04 順番だよ。~いつかみんなで行こうね!~[イメージイラストあり]
場所:メルローズ本邸
語り:小鳥遊宮子
*************
パレードの翌日、私とターク様は王都にあるメルローズ本邸に来ていた。
先日私達がポルールから帰った日、沼地の精霊の秘宝が浄化され、日本へ帰る方法が無くなったと嘆いていた達也に、「いい方法があるからついてこい」と言ったアグスさん。
「私も行きます!」と叫んだミレーヌも一緒に、あの日以来二人は、メルローズ本邸でお世話になっているのだ。
私達がアグスさんの研究室に着くと、中から随分楽しそうな声が聞こえて来た。
「わ! 似合うー! カッコいいです、タツヤ様!」
「そうかなー? 僕似合っちゃうかな? ありがとう、ニナちゃんもそれ、可愛いよ」
「ひゃーん、タツヤ様ったらー」
「ニナずるーい! タツヤ様、私にも可愛いって言って下さい」
「うん、ユナちゃんも可愛いよ」
「きゃー!」
「タツヤ様、私にもお願いします」
「まってまって、順番ね……!順番」
思わず扉を開けようとする手を止め、固まる私とターク様。
――なになに? 達也が日本にいた時みたいになってる……。この女子達は一体……。
ターク様と顔を見合わせながらそっと扉を開けると、女の子達に取り囲まれ、白衣を着ている達也の姿があった。
「こ、こんにちわ。お邪魔します」
恐る恐る声をかけると、達也を取り囲んでいた女子達が一斉にこっちを向く。
思わずビクッとのけぞった私に、達也は昔と変わらないフワフワした笑顔を見せた。
「みやちゃん! やっと来たね」
「これは一体……と言うかこの人たちはもしかして…」
「アグスさんのゴイムの皆さんだよ」
「ええー!?」
達也と楽しそうに話していたのは、あのポルールで輿に乗って鈴を鳴らしていた三人のゴイム達だった。
――え、魔力タンクになったんじゃなかったの!?
私が唖然としていると、固まっていたターク様が「ミア……?」と呟いた。
「ターク様、お久しぶりです」
そう言ってにっこり笑ったミアさんは、無表情とは程遠い優しい笑顔をしている。
「ど、どうして……?」
動揺に固まるターク様に、ミアさんが事情を説明した。
彼女達が言うには、アグスさんはあの輿を開発して以来、彼女達にサキュラルを行っておらず、彼女たちは誰一人、魔力タンクにはなっていなかったのだ。
「あの無表情は、営業用です。その方がポーションが高く売れるので……」
と、申し訳なさそうに言ったミアさんを見て、ターク様は「嘘だ……」と呟き、がっくりとその場に膝をついた。
△
「それでね、アグスさんが、僕にこれ使っていいって言うんだけど、カミルちゃんが反対しててね」
そう言って達也が私達に見せたのは、カミルさんが闇を込めたと言う、アグスさんが集めたシェンガイトだった。
特殊な箱に詰められていて闇の気配は感じないけれど、箱の透明の部分から、禍々しく光る黒い小さな宝石がたくさん入っているのが見える。
「ターク君の光を取り去るには全然数が足りないらしいんだけど、日本へのゲートを一回開くくらいは出来るだろうって、アグスさんが言うんだよね」
「なるほど……」
「だけどこれ、二人がかなり苦労して集めたものらしいし、僕が使うの申し訳ないかなーって思っちゃって」
「そうなんだ……それは確かに申し訳ないね。アグスさんとカミルさんがターク様のために頑張ったんだもんね」
「そうなんだよ。ゴイムのみんなも凄く頑張ったって言うし、悪いかなって」
達也がそう言うと、ゴイムのニナとユナが、「ねー」と言いながら達也の腕に抱きついた。
「そ、そうか……タツヤが帰りたいなら、私は別に、このままでも構わないぞ」
そう言って引き攣った笑顔を浮かべるターク様。
どうも、ターク様は本当に、不死身でも不死身じゃなくても構わないらしい。どっちでもいいなんて、本当に自分に無頓着な彼らしい。
今彼の顔が引きつっているのはたぶん、両腕に女子をはべらせている達也にちょっと引いてるだけのようだ。
「まぁ……もちろん帰りたいのは帰りたいんだけど、みやちゃんがその気になるまで、僕、待つつもりだから」
達也がそう言うと、「ミヤコは、ダメだ……」と、ターク様は私を自分の後ろに隠した。
そんな彼をチラリと見て、ほんの少し口をとがらせる達也。
「何にしてもさ、ゲートが一回しか使えないんじゃ面白くないじゃない? 異世界ゲートは今のところ闇の魔力でしか起動しないしね……。僕ね、この世界結構面白いから、出来たら日本と行き来出来るようにしたいんだよね!」
達也はそう言うと胸を張り、研究用の白衣を引っ張って見せた。
「僕、ここでゲートを研究するから。目標はそうだな、転送に必要な魔力の省エネかな! 闇以外の魔力でも起動できればもっと良いな」
その時、研究室の扉が開いて、アグスさんとミレーヌが入ってきた。
「タツヤ! よく言ったぞ。お前は私に似て頭がいい! 研究者向きだ」
すっかり達也を息子だと思っている様子のアグスさん。
「タツヤさん、頑張って! 私も日本に行ってみたいです!」
「ミレーヌ! もちろん君も連れて行くよ」
「ずるーい、ニナもー!」
「ユナもー!」
「ミアも行きたいです!」
「分かった分かった、いつかみんなで行こうね!」
フワフワの笑顔を浮かべて、相変わらずモテモテの達也に、思わず「ふふ」と笑いが漏れた。
宮子達が達也に会うためメルローズ本邸へ出向くと、そこにはゴイム達にモテモテになっている達也の姿がありました……。一度だけ日本へのゲートを開けるというアグスの提案を断り、自らゲートを研究したいという達也。彼は宮子の気が変わるのをのんびり待つつもりのようです。
次回からは一年後のお話です。ポルールに厳しい冬が来る前に、英雄達は第一砦に集結しました。




