02 拗ねる前のターク様?~うあー聞きたくないよーー!~
場所:タークの屋敷
語り:小鳥遊宮子
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翌朝、総出で第一砦を建て直した私達は、転送ゲートをくぐり、メルローズの街へ帰った。
「もう一人のタークを見てみたい!」と言うカミルさんとアグスさんに、「面白そうですわね」と言って付いてきたマリルさんと、その護衛のエロイーズさんも加わり、私とターク様は総勢六名でお屋敷に戻り、タツヤのいる客室を訪ねた。
「達也、ただいま……!」
ノックしてみると、扉を開けてくれたのはミレーヌだった。
「ミレーヌ! ただいま!」
「お帰りなさい、ミヤコ。歌はうまくいった?」
「おかげさまで」
出発前、「応援してる」と言ってくれたミレーヌは、笑顔で私を出迎えてくれた。
だけれど、あまりにもゾロゾロと後ろに沢山人がいる事に気付いて、彼女は少し後ずさりする。
そんな彼女に、私を押しのけて部屋に押し入ったカミルさんが勢いよく迫った。
「わ、本当にミヤコちゃんにそっくりだね! 身体はこっちが本当のミヤコちゃんなんだっけ……? うわぁ! 興味深いな!」
瞳を爛々と輝かせて、ミレーヌを観察するカミルさんに、後ろから達也が迷惑そうに声をかけた。
「ちょっと、カミルちゃん、ミレーヌちゃんが困ってるから……」
振り返って達也を見たカミルさんのテンションが更に上がっていく。
「うぅわぁー! これがもう一人のターク? こっちも本当そっくり!」
「驚きますわよね」
何故か一度会ったことのあるはずのマリルさんまで、改めて達也ににじり寄る。
「ちょ、ちょっと……? カミルちゃん、マリルちゃん、流石にジロジロ見過ぎだよっ……! 僕、ターク君とは違うから……」
「わ、本当に僕の事知ってるんだ。カミルちゃん、だって! 新鮮! タークの中から僕を見てたんだね? わ、見て、マリルちゃん。ハートのホクロまであるよ?」
「まぁ! 本当、不思議ですわ……!」
二人に迫られ後ずさりするうちに、壁際まで追い詰められた達也。
――ひゃー、この二人、揃うと迫力ありすぎ!
前回はじっくり見る余裕がなかったせいか、腰に手を当て、顔を突き出すようにして、達也の首のホクロをまじまじと見つめるマリルさん。
達也は顔を赤くして、タジタジと顔を背けた。
「マ、マリルちゃん、近いよ!? み、みやちゃんが見てるから……」
「うふふ、なんだか、昔のターク様みたいで可愛いですわね!」
「本当だ! これ、拗ねて性格が曲がる前のタークだよ!」
なんだか意気投合した様子でキラキラした顔を見合わせる二人を見て、「拗ねてないぞ」と、不満げにつぶやくターク様。
――ターク様は今も十分可愛いと思うんだけど……。
そんな事を考えている私の隣には、なんだか感動した様子で目を輝かせ、「タークが二人……!」と、つぶやいているアグスさん。この人は実は、ターク様が大好きなのではないだろうか。
急に振り返ったカミルさんは、「二人並べてくすぐってみる? 反応の違いを論文にまとめるよ」と、ターク様を引っ張って達也の隣に立たせた。
「カミル、さすが私の助手だ。お前のしつこさと探究心は研究者向きだぞ」
なぜか嬉しそうなアグスさんが、カミルさんを応援している。
「お、おい、辞めないか……」
「わーん、みやちゃん助けて!」
これは、流石に可愛そう! と、慌てて足を踏み出した私の前に、ミレーヌが飛び出してきた。
「タツヤさんを虐めないで下さい!」
壁とカミルさんの隙間から、達也を引っ張り出すミレーヌを見て、私もターク様の手を握り、そっと自分の方へ引っ張った。ふぅ、と安堵のため息をつくターク様。
「ミレーヌちゃん……ありがとう」
「いえ……」
照れたように頬を赤らめるミレーヌを見て、「何だか、この二人、いい雰囲気じゃない?」と驚いた顔で言うカミルさん。
それを聞いて真っ赤になったミレーヌは、確かに達也に好意を持っているように見えた。
――やっぱり、達也はモテるなぁ。
なんて、呑気に考えていると、「こっちの二人もね……」と、マリルさんが私とターク様を指差した。
ターク様の手を握ったままだった事に気付いて、慌てて離してみたけれど、涙目の達也が彼を睨んで、ターク様がビクッと肩を揺らす。
「まさか……!? ターク君!? 僕が居ないのをいい事に抜け駆けしたのか!?」
「ま、待って、達也!」
ターク様に食ってかかろうとする達也を必死に引き止める私。
「離して、みやちゃん!」
「だから、ターク様と達也じゃ、戦力差があり過ぎなんだってば……! 怪我するよ!」
それを聞いて悔しそうに歯をくいしばる達也に、周りの女子達が次々に追い打ちをかけた。
「タークが抜け駆けしたっていうよりはねぇ……」
「ミヤコさんの愛の告白、街中に響き渡ってましたものね。あれじゃターク様も断れませんわよ」
「ミヤコはずいぶん前からターク様にぞっこんでしたよ……?」
――ぎゃー! ミレーヌまでそういう事言っちゃうの!? 酷い!
唖然とする私の前に、ガックリと膝をついて、「うそだーーー!」と叫ぶ達也に、かける言葉が見つからない。
「タツヤ……お前に話さないといけない事が……二つある……。とにかく一度、座って話さないか?」
達也の前に膝をついて、慎重に声をかけるターク様。
「うあーー。聞きたくないよーー!」
ますますうずくまる達也の背中に、ミレーヌが優しく手を添えた。
達也の部屋に押しかけたカミルとマリルの好奇心の目に晒されるタツヤ。宮子とターク様の関係が進んだ事を知ってしまった彼は、今後どうするのでしょうか。
次回は、ポルールの戦いの英雄として凱旋パレードに出る事になった宮子達のお話です。




