03 ターク様、強がりですか?~魔力残量にご注意を~
場所:タークの屋敷
語り:小鳥遊宮子
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夜になって、ようやく帰ってきたターク様は、今朝出かけたときと変わらない、キラキラオーラに包まれていた。
王子様のようなファッションは、やっぱり鎧のときより眩しく見える。
だけどよく見ると、朝はしゃんと伸びていた背筋が、少し丸くなっているようだ。
朝はやさしくなっていた表情も、また昨晩のようにかたくなって、なんだかぼんやりしているように見える。
どうやら、貴族の社交パーティー(たぶん)はかなり疲れるようだ。
「ターク様、なんだかお疲れみたいですけど、大丈夫ですか?」
私にそう聞かれたターク様は、ピクッと眉をあげたかと思うと、丸まっていた背中をしゃんと伸ばした。
「なにを言う。私は不死身の大剣士ターク・メルローズだぞ?」
「はい?」
「不死身の大剣士は疲れたりしないんだ」
「そ、そうなんですか?」
「そうだ」
明らかに強がっているターク様を見て、私は日中、疑問に思っていたことの、答えを見つけた気がした。
この部屋に入ってくるまで、ターク様はシャンとしていたのだろう。メイドさんたちが、彼が疲れてることに気付かないのは、きっと、彼の強がりが原因なのだ。
いままでは部屋に居れば寛くつろげたターク様が、私がいるせいでのんびりできないんだとしたら、それはかなり申しわけない。
私が少し困った顔をすると、私が泣くと思ったのか、ターク様はギョッとしたように一歩後ずさった。
「なんだ? 傷が痛むのか?」
「おかげさまでよくなってます」
「そうか。見せてみろ……うーん。今朝とあまり変わりがないな」
「そ、そうですね」
この世界は魔力のみならず、医療品の類もかなり不足している。この大きな屋敷にも、薬の類はほとんどないらしかった。
ケガ人ということで一日中じっとしていた私だけど、治療といえるようなことは、なにもしていない。
治りきらない傷口は、一日中ずっとズキズキしていた。
――もしあの大ケガをした状態のまま、ターク様が助けてくれていなかったら……。
そう思うと、あらためて背筋が寒くなる。
「傷むのは顔か?」
彼はそう言うと、まだかなり腫れている私の顔に手をかざした。
どうやらヒールを唱えようとしているようだ。
そのとき、私の脳裏に、牢屋で見たふらふらのターク様の姿がよぎった。
ターク様は強がっているだけで、実は魔力がつきてしまうと、結構辛いんじゃないだろうか。そう思った私は、慌ててターク様の手を押し戻した。
「ダメですよターク様、魔力って貴重なんですよね?」
「あ、あぁ……」
「だったら、私の治療はもう、大丈夫です! これ以上ご恩を受けても、お返しができませんから」
ターク様はまたピクリと眉だけ動かすと、詠唱をやめて言った。
「なんだ……お前まで。魔力が減ったからと、私はどうということもないぞ」
「だけど、ターク様、地下の牢屋でふらふらされてましたよね?」
「……あれは、別の理由だ。魔力不足のせいではない。気にするな」
地下牢での話をすると、ターク様は嫌なことを思い出したように渋い顔をした。あのときふらついていた理由については、あまり触れて欲しくなさそうだ。
「剣士さんは魔力が回復しにくいって、サーラさんも言ってましたし」
「それは、確かにそうだが……。お前、そんな傷だらけなのに、治療を拒否するのか?」
「だって、魔力に余裕はあるんですか?」
「まぁ……一応な。気になるならゲージを見てみろ」
「ゲージ……ってなんですか?」
私がキョトンとして聞き返すと、ターク様は少し呆れた顔をした。
「そんな日常的なことまで忘れているとはな……。心でステータスと念じながら私の顔に集中してみろ」
なんのことだろうと思いつつも、言われたとおりにターク様の顔を眺めてみる。すると、いろいろな情報が書かれた半透明の画面が、目の前に浮かびあがった。
――こ、これは……!? ゲームのステータス画面的な!?
私は驚きながらも、ターク様の魔力残量を読みあげた。
「最大魔力、千三百、魔力残量、二十五……? これ、ほとんど尽きてるんじゃないですか……?」
「残ってるほうだ」
「えぇ……?」
私が顔をしかめると、彼はため息をついて言った。
「まぁ……確かに、少しは残しておかないと、またマリルがうるさいな」
「マリルってどなたですか……?」
「いや、まぁいい。なら私のあとに風呂に入れ。湯に加護が残っているからな」
「あ、はい、ありがとうございます」
私の質問を軽くはぐらかして、ターク様はバスルームに消えていった。




