワッとかき上げた。



「シュベールを連れて来たわよ」



 風の中からファシリアさんの声が聞こえ、金色に輝く癒しの精霊が姿を見せた。


 長い間闇に堕ちていたと言う彼女だけど、その美しさは言葉では言い表せない。



 ――なんて神々しいの!? ターク様に癒しの光を授けた精霊さん、やっと会えたわ!



 ターク様のように光り輝くその姿に、私はただただ感嘆のため息を漏らした。



「シュベール! 元気そうだな」


「うふふ、私まで来ちゃって良かったのかしら、可愛い坊や」


「当然だ。会えるのを楽しみにしていたぞ」



 シュベールさんが嬉しそうに空中を一回りすると、金の光の微粒子がサワサワと舞い散る。




 砦の上からルカラ湿地帯を見下ろす私達。


 闇はすっかり浄化され、黒ずんでいた泥は茶色くなって、何処までも泥の海が続いている。



「特等席は空いてるかしら?」



 後ろからの声に驚いて振り返ると、マリルさんとエロイーズさんが階段を登って来た所だった。



「マリルさん! 元気でしたか?」


「えぇ! 元気に決まっていますわ。なんて言ってもわたくし、英雄ですもの」


「大活躍でしたもんね。マリルさん達の石像は、この砦の前に建つそうですよ」


「あぁー! マリル様のこの可憐な姿が石像に! 楽しみすぎます」



 キラキラと瞳を輝かせるエロイーズさんと、得意げに胸を張るマリルさん。彼女はすっかり、誇りと自信を取り戻したようだった。



「みんなー! お待たせ!」



 カミルさんが元気よく現れて、白衣姿のアグスさんと達也、ミレーヌとアグスさんのゴイム達も姿を見せた。



 空に大きな気配を感じて上を見上げると、箒に跨ったガルベルさんと、彼女の魔法で空に浮いているフィルマンさんが、沼地を見下ろしている。



「それじゃぁ行くよーー!」



 カミルさんが両手を上に掲げると、彼女の身体が青く輝き始め、沼地の水分がグングンと空中に吸い上げられ始めた。


 彼女の頭上に、透明で巨大なウォーターボールがどんどん出来上がっていく。


 その大きさは、前に泥まみれになった私たちにシャワーを降らせててくれた時とは比べ物にならないくらいに大きかった。


 泥の中から姿を見せた大地の精霊ゾルドレが地面の形を整え、大きな穴が現れると、カミルさんは大声で叫んだ。



「そぉれぇーー!」



 空中に出来上がったウォーターボールを、バシャーンと穴に投げ込む彼女。


 それを何度か繰り返すと、泥の大地は乾き、大きな湖がそこに出来上がった。


 最後にシュベールさんが湖の周りを飛び回り、茶色い大地は緑の草原に姿を変えていく。



「素晴らしい景色ですわ」


「えぇ……本当に……」



 ふんわりと薄い霧のかかった空に、大きな虹がかかり、美しく澄んだ湖に逆さまに映し出されている。


 程よく湿り気のある冷たい空気が肌に心地良かった。



「父さん、懐かしい景色が戻って来ましたね」


「あぁ。本格的な冬が来る前に、お前にこの景色を見せておきたかったんだ」



 満足そうに笑顔を見せたアグスさんは、ぐしゃぐしゃとターク様の頭を撫で回した。



第一砦に集結した英雄達。復興に沸くポルールには彼らの石像が次々に建てられているようです。そして、精霊達と力を合わせ、ルカラを元の姿に戻したカミルさん。彼女はどうやら、更なる力を手に入れたようです。


次回、美しい姿を取り戻したルカラ湖の周りで、英雄たちはピクニックを楽しみます。



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― 新着の感想 ―
[一言] 復活のポルール! 皆の平和的な様子本当に良かったです(*`・ω・)ゞ 癒しをありがとうございます(* ᴗ͈ˬᴗ͈)” 続きを楽しませていただきますね(*`・ω・)ゞ
[良い点] みんな楽しそうで微笑ましくいい回でした。 それにしても、カミルさんはすごいですね! 特大ウォーターボール! 実力派ですね。 マリルさんも元気になったようでなによりです。
[良い点] すんごいさり気なくカミルさんがパワーアップしていて面白かったです。アグズ様とも息ぴったりですね。地味に彼女の場面だったように思えました。もろに、じゃないさじ加減がいかにもカミルさんの立ち位…
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